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農地は「身近な緑」だと言う回答に衝撃を受けて思いついた「市民農業論」

今回は、ちょっと僕の若い時代の頃の話をします。

1990年代なかば、まだ30歳代の僕は秋田県十文字町(現・横手市)の環境総合計画づくりに関わり出しました。

当時の西成町長は医師であり、秋田県農村医学会の会員でもありました。日本農村医学会会長だった若月俊一氏が院長となった佐久総合病院に併設された農村医学研究所では、1960年代頃より農薬中毒の研究を行っていました。

西成町長も着任後、農薬空中散布の残留影響調査を実施、地元紙が報じた記事のコピーは、漫画「夏子の酒」のワンカットにも登場しています。

さて、当時の十文字町は、町の面積の80%以上を農地と用水路が占めており、「農業の街」に見えました。

「見えました」と言うのは、町内GDPや雇用から言うと、第一次産業の比重は10%台、つまり、80%以上が農業以外で食っている町だったからです。

環境総合計画づくりに先立って町の統計を洗い出した僕は、都会出身で「農村部」の事をよくわかっていませんでした。

ただ、一見、田んぼと畑と用水路ばかりの地域でも、実際には工場やお店、事務所で仕事をして生きている人が多いんだなぁと言うのは、けっこう印象的なデータでした。

僕は、環境総合計画づくりのための町民意識調査に農地についてどう思うかと言う設問を加えました。

経済的には非農業の仕事で生計を立てているとしても、それ以外の価値が農地にあるのだから保全をしようと言うような話を総合計画の中に盛り込みたいと思ったからです。

そこで、回答の選択肢を、「経済的価値」、「食糧生産の場」、「身近な緑」、「その他」としました。

目論見としては、経済的価値は少ないにしても食糧生産の場として評価出来るみたいな回答が多数を占めれば、それを理由にして、農地保全の必然性を訴求出来ると言う事でした。

ところが、回答第一位は、まさかの「身近な緑」でした。

つまり、非農業の仕事で生計を立てている「農村部」の人達は、目の前に広がる田んぼや畑を「身近な緑」だと思っている・・・

この集計結果には、かなりの衝撃を受けました。

そして、その衝撃から思いついたのが「市民農業論」です。

「市民農園」なんて言わずに、その身近な緑にみんなで接しちゃえばいいじゃないか、「市民農業」を盛んにすれば、耕作放棄地も減らせるんじゃないか・・・

そう言うアイデアでした。

今にして思うと、半農半Xとか都会人の農業参加みたいな事を僕が始めて思考回路に乗せた出来事だったと思います。

しかし、環境総合計画策定のための町民協議会では、通りませんでした。「都会の人はスゴイ事を考える」と言われてしまいました。

それこそ農村部で「都会の人はスゴイ事を考える」と言うのは褒め言葉ではなく、「斬新すぎてついていけない」と言う意味だと知ったのもこの出来事を通じてでした。

こうして、市民農業論=半農半X的な方法で耕作放棄地を減らし田園景観を守ろうと言う考えは、「スゴすぎてついていけないアイデア」と評価され、環境総合計画に盛り込まれる事はありませんでした。

ですが、1)「農村部」と呼ばれる地域でも経済的には非農業でみんな生計を立てている、2)その非農業で生計を立てている人達は農地を身近な緑だと思っている

この2点は、僕の心に強く残りました。

(トップ写真はイメージ映像です。)


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