本稿は2022年6月23日に行われたTwitterスペース「三ヶ月 外来種食べたけど質問ある?」の感想である。
外来生物問題は関心を持っているテーマであり、駆除や啓発、法手続きの実務も多少担当したことがあるので、このスペースにも関心を持っていた(当日は仕事のため聞けず、後日録音を聴いた)。またメインホストのさかな芸人ハットリさんをはじめ、スピーカーの皆さんの活動にも興味があった。
本稿では、スペースを聴いて気になった点の指摘と単純な感想(所謂「お気持ち」)が混在する。極力それらを分けて論じたいが、読みにくい点があることについてあらかじめご容赦願いたい。また、少々批判的なニュアンスを含む場合あるが、私は日頃からホスト及びスピーカーの皆さんの活動や理念には尊敬の念を持っており、それらそのものを批判する意図はないことを宣言しておく。
発言をほぼ原文ママで引用する場合は下記のとおりとし、私の意見や感想は太字とした。
軽いアイスブレイクを兼ねて、外来種の定義がハットリさんから紹介された。国内外来種や遺伝的撹乱にも触れられおり、WoWキツネザルさんが「このスペースを聴くだけで外来種や外来種問題のことが分かるきっかけになれば」と述べた通り、このスペースがただの雑談スペースではなく啓発を目的したものだという意図を感じることができた。
自己紹介を経て、WoWキツネザルさんが促す形で代表的な外来種、気になる外来種などが紹介され、マーシーさんからはブラックバスとブルーギル、山内さんからアメリカザリガニとミシシッピアカミミガメ、川田さんからミステリークレイフィッシュ、WoWキツネザルさんからキョンが紹介された。いずれも侵略的外来種である。ここまでの流れから、このスペースでは「外来種」と言った時、それは「侵略的外来種」を指していることが前提であることが推察できた。しかしながら、それが明言されないこと、あるいは説明がないことが気になった。なぜなら、WoWキツネザルさんがこの件りの前段で、本スペースの概要を次のように説明したからである。
この一文目の「誤解」については例示されなかったが、外来種問題を取り上げるとき、侵略性を考慮せずに論ずることこそ数ある「誤解」の元凶(あるいは誤解そのもの)の一つであり、不毛な「論争」の原因となる齟齬であると考えられる。もちろんホスト及びスピーカーの皆さんは当然の前提として承知しているとは思うが、「啓発」を目的とするならば、ここは「すべての外来種が外来種問題を引き起こすわけではなく、中には農畜産物のように有用なものもある。外来種の中でも生態系に悪影響を及ぼす恐れのある「侵略的外来種」が駆除等の対象となる」ということを丁寧に説明するべきであったと思う。
その後はハットリさんの活動の紹介から、最近食べた外来種の話題に。山内さんがウチダザリガニを紹介したところで、「アメリカザリガニと違って、持ち帰って泥抜きすることができない」と言う話が出た。ここから特定外来生物の話となる。
持ち帰って泥抜きすることができない理由として、外来生物法によって捕まえたものを移動することができないことが説明された後、琵琶湖ではさらに条例でキャッチアンドリリースが禁止されており、回収ボックスが設置されていることが紹介された。ここでWoWキツネザルさんが川田さんに問いかける。
これに対し川田さんは「どうしたらいいんでしょうね」と応じ、
この指摘は重要な点であり、全面的に同意するところである。しかしながら、WoWキツネザルさんの問いかけに対する返答としては軸をずらしており、残念であった。確かに難しい問いかけであり、私自身も明確に答えることはできない。しかしこうした簡単に答えが出ない問いこそ正面から捉え、このメンバーで議論して欲しかった。
また、ここまでのやり取りの中で「特定外来種」という言葉が3回発せられた。いうまでもなく正しくは「特定外来生物」である。しばしば間違えられる言葉ではあるが、啓発を目的としているのであれば、せめて法律用語は正しく使っていただきたい。
川田さんと入れ替わりで小坪さんが加わり、外来種をメディアで扱う際の難しさ、というテーマに。
ここでは下記の山内さんのお話が印象的だった。
このスペースの大きな柱の一つである普及啓発の具体例。特に掘り下げられずに琵琶湖博物館の話になってしまったが、反響やお客さんとどのようなやり取りをしたか、など、現場の手ごたえを聴いてみたかった。
前回のスペースのおさらいから、ニジマスの話題に。小坪さんより、ニジマスでは放流がよくニュースで取り上げられTwitterでも話題になるが、漁協が行う放流は法に基づく増殖義務に基づき行われているものであり、違法ではない。批判されるべきは漁協ではなく、そういう仕組みになっているということが問題であるとの話があった。
これも重要な指摘である。放流そのものを批判しても仕方ない。また、環境教育の名目で行われる放流とも分けて考える必要がある。
小坪さんは、これを変えるためには政治を変えるしかないと指摘。
これを受けて、山内さんから放流によらない増殖をしようとする漁協の取り組みが紹介された。河川環境を保全することによって遡上数を向上させたり、親魚を減らさないようにする取り組みとのこと。しかし、こうした取り組みによって増殖しても、増殖義務における増殖にカウントされず、そうしたところも変わっていったら良い、と訴えた。その取り組みによってどれだけ増えたか効果が見えにくいことが原因だという。
増殖義務を量で課している以上、定量的に評価できない取り組みが実績として考慮されないのは仕方がないことだ。一方、生物多様性保全の観点からは、外来種を放流しなくても在来種が増えるよう環境を整える方が望ましい。やはり仕組みを変える必要がある。
議論が生物多様性保全からの視点に偏ったところで、山内さんの重要な指摘。
ここをしっかり押さえておかないと議論が霧散する恐れがあるし、漁業関係者と話すときにも話がかみ合わなくなってしまう。
以下水産庁の資料より抜粋。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/aramashi3.pdf
つまり、漁師(漁獲物によって収入を得ている人)や遊漁者のための放流ということになる。しかし一方で、「内水面漁業の振興に関する法律」には下記の規定がある。
以上により、生物多様性保全に配慮した資源管理手法を検討することは、法の理念にかなっていると考えられる。
これを踏まえ、WoWキツネザルさんの次の発言を考えてみる。
確かに別の話ではあるが、法に規定されていることであり、今後はその調整を図っていかなければならないだろう。
また、放流をやめた場合、放流魚の漁獲によって収入を得ている人にとっては死活問題かもしれないが、実質的には遊漁者のための放流という面が大きいのではないだろうか。そうであるならば、天然魚の自然増殖という手法に転換することは、簡単とは言わないが、実現可能性はあると思われる。
こちらは海水魚の話題であるが、参考までに。
WoWキツネザルさんがSDGsの視点から、経済、社会、環境がそれぞれ軋轢なく成り立つようにするにはどうするのが理想なのか小坪さんに意見を求める。
目先の利益だけではなく未来を見据えて生物多様性のためになる取り組みをするべき、ということかと考えられる。例えば、放流の中止によって一時的に不利益を被る人がいたとしても、環境整備による天然魚の増殖に方針転換するという道を選ぶということだと考えられる。
これを受けたWoWキツネザルさんのコメントは以下の通り。
ここが重要な部分で、今はまだかろうじて選択肢が残っていて、より良い方向に行く選択をしなければならない。そのために学んだり普及啓発をしなければならないと思う。
続いて、産業との兼ね合いについて、ハットリさんの問題提起。
厳密には新しい枠組みを作ったというわけではなく、法規制の一部を適用しなくてもいいことにしたということ。
また、生態系被害防止外来種リストを法に位置付ける議論はなされている。
https://www.env.go.jp/content/900517831.pdf
種ごとは無理でもリストのカテゴリごとに扱いを法律に定めるべきというのは同感。ただしそれが釣り業界の啓蒙を促す流れにつながるかは疑問
WoWキツネザルさんからマーシーさんに、ブラックバスやブルーギルに対してどういう視点を持っているか、という問いかけ。
続いて小坪さん
マーシーさんの感覚は残念ながらよく理解できる。また、小坪さんのアイディアは面白いと思った。
これを踏まえ、WoWキツネザルさんから、違法な釣り人にどう対応するべきか、という問いかけ。
ハットリさんから
まず特外指定の際、釣り業界関係者を交えた協議、ヒアリングはしっかりやっている。
例えば、「第1回特定外来生物等分類群グループ会合(魚類)オオクチバス小グループ」には「利用関係者」として全国内水面漁業協同組合連合会専務理事、(社)全日本釣り団体協議会専務理事、(財)日本釣振興会副会長・外来魚対策検討委員会委員長が名を連ねている。
釣ってはいけないという法律ではないのになぜそこまで気を使わなければならないのか疑問。一部で漁業権を設定するという譲歩はしている。駆除に理解が得られないというのも、生態系への影響を理解してないからとしか思えない。また、施行直後にそうしたわだかまりがあったとしても、既に施行から15年以上が経過している。これは釣り業界内での啓発不足が原因であろう。
釣り業界の人を交えてのスペースについては、生態系保全についてどのように考えてるか聞いてみたいところではあるが、建設的な議論になるか疑問。すでにハットリさんが釣り業界の代弁者的な立ち位置で参加しているので、それで十分かと思れる。
バス釣りについてどう感じているか。
まずマーシーさん
続いて山内さん
これに対しWoWキツネザルさんから
本来ならば対話をして相互理解を深めたいところであるが、皆さんがおっしゃる通り非常に難しい状況である。
個人的には、釣り業界で影響力のある人が、コミュニティや釣り雑誌等で問題提起し、釣り業界内で生態系保全意識の醸成が図られるのが良いと思う。しかしながら、昨年、外来種の定着は環境の変化のせいだとするトッププロのツイート(下記)が物議を醸したように、残念ながら望みは薄いと考えている。
地道な啓発を続け、世代交代を待つしかないのかもしれない。
WoWキツネザルさんから、マーシーさんが動画を出す際の美学について問いかけ
そのとおりだと思う。世論を作らなければならない。そのための普及啓発が必要。より多くの人の関心を引くために動画のタイトルやサムネイルが過激になってしまうのは、私自身は正直好まないが、ある程度必要なことだということは理解している。
続いてWoWさんから
前半では一般の人の理解を得るのに難しい点がまとめられている。この部分についてどう発信して理解を得ていくか、というのはこのスペースの核心だと思うので是非議論してほしかったところであるが、やや違う話になってしまった。
「正しい/正しくない」「適切/適切じゃない」については意図がよくわからなかったが、後日ツイートにて補足があった。
小坪さんからは、会社に属している強みと弱みがあるという話があった。
続いて山内さん
2人のコメントを受けて、WoWキツネザルさんから
小坪さんと山内さんの対比が面白かった。なので、WoWキツネザルさんがおっしゃる通り、いろんな立場の人やいろんな媒体がそれぞれの強みを活かして発信していく(弱みを補い合う)ことが大切なのだと思う。
一方で、発信者としての責任は、組織に属していようがいまいが負うべきものだと思う。
ハットリさんから、前回のスペースを受けてのお話
小坪さん
駆除した個体を利用して収益を得る事業を考えた場合に、根絶を目標としている以上は、事業として持続性がない(あってはいけない)こと、その結果として事業が継続できなくなる(根絶できなくなる)ということかと思われる。市場原理を持ち込むことがそぐわないということがよくわかるお話であった。
そして外来種の「活用」というテーマで話すとき、その定義を確認することは大事だと思う。人によって「活用」という言葉に幅がある。
WoWキツネザルさんから、マーシーさんは今まさに外来種の商用利用をしているが、外来種がいくなったらどうする?という問いかけ。
これを受けて、WoWキツネザルさん
ハットリさん
さらにWoWキツネザルさん
野外の外来種の話なので、養殖業はこの文脈とは異なる。また船などの設備を揃えて外来種を捕獲することによって生計を立てている人がどれほどいるだろうか。マーシーさんのような人たちを除けば、釣具メーカー等の釣り業界は打撃を受けるかもしれないが、そもそも侵略的外来種がのさばることで維持されてきた業界と考えれば、仕方ないのかもしれない。在来種を対象とした事業に転換することもある程度は可能であろう。侵略的外来種の根絶によって在来種が増え、在来種を対象としたマーケットが拡大することも期待できる。
このスペースの後小坪さんが開いたスペースや公開したnoteにあったように、いずれ養殖業も含めて侵略的外来種を利用した事業が成り立たなくなる世の中が来るかもしれない。
さらに、ハットリさんから小坪さんに「根絶をゴールにした産業って作れないのか」という問いかけ。
目から鱗の視点。是非ハットリ工房に頑張っていただきたい。
ネイチャーポジティブについては、例えばこちら
まとめ
まず、ホストおよびスピーカーの皆さんの熱意に敬意を表する。さまざまな話題があり、得るものもあった。特に小坪さんの話や、山内さんの水族館の取り組みや増殖義務の話は大変勉強になった。
全体としては、外来種問題を語る時にはサイエンスベース、エビデンスベースで語りたいという思いを新たにした。エンタメ要素も必要な場面があることは重々承知しているが、今回のスペースのような雰囲気は自分としては肌に合わないと感じた。また、私が掘り下げて欲しいと感じたところが特に掘り下げられずに進んだり、話の流れが「そっちに行くのか」と思うような点がいくつかあり、私自身はターゲット層ではないのだろうと感じた(これは受け手=私の問題である)。
外来種=悪ではない、というのは正しいが、それを強調しようとするあまり、逆に外来種問題を矮小化してしまうのではないか、という懸念を抱いている。今回のスペースでも侵略性について特に触れることなく「外来種」という括りで話が進んでいたが、「外来種が悪いわけではない」と強調しすぎることによって、侵略的外来種による深刻な被害が軽く捉えられてしまわないか懸念がある。侵略的外来種が生態系に及ぼす影響は間違いなく「悪」である。それをマスキングしてしまうことにはならないだろうか。誤解を恐れずに言えば、侵略的外来種による被害を軽んじられるくらいなら、「外来種=悪」と捉えてもらっていた方が良いのかもしれない、とさえ思う(もちろんメディア等で殊更に「外来種=悪」と取り上げることが良いとは思わない)。今回のスペースでも、特に前半部分では、味であるとか、侵略的外来種に対して親しみを抱かせるニュアンスが強かったように思う。それ自体は否定しないが、侵略的外来種の侵略性を覆い隠してしまうのではないか、との懸念を抱いた。
外来種問題を正しく理解してもらうためにはどうするか、という命題があるとすれば、まず生態系というものを朧げにでもイメージできるようになってもらわないと難しいのではないか、と考えている。「外来種は悪くないが害がある」と言ったときに、その害とは何か、というと、「生態系に害がある」ということなのだから、その生態系がどんなものか、それが害されることによって我々人類はどのような不利益を被るかということがイメージできなければ、外来種問題は理解してもらえないだろう。そこを理解してもらった上で、初めて命を奪うこと(駆除)にも理解が得られるのだと思う。侵略的外来種の駆除は我々の生活を守るための取り組み、すなわち生存競争でなのである。我々は子供の頃から「命は大切」と刷り込みに近いような道徳教育を受けてきた。それを乗り越えるには「侵略的外来種の駆除は生存競争(生き残るための行為)」ということを理解してもらわなければならないだろう。そこの理解をすっ飛ばすのであれば、「侵略的外来種は悪者だから退治するんだ」と捉えられることも(特に子供に対しては)容認せざるを得ないのではないだろうか。
参考として、小坪さんのソース集のリンクを貼っておく。大変参考になるので、是非ご一読を。
県がいきなり0カーボンを推進し始めた時の衝撃は記憶に新しい。だから生物多様性保全に関しても同じような流れがあることはあり得る。ショックをなるべく抑えるためにも、日頃から考えておく必要があるだろう。
乱文失礼。以上。