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「まぁるい日本 国家安全保障(ビジョン2100)」No15~Ⅱ-2:日米関係(その1)

■全般

米国をどのように見るかは、安全保障、防衛戦略を考えるときの大前提で、日米関係は日本の安全保障そのものである。

圧倒的な国力、特に軍事力の差がある二国間関係において、自国の安全をどこまで同盟国に委ねるのか、軍事的な協力関係をどこまで期待するのか、何を期待されているのか、競合する国益は何なのか、譲れぬ一線はどこにあるのかなどについて、幅広く深く考察しておかなければ、過度の依存心を生んだり、論理的思考を失わせて感情的になったり、我が国の安全保障の前提や判断に大きな揺らぎを生じさせる。
かつて国の命運をかけて戦わなければならなかった関係であれば、なおさらのことである。
二国間に戦争が生じたのは偶然のことだったのだという見方もあるけれども、必然性もまたその中に隠されている。
何故そうならざるをえなかったのか、その必然性について考えることが日本の最大の教訓であり、健全な日米関係を築くための糧になる。

第一に、リムランド国と海洋国家である日本と米国は、お互いに共通する国益を持ち、さまざまな点において協力し合うことが有利な地政学的条件を有している。
海洋国で、貿易立国あることから、国の発展と繁栄を維持するための国益が世界中に広がっていて、国際社会の平和と安定を保つことが不可欠である。

第二に、自由と民主主義という価値観を共有する。そして、高度に文化的な生活を営んでいる。

第三に、世界のGDPシェア第一位と第三位を占める両国は、国際社会の平和と安定のみならず、国際秩序の恩恵を最大限に享受している。
両国が繁栄と発展を継続するためには、現在の国際秩序を維持しつつ、国際情勢及びそれぞれの国内の変化に合わせて、穏健な方法をもって、緩やかに平和的に世界システムを発展させていくことが望ましい。
日米は、国際秩序を維持しつつ、安定的な発展が可能な国際社会を実現するという共通する目標を持っている。

第四に、米国はさまざまな分野において圧倒的な力を持つ超大国であるが、その根本において自由と民主主義という価値観を重視し、各国の自助努力を尊び、その国力に応じて応分の国際的な責任を果たすことを求めている。
日本は、国際社会において“応分の責任”をどのように考えるかについて国内の考え方がまとまらず、憲法を理由にして軍事的役割を分担することには極めて慎重になっているが、国際社会の中において“名誉ある地位を占めたい”と考えている。
“応分の責任”と“名誉ある地位”は表裏一体で、米国が日本に求めるものと、日本が国際社会において目指している方向は基本的に一致している。

第五に、両国の異質さが持つ相互補完性とでもいうべき特性である。
例えば、米国は軍事大国として軍事力を提供し、日本は軍事小国として基地を提供している。
国際活動では、米国は第一線での活動、日本は後方支援重視の活動を担い、役割を分担している。
米国はグローバルな情報力を持ち、日本はアジア地域における独自の情報力を持つ。
米国は、戦略性に優れた大胆なリーダーシップを発揮するが、必ずしも全面的にアジア諸国の共感は得ていない。しかし、他国のために血を流す覚悟があるので軍事的に頼りにされている。
日本は調整能力に優れた穏健なリーダーシップを発揮してアジア各国の共感は得ているが、大きな変化への迅速な対応は不得手で、特に軍事的処置を必要とするときには全く頼りにされていない。
米国は、圧倒的な科学技術力、なかでもチャレンジングな取り組みを必要とする基礎的な科学技術力に優れ、日本は応用的な技術力に優れる。
米国は一国で大胆かつ斬新な戦略的改革を打ち出すが、日本は他国の動向を伺って協調的に行動したがり、改革よりも対処療法的な改善を好む。
アメリカン・ウェイ・オブ・ライフは、明るく開放的で、多くの人たちに受け入れられて異文化を吸収する多様性に富んでいる反面、異文化に溶け込む努力に欠け、圧倒的な文化的影響力はアメリカナイゼーションとして文化摩擦を招いている。
日本人の生活態度は几帳面で規律正しく、独自の文化は時として堅苦しく独善的で、異文化を受け入れることを拒んでいるかのような印象を与える反面、スマ-トさがあって、自ら異文化に溶け込む努力をする柔軟性があるなどの例を挙げればきりがない。

日米両国は、長期的、大局的視点から判断すれば国益が一致しているので、経済的関係など、個別に競合する分野での問題は、平和的な手段で解決を図ることができる。
経済問題などの短期的な利害関係で、日米の安全保障の骨幹に関わる“永遠の国益”を根本的に損ねる必要はないし、決して損ねてはならない。

SEAN BAKER ( MARVIN01 | TALK ), CC BY 2.0 HTTPS://CREATIVECOMMONS.ORG/LICENSES/BY/2.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

■米国の国力への評価

国際関係が複雑化してさまざまな米国衰退論が出ているが、見通しうる将来、米国は、世界の超大国であり続ける。
むしろ、米国衰退論は無用な混乱を生む。

一九八〇年、太平洋貿易が大西洋貿易を上回り、現在ははるかに凌駕するようになった。将来はさらにその差は大きくなると考えられていて、この二つの経済圏が世界のほとんどの富を創出する地域になることは間違いない。
米国は、大西洋と太平洋の中央に位置し、世界で最も経済的に繁栄しているアジア正面と政治的な重要性を握り第二の経済規模を持つ西欧正面、この二つの地域へ誰にも邪魔されることなく自由にアクセスできる絶対的な地政学的条件を持つ。
それに加え、世界第一の軍事力、特に海軍力を持ち、情報通信技術と通信網の大部を抑え、航空機産業は世界随一を誇る。
米国と西欧諸国は、国際社会の秩序維持に関して連携をとり政治的なリーダーシップを握り続ける強い意志を持っている。

二つの経済圏へのアクセスを自由にして、情報通信網をほぼ支配し、海空の交通手段握り、ドルという基軸通貨を操って西欧と連携して国際秩序を創り出し、かつ軍事的な手段をもって国際秩序を回復する能力を持つ国は、米国以外にない。

異境の世界であった東洋と西洋の二つの地域をユーラシアの陸路で結びつけて、一つの“世界”を初めて意識させたのはチンギス・ハーンの元帝国であった。
一六世紀以降、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリスは相次いで、西欧諸国にとっての“新世界”に進出する。

実質的な“世界”は、交易圏を拡大した西欧が、産業革命を経て大量生産能力を獲得した一八世紀以降、人と金と情報で西洋と東洋を結びつけたことに始まる。
大開拓時代が終了すると、米国が世界の海洋国として登場し、かつて新世界に進出した西欧の宗主国と手を携え、欧米を中心とした世界秩序の基礎を構築するに至った。

現在の国際秩序は、米国一国だけの歴史ではなく、一六世紀以降、欧米のエスタブリッシュメントが五百年以上の時間をかけて引き継いできた歴史の産物である。
米国の歴史は約二百五十年だが、国際秩序形成の歴史は、その二倍の長さを持つ。
日本の歴史は二千六百年以上かもしれないが、国際秩序形成の歴史に加わったのは、やっと百年、実質的にはその半分程度でしかない。

その後、米国が冷戦に勝利して、世界中が一つの市場を形成するに至って初めて、自由主義経済圏のルールが七十億人の国々に適用される文字通りの世界秩序となった。
これは米国が、戦場となって疲弊した自由主義国に軍事支援と経済援助を与えて勝ち取った文字通りの“勝利”であって、無為に時間が流れたものでもないし、ソ連が内部に抱えた問題のゆえに自ら崩壊したわけでもなかった。
その政治的努力の結果、勝利した米国は、他国の追随を許さない超大国としての役割を担うこととなった。

さらに、冷戦後の世界経済の大発展は、米国を中心とする自由主義国が、旧共産国や第三世界の国々に資本と技術を移転し、市場を開拓しようとしたことによって生まれたものであって、米国が意図した通りの結果かどうかは分からないが、発展と変化の発端は米国にあった。
米国がこれまでに構築してきた世界システムの実効性と、将来にわたって世界システムを強化しようとする意志力、軍事力、技術力、資本力、世界中から超一流の人材を吸収する社会的なシステムと包容力。
どれをとっても米国は、他国の追随を許さない。

国際的な秩序は、そもそも軍事力のバランスによって自然と決まるものである。世界の軍事的超大国であり続けるのに必要な地政学的条件を備え、明確な意志を持って超大国であり続けるための世界システムを構築しようとしている国は、米国以外にない。
そして、さまざまな不具合が生じても、それを修復するだけの圧倒的な力と柔軟な発想力を持っている。
その他の国は限定的な対処はできるが、最終的には、米国を支える以外に現実的な選択肢はない。

その米国の力を支えているのは人的パワーである。
このままのペースで世界中から移民を受け入れ続けると、米国の人口は現在の二億人から、二〇五〇年には五億人にまで増加する。同時期、日本及びEUの主要国は高齢化して軒並み人口を減少させ続け、発展途上国が人口を増加させる。
二〇世紀は、世界が歴史上最も大きな経済成長を遂げた時代であったが、これは主として発展途上国の人口増加と軍事科学技術の飛躍的発展によるものであり、先進国から発展途上国への資本と民生技術の移転がそれを支えた。
二一世紀も発展途上国は、人口増加を続け、先進国が形成した世界秩序のなかで、先進国がもたらす技術移転を受けて、経済成長を続ける。
日常生活に必要な商品を生産するレベルの技術は、容易に移転することが出来るし、その市場は世界中で拡大する。
世界の人口は低開発国を中心に増加し、市場規模は二〇五〇年には九十二億人になると予想されている。
低開発国、発展途上国の成長率が高いために、相対的にG八の地位が低下するように見えるだけで、先進国の優位が失われることはない。
先進国で唯一、質の高い人口増加を続ける米国だけは、高成長を続け、群を抜いた経済大国の地位を維持する。

全地球的に経済規模が拡大していくから、二〇世紀のように、米国が世界のGDPの圧倒的なシェアを占めることはないが、これは決して米国の力の低下を示すものではない。
順調に経済発展を遂げた国々が、必ずしも米国を中心とした先進国の言うなりになるわけではないから、米国は他先進国との協調的な姿勢を一層重視する。
新興国には、国際秩序の維持と応分の役割分担を求めながら、リーダーシップを発揮する。
同盟国を育て、国力に応じた応分の責任を果たすことを求める伝統的な外交政策の実現に他ならない。

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