あなたにどうか呪いがかかりますように


梅干しおにぎりが世界で一番好きだ。

私は人生において何かで一番になったことなど一度もないが梅干しおにぎりを愛する者の世界大会が開かれるなら必ず一番になれる。いや、なる。そう言い切れるくらいに梅干しおにぎりを愛してやまない。

どうか梅干しおにぎりを想像してみて欲しい。

まずなんといってもあのフォルム。三角だろうと丸だろうとどんな形でもおにぎりはおにぎりとして存在する。手で握ってもサランラップで巻かれてもコンビニのあのお馴染みのやつで包まれても、ひょっこり顔を出したらいつだってあいつらはセクシーなおにぎりだ。
そして、そのおにぎりの中に内包される梅干しの存在感たるや、鬼に金棒。おにぎりに梅。完璧な組み合わせの米と梅干しがおにぎりとして合わさることでお互いの良さを極限まで高め、まさに絶妙な塩梅の味に仕上がる。これぞまさにマリアージュと言えるだろう。その素晴らしさはもはや筆舌に尽くし難い。
猥雑なプロパガンダ的なものに賞を与えるよりもおにぎりの中に梅を入れるという選択をした先人に何かしらの賞を与えて欲しい。

そして、梅干しおにぎりはいつどこで食べても変わらずにそこにいてくれる。
学校行事で登った三瓶山の頂上で食べた塩味がより身体に染みた梅干しおにぎりも15時間労働をした後に食べたスーパーで半額割引されたカチコチの梅干しおにぎりもいつだって私の腹と心を満たしてくれた。
家だろうと外だろうと、子どもだろうと老人だろうと、全ての人にとって不変is梅干しおにぎり。

私はいつどんな時も梅干しおにぎりが好きだったし、これから先も好きだと言える。地球最後の日に食べたいのも梅干しおにぎりだし、人生最後の瞬間に食べたいのも梅干しおにぎりだ。

今、全身全霊を込めて大汗をかきながら男梅のような顔をしてこの文章を書いている。

もう一度言わせて欲しい。

梅干しおにぎりが世界で一番好きだ。

私は今、この文章を読んだあなたに呪いをかけた。梅干しおにぎりの呪いだ。あなたがコンビニで梅干しおにぎりを選ぶ時、家で梅干しおにぎりを握る時、誰かが梅干しおにぎりを食べるのを見た時、その他諸々それぞれ限定的だが、その瞬間にこの瞬間を一瞬だけ思い出すだろう。男梅のような顔をしたやつが梅干しおにぎりへの愛を語った文章があなたの脳内を駆け巡るはずだ。そうあって欲しい。走馬燈のように速くはない。きっとおむすびころりんで穴におにぎりが落ちていくくらいの速さだろう。
その間だけ、あなたはきっと嫌なことを忘れることが出来る。
嫌なことは全て梅干しおにぎりに変わる。

この呪いは残酷な呪いだ。刹那的な時間とはいえ誰かの脳内を梅干しおにぎりで満たしてしまうのだから。
ただ、人は忘れてしまう。忘れてしまったらこの呪いは解けてしまう。生まれてからこの方、呪術師だったことはただの一度もないが呪術師が主人公の漫画なら読んだことがある。27巻まで。だから、もしかしたらどこかの誰かに、と祈ってしまう。もちろん最初からかからない人もいるかもしれない。でも、それはそれでいい。

呪う事と祈る事がいつだってタダなのがこの世の中の素晴らしいところだと思う。

だから、今、苦しくてしょうがなくて、ずっと嫌なことばかり考えてしまっているそんな人たちに。もちろん人間じゃなくても可。宇宙人なら会ってみたい。梅干しおにぎり美味しいよ。食べてごらんよ。

あなたにどうか呪いがかかりますように。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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