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「本物」

久々の更新になってしまいました。
SAIAKUNANAです。元気ですか?
私はイギリスから帰ってきて2ヶ月と少し経ちました。
ギャラリーのこと、帰国間近のこと色々文章に書きたかったけれど毎日がむしゃらにやっていたらなかなか書けずにいて、でもこのnoteを楽しみにしていてくれた人がいたら嬉しいな。今じつは私のイギリス生活2年間のドキュメンタリーを作っていて制作も大詰めになってきたよ。楽しみにしていてくれたら嬉しい。今月には発表できるはず。ここに綴れなかったこと全部そこに詰め込んでいるすごいものになりそうだ。そのことについては、また今度書きたいな。

久々にnoteに書きたかったのはイギリスで出会ったある人のことだ。
その人が亡くなったニュースをつい最近に見て、どうしてもここにも書きたかった。
その人は私のギャラリーのすぐそこの通りの道路にいつも座って絵を描いていたアーティストであり路上生活をしている人だった。
私がギャラリーの休み時間や、店番が終わった後コンビニにお菓子やジュースを買いに行く、その道でいつも道路に座って歩道や、看板に直接絵を描いたり、その辺で拾ってきた紙に殴りがいたりしていた。
私はその人のことをショーディッチ(ギャラリーがあるエリア)のカリスマだとずっと思っていた。
ギャラリーを初めて間もない頃や、イギリスでの生活にまだ不安を覚えて「このままやっていけるのだろうか?」と自分自身に問い詰める時期が長かった頃。イギリスにいると本当に孤独であったり、友達もいないので、なんというかずっと不安だった。ここには書けなかったこと、SNSで発信できなかった期間。もう何もネットは見たくないぐらい追い詰められてた。
日本でやってきたことが木っ端微塵にくだけるぐらいにイギリスでの生活は厳しかった。「楽しい」だなんて言えたのは最後の数ヶ月ぐらいだったと思う。今までより絵が描けなくなったり、それでも毎日描いてたんだけど、今見ると不安を殴り描いたような線や、日記が転がっている。

そんななか、彼は路上生活をしてようがずっと描いてた。
道ゆく人が彼をアーティストとして見る人もいれば、ホームレスの人だと思う人も沢山いる中、どうでも良さそうな感じで一心不乱に街に自分の絵を描きまくっていた。その姿はものすごく眩しかった。

彼には愛犬がいた。
愛犬のことをずっと絵に描いていて、ショーディッチはその犬の絵がよく残っていた。自分の不安なんて大したことねえかもな。とその人を見ると思えた。

紙がなければ、地面がある。
金がなければ、アイデアでどこまでも。

いつまでも彼は美しかった。
自分なんて甘ったれで、自分の悩みなんて。そんな風に思えた。
彼とは一言も喋っていないのに、彼の生き様から勝手に勇気がでる。かっこいい人だ。自分が好きなロックミュージシャンの音楽のようだ。
自分は誰もわかってくれないかもしれないけど、きっとあの人ならわかってくれるんじゃないかな。っていう気持ちでよく聞く音楽があって、彼の生き方や絵からは同じような音がした。
そんな彼のことをずっとカリスマだと思っていたし、「こんな風に生きてみたいな。」と思えた人に久々に出会えた。

数ヶ月彼と一言も喋らずとも勝手に念を送りながらその道を歩いていたが、ある日彼がギャラリーにやってきてくれた。
一言目に「このギャラリーは、ショーディッチで一番かっこいい。」と言ってくれて、絵を見ていってくれた。帰り際に数枚彼の絵をプレゼントしてくれて、愛犬と一緒に店から楽しそうにでていったのだ。(愛犬もギャラリーをうろうろしながら絵を見ていた。)
私は心がものすごい熱さになった。と同時に、あの人が良いっていうなら間違いないさ。と今まで抱えてた不安をいきなりかき消してくれるようだった。
その後彼は私のギャラリーの隣のグラフティだらけの壁に愛犬を殴り描いていった。「壁があるなら描きたいんだ。金にならなくても、誰にどう見られてもどうでもいい。」そんなこと言葉にしなくても彼の生き様は語ってた。
こういう人が「本物」なんだと思った。
こういう人が本当の芸術家だと思う。「描きたい」という衝動、こんなにある人は自分の人生で見たことがなかった。圧倒的にすごかった。
「ああ、自分まだまだだな。やらなきゃ、やりたい。もっとかっこいいものが描きたい。」そう思えるんだ、街をかけ走りたくなるぐらい、初めて歪んだギターでときめいた夜ぐらいに、「なにかやれるかもしれない。」そんな根拠のない自信を初めて握ったあの日ぐらいに、胸が弾む。

夏にはいってから、あの通りに彼がいなくなる時が多かった。
もう日本に戻るのに、まだ彼の絵が見たかったのに、閉店まで彼はその道に現れなかった。
夏前に会った時に20ポンドで小さな絵を彼から買った。日本に帰ってから自分の部屋に飾りたいと、思って買った作品が今も自分の部屋にある。
あの時会って、作品を手に入れられたのは本当に奇跡だったのだ。
自分の部屋で、不安になるとき、彼の絵を見るとどうでもよくなる。ロンドンの部屋にもずっと飾っていておまもりのようにしていた。
でも彼はもういないんだ。
あの道でもう会えない。
自分がイギリスに行くのがあと1年遅かったらどうだっただろう。
そもそも行かなかったら?
絶対的に大切なこの気持ち、握り続けられてただろうか?
「すぐ忘れちゃうよ。忘れた方がうまく渡れる。」軽々しく世の中というのはいってきやがる気がして滅入るよ。
忘れる奴がうまく世渡りできるのも滅入るよ。
でもそんなのかっこ悪いじゃん。
そんなのどーでもいいから、俺は描くぜ。と今もフラフラその辺でやってる気がしてしまう。
彼は死ぬまでやったのだ。
あんな風に、美しく生きていたい。
ここ毎日その言葉ばかりが自分の中をめぐってる。
いつかまた君に会いたい。

私のギャラリーの隣の壁に彼の愛犬と私の女の子
私のスタジオにいまもいる。


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