見出し画像

蟪蛄春秋を識らず

その夏はひとりで残ると言い張る子どもを妻の実家に置いて自宅に戻った。
その夜には「人形の目が光ったからすぐ迎えにきて。」と電話が入り仕事の都合がついた自分ひとりで妻の実家に向かった。タクシーには玄関先で待ってもらい、出されたお茶も口をつけただけで子どもを連れて駅に戻った。そして帰りの特急に乗り込んだところ、追いかけてきた義父母が車両に乗り込んできた。初めて列車の中まで見送りにくる人たちを見てとても戸惑ってしまった。子どもを見るとうれしそうに義父母と話している。発車時刻となり渋々車両から出た義父母は手を振りながら動き出した列車を追いかけてきた。

義母の七回忌。
法要のあとご住職からいただいた「蟪蛄春秋を識らず」の故事を引いたお話しをききながら、義父母に優しくしていただいたことを思い出した。あの夏休みは4年ぶり復職した年だったけどに何も聞かず迎えてくれた。そのことがどんなにありがたいことだったかしれない。

おふたりとも急な病で早くに亡くなられてしまって空き家になった実家を少しづつ片付け始めた。