見出し画像

言葉を失ったあとで

はじめから買えばよかったのだと思う。毎日図書館の予約リストの順をチェックして、ようやく私の順番が来た。首を長くして待っていた。

都会の真ん中でDV被害、加害の人々に向き合う臨床心理士の信田さよ子さんと、
地元の沖縄で、性被害や若年出産の女性に向き合う教育学者の上間陽子さんの6回にわたるトークショーを納めた本。
信田さんは私の親世代、上間さんは私たち世代、世代も見つめる地域もアプローチも異なるのに、2人の距離感が心地よい対話だった。信田さんが、ご自身のことや心理学会の中についてこれだけお話されているのも珍しい。

一貫して被害者の女性と加害者の男性、という構図で2人の見てきたものが語られるが、そこにフェミニズムのようなものはあまり感じない。
信田さんの記述を読んでいつも思うのは、アルコール依存症からDVへと領域を持つ中で、そこで被害を受けていたのが圧倒的に女性であるという紛れもない事実だ。(日本のDV相談の8割は女性)
信田さんご自身が、その方々に助けられた感覚が強いから、その人たちの権利のために言葉を紡いでいることがベースにある。ともに戦ってきた目線からの言葉は、力強い。

私も心理の仕事をしているが、お2人の仕事ぶりが、私には到底できないと怯んでしまう。
何故だろう、知識や経験ではないんだと思う、熱意?覚悟?いや、心地悪さに留まっていられる強さなんじゃないかと思う。
私はお2人がぐっと地に足をつけ踏ん張る、そのずっと手前の時点で逃げ出してしまう気がする。
格好悪いけど、仕方ない。自分を今のキャパシティを知った上で仕事をすることも、専門職として必要なことだと捉えている。

上間さんの「海をあげる」は、いい加減図書館の予約を待つのは諦めよう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?