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八月の銀の雪/月まで三キロ

負荷のかかる1週間だった。大学生とディスカッション、小中学生のカウンセリング、乳幼児の親の心理相談。全て対面で人のエネルギーを受け取ったからか。(昨年はほとんどがオンラインだった。)
電車に乗る時間が長いので、移動中は無心でこの2冊を読んでいた。作者は理系の院卒(専門は地球惑星物理学)。全ての短編には様々な自然科学の院卒者や研究者が登場し、自然科学の澄んだ佇まいが語られる。
色で言えば限りなくグレーに近い薄水色のイメージ。自然の摂理の如く、周期性を持って進むから、心が乱れず受け止められる。大学生のピンクのネイルや、情緒的なやりとりとは対照的だ。たぶん私は、この薄水色の心的イメージが本来の自分に近いのだろう。ページを進めることで、前日からの負荷がすーっと吸収されていくような感覚があった。

ちなみに複数のストーリーに、つくば市が登場する。道路の名称や研究所の名前からおおよその場所が視覚イメージで映し出せるから、情景に浸れて嬉しい。

交差点を右折し、学園西大通りに入る。ここからつくば駅方面に向かうのが、ここ数ヶ月のお決まりのコースだった。右手には土木研究所の敷地がひたすら続く。

伊与原新「月まで三キロ」エイリアンの食堂

今週の私には過不足ない満点の作品だった。
でも、読み手の無茶苦茶な願いを言うなら、自然科学のもつ魅力を、また別の表現手法で期待したい。なんというか、登場人物に知識を語らせるのではなく、自然の摂理を、物語の枠組みにはめ込んでストーリーを展開させるとか。今度はもっと、ぐっと、「そうきたか!」を楽しみたい。


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