コロナ禍で響いた言葉は誰のどの発言だったか振り返ってみた

緊急事態宣言が発出された4月からの約2ヶ月間、普段テレビをあまり見ない人でも情報番組に目を向けたことだろう。

日夜、論客達が議論を交わしていたが、誰の、どの言葉が、あなたには一番響いただろうか。

2020年5月10日に放送されたMr.サンデーでも、橋下徹さん始め多くのコメンテーターらが議論を交わしていたが、番組途中、こんな発言がある人物から飛び出した。

「なんで今こんなことになってるのか、今こそ子どもたちにこのことを教育すべきではないのか」

話の流れ的にもちょっと逸れていたこの発言は、番組の雰囲気的にも視聴者（ネット民）的にも、

「は？」

という空気が流れた。

これは、爆笑問題・太田光さんの言葉だった。

テレビに出てくるコメンテーター達は、常に好戦的である必要がある。

「なるほど、私もあなたと同意見です」と全員が一致してしまったら番組が成り立たない。

「いや、それは違う、あのね、君が言ってるのはね…」と切り込めない奴に出演の資格はない。

すると、いかに相手を言い負かすかという、口先三寸のポジショントークが乱舞する構造になっている。

そこで繰り広げられる饒舌な言葉たちに、僕らは「ああなるほど」「頭いいなあ」「さすがだなあ」と思わせられる。

しかし、2、3日も経てば不思議と、誰が何を言っていたかまるで思い出せない。

ビジネス本や自己啓発本を読みふけり、自分にもなにかできそうな気がして奮い立つも、気づけばわずか数日で元の日常に戻ってしまっていた、ということはないだろうか。

出版物は売るために作られている。誰にとっても刺さるような耳障りの良い言葉が並べられている。

これは占いとよく似ていて、一時的に気持ちをほぐしてやることが彼ら仕事であり、求められる技術だ。

占いも自己啓発本も、対処療法としては有効だが、本当の意味では心に響いていないから、さして記憶に残らない。

「なんで今こんなことになってるのか、今こそ子どもたちにこのことを教育をするべきではないのか」

という太田光さんの言葉はつまり、英国数理社の垣根さえ越えて、コロナはどこから始まり、世界はどんな対応を取り、日本の大人たちは今なにをしているのか、それを教育の現場から伝えるべきではないのか、子どもたちは今こそ、「学びたい」「知りたい」という欲求があるはずだよ、と。

それを理解するために、国語であり、数学であり、歴史であり、もしかしたら理科も必要になるわけで、だから勉強が大事なんだ、ということを教える最大のチャンスじゃないか、と。

もちろん現実的には、こんなこと無理だ。

どの教員が、どの時間割で、なんの資料をもとに教える？

ただでさえ逼迫しているこの状況下で、そんなことをして受験はどうなる？

でも、この二ヶ月間を振り返ってみると、一番よく覚えていたのが、太田光さんのこの言葉だった。

それは、この言葉に、魂がこもっていたからだと思う。

スマホ一つで答えが瞬時に分かるこの令和時代を生きていく子どもたちにこそ、検索してもわからない答えを探せる教育をすべきだと、僕も思う。そしてそれは大人もだ。

テレビはエンターテイメントショーだから、ワーワーやってていい。ポジショントークもいい。そっちの方が見ていておもしろい。

ただこのコロナ禍においては、本当に危機的状況に置かれている人が山ほどいる。その予備軍はさらにいる。

日本がこれからどうすべきか、この国がどちらを向いていけばいいかを、一度でいいから建設的に議論してみてほしい。

いわゆる討論エンタメショー的な番組ではなく、知恵を振り絞って、全員で力を合わせながらいい解決策を探る、問題解決に向けたガチのやつ。

出演者は例えばiPS細胞の山中教授や、ウィルス学者の河岡義裕さん、ソフトバンクの孫正義さんに、ユニクロの柳井正さん、教育改革実践家の藤原和博さん、数学者の新井紀子さん、そして日本の知の巨人、解剖学者の養老孟司さん、などなど。

否定も禁止し、ケンカも起きない。議論を交わす番組としては盛り上がらず、おもしろくないだろう。というより、こういう人たちに会議を開いてもらって、それを見させてもらうといったような、そんな番組、誰かやってくれませんかね。

…おそらく実現はせず、やはり討論エンタメショー的な番組が今後も制作されるだろう。

なので僕らもよく注視して見る必要がある。自分を良く見せたいのか、日本を良くしたいのか、どちらの立ち位置から出てきている言葉なのかを。

さすがだなあ、頭いいなあ、という流麗な言葉たちに、僕らはいつだって飛びついてきた。

でも振り返ってみると、その言葉たちは驚くほど残らない。消えたのは時間と金だけ。

頭を良く見せたいだけの饒舌な言葉より、日本のことを考えた下手くそな言葉のほうが、今は必要な気がする。