2019 第32節 : 名古屋グランパス VS サガン鳥栖

2019シーズン第32節、名古屋グランパス戦のレビューです。

■ スタメン

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前節出場停止だったクエンカが左サイドハーフに復帰。ボランチは前節ベンチ外だった松岡がスタメンに。中盤は松本戦とはガラッと変わって、クエンカ、原川、松岡、小野で構成するセントラルハーフ陣となりました。ブロックを固めてくることが想定される名古屋に対し、徹底的にボールを保持して殴り倒そうという意思が垣間見えます。半年前の対戦時にはまったく想像すらできなかった構図ですね(笑)右サイドバックは、契約上の問題で出場できない金井に代わって原が入り、フォワードも豊田がスタメン復帰となりました。

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■試合
試合開始早々から鳥栖が先制パンチ。ここ最近の傾向ですが、サイドバックとのロングボールにおけるデュエルでイニシアチブを取れる豊田に対してボールを送り込み、その裏のスペースで待ち構えるクエンカにボールを渡すという形がよく見られます。試合開始から早速その形がうまくはまり、豊田の競り合いのボールを受けたクエンカがカットインからのシュートを見舞います。この先制パンチが効いたのか、序盤は鳥栖がボールを握る展開となりました。

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鳥栖は、配置的には左右ともに両サイドバックの三丸と原が幅を取り、サイドハーフのクエンカ、小野がハーフスペースでボールを受けて名古屋の守備組織に問題を与えるという役割をこなしました。左右非対称となるケースが多い鳥栖としては、両サイドが対称的というのもなかなか珍しい形です。鳥栖の両ボランチは、松岡がツートップの間で受け、原川はツートップ脇の右サイドのエリアで受ける形。この形は、選手は変われども松本戦と同様でした。ボールの前進の選択肢としては、ボール保持しながらのビルドアップがファーストチョイス。セカンドチョイスは、豊田をターゲットとしたロングボール。ロングボールはサイドで受け入れてサイドバックの裏に流し込む形です。

これに対する名古屋の守備ですが、サガン鳥栖サポーターならば言わずもがなとでもいうべきでしょうが、マッシモらしいまずはしっかりと守備に人数をかけて失点を最小限に抑えたいという陣形を取りました。攻撃に人数を割けない事はあっても、守備に人数を割けないということはありえないという哲学です。鳥栖の高い位置を取る両サイドに対しては、サイドハーフが下がって対応。左サイド和泉、右サイド前田というアジリティに優れた選手がいるので、ポジティブトランジションでは、リトリートした位置からのカウンター攻撃での飛び出しにも対応できる配置を取ることができます。

鳥栖がボールを保持している状況で、まずは4-4ブロックを組みながらパスコースの出先に網を張る形を取りました。鳥栖の最終ラインでの保持に対して、名古屋は人数を合わせるのではなく、ジョーがセンターバック二人をまとめて面倒みます。面倒を見るといっても遮二無二プレッシングに行くわけではなく、中央へのコースを切りながらサイドに誘導する形。長谷川やセントラルハーフ陣が、脇のエリアでボールを受ける原川を監視し、ビルドアップの出口の封鎖を狙います。

右サイドでボール保持したかった鳥栖でしたが、名古屋の陣形から考えるとビルドアップを抜け出す最短の経路は、秀人が持ち上がる形。ジョーがしつこく追ってこないため、また、三丸が高い位置を取ることによって前田が監視する役割が生まれるために、秀人の前に持ち上がるスペースができるケースが多くありました。名古屋にとっては、秀人に持ち上がられるというリスクはありますが、左サイドのクエンカ、三丸、時には持ち上がった秀人まで上がっている状況となると、格好のカウンターのスペースが生まれます。このスペースを狙ったカウンター攻撃で名古屋のスピードのあるサイドハーフが躍動していました。

三丸と前田のデュエルの勝率も影響がありまして、右足が使えない三丸に対しては、縦方向の突破さえ抑えればクロスの危険性が減るため、スピードで勝る前田の方にデュエルの軍配があがるケースが多く、左サイド突破のリスクが少ないため、持ち上がるスペースは秀人にくれてやってもいいという選択になったかもしれません。

名古屋は、ジョーが必要以上に動き回ってプレッシングに行かないというプレイも奏功しておりました。彼が中央に鎮座することによって祐治をピン留めして中央に引き寄せることができるので、高い位置を取るサイドの裏のスペースが名古屋にとっては確保される仕組みができています。金崎のように、動き回ってスペースを使い倒す役割もあれば、ジョーのように動かない事で味方にスペースを与える役割もあるということですね。また、カウンターの場面では長谷川が素晴らしいフォローを見せていました。ジョーにボールを当てた時にはジョーから前を向いてボールを受ける役割、サイドからの侵入の際には、サイドの選手のフォローに入って裏に抜けて相手を引き付けたり、サイドからの展開における中継点を担ったり。

鳥栖も左サイドが出ていくばかりでは、幾度か狙われたカウンターのリスクも高くなるので右サイドからの崩しを計りたいところ。しかしながら、名古屋が原川からのパスルートを消すべく前線のマークを寄せたため、ボール保持は行うものの狭いスペースの中での攻略が必要となり、グループもしくは個人によるはがしが必要となりました。そこで活躍の機会がでてくるのが原。松本戦でも表しましたが、彼の魅力は1対1で前方に突破できる力を持っている事。和泉とのデュエルを見事に制し、サイドでボールを受けてからの突破で見事にPKを獲得しました。ところが、このプレイで原が負傷退場。鳥栖としては、右サイドの突破の切り札となる選手を失い、非常に大きな痛手となります。原に代わって出場したのは小林。当然のことながら、右サイドの単騎突破を担う選手ではないため、鳥栖は配置の変更が必要となります。

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原に代わって小林が入ったことにより、右サイドに幅を取る選手が小野へとスイッチ。小林はビルドアップに参画してから機を見て高い位置を取るように出ていきます。小野がサイドにいるときはハーフスペースへ、小野がハーフスペースに入ってきた時はサイドへ。この辺りは原の交代によって攻撃の起点を小野が担う事になり、小野の動きを見て原川と小林がポジションを決める形へと変わりました。

効率のよい練り上げたカウンターを繰り広げつつも、鳥栖の帰陣が早くなかなかシュートチャンスまで結びつけられない名古屋。状況を打開するべく、25分頃から名古屋が高い位置からプレッシングする形へと変化を始めます。これまではどちらかというとパスの出先を抑える形でしたが、サイドハーフを1列上げてパスの出元を抑えようとする形への変更です。鳥栖の配置と動き方が理解できたため、ビルドアップで抜かれても守備の再セットアップが可能になったことにより、高い位置でボールを奪う確率を上げようというところでしょう。

名古屋が出元を抑えようという形に対抗して、豊田を生かした長いボールを蹴るのではなく、あくまでも鳥栖はボール保持を選択しました。ボール保持の立役者となったのは松岡。松岡が下がってビルドアップ対応することによって、数的同数による圧迫を回避する形をとりました。さらに、松岡は下がった位置だけでなく、一度最終ラインでさばいてからそのあとに1列上げて中央で前を向いてさばけるので、キーパーまで押し込まれて最後は蹴るしかないという状況に陥るのを上手に回避する功労者となっていました。

名古屋にとっては、サイドハーフが前に出て行ったときに、ネット、米本まで積極的にプレッシングに行くという策は取りませんでした。ボランチが出ていくと金崎がそこに入ってくる形を作られるので、前線からプレッシャーを与えるもののそこで奪いきろうとするまでの策ではなかったのかと。鳥栖は松岡を経由するしか方法はなかったので、彼を狙い撃ちにするという策も取れたのでしょうが、松岡に圧迫をかけると中盤に人を寄せられたところで、今度は豊田へのロングボール攻勢でまとめて前に出てきた中盤を越されるという攻撃が待っているので、天秤にかけた結果、この形が最善だったと考えたのでしょう。いずれにしても、その名古屋のボランチの動きをよく見て、松岡が上手にポジションを取ったことは、鳥栖のボール保持の肝ではありました。

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鳥栖のボール保持による攻撃がメインだった序盤でしたが、名古屋も高い位置から抑えにかかってきたこともあり、また、鳥栖も前半のプレッシングからややブロックを保つ守備へとシフトしたことによって、名古屋がボール保持する展開が生まれます。名古屋の攻撃は、ビルドアップの補佐は米本でしたが、鳥栖のプレッシングに勢いが出だすとネットも最終ラインでのボール保持に参画し、鳥栖のプレッシングの回避に重点を置きます。鳥栖も豊田と金崎がしっかりと動いて圧迫はかけようとするものの、前線からのプレッシング一辺倒ではなく、名古屋のボール保持の時間帯が続くと、きっぱりとあきらめてブロックをつくる守備へのシフトしていきました。ブロックからディフェンシブサードまで押し込まれると、この試合でもセントラルハーフを駆使して、最終ライン間にスペースを作るのを防御する策をとりました。

ビルドアップの抜け道はサイドにその糸口を見つけようとしていました。最終ラインでボールを保持しながら、いかにして宮原と吉田にボールが入れようかという所。そこからのパターンとしては、サイドの位置からジョーにボールを送ってそこからの落としで裏のスペースを狙うのが一つ。サイドバックとサイドハーフとのコンビネーションによる縦への突破(もしくはサイドハーフのカットイン)この2つのパターンが名古屋の狙っているメインパターンでした。サイドからジョーに入れてからの落としを長谷川がよく狙っていたので、この形は準備してきたものだったのかなと。

両チームとも守備ブロックがしっかりと機能しており、名古屋はサイドハーフ(前田、和泉)、鳥栖はボランチ(松岡、原川)が最終ラインのケアをしっかりと行ってスペースを与えなかったために、アタッキングサードで行き詰まって、少しボールを戻して最終ラインを経由してからの逆サイドへの展開という、中央を割れない展開が続きます。

鳥栖は、豊田起用という所もあり、小林、三丸はデュエルではなかなか縦に突破できないということもあり、比較的浅い位置からでも簡単にクロスを上げる形も見せましたが、サイドからのクロスに対しても中央にしっかりと人がいたため、飛び込んでくる選手のスペースが狭く、はじき返されるばかりでなかなかシュートにまでつながりません。それは名古屋もおなじ事で、ジョーおよび豊田の高さだけでは攻略できない、堅固な守備組織網でシュートすら打たせてもらえない展開となりました。ちなみに、小林は久しぶりの出場でまだ体がなじんでいない感じでしたね。彼らしくないボールコントロールも多く、前進できるような場面であっても、パスが乱れて逆に相手がラインを上げるきっかけをつくってしまうようなミスもありました。

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両チームともに相手のミス待ちの様相を呈してきた堅い試合となりましたが、鳥栖は、この閉塞的な展開を打開しようと、後半から、配置を変えました。原の離脱によって右サイドでの数的同数の組み立てに苦労していた鳥栖は、原川のポジションを左サイドにおき、クエンカとともにパスワークによる崩しを狙います。さらに、前線の金崎をハーフスペースでボールを引き出す位置に配置することによって、サイドハーフ、サイドバックがクエンカ、原川、金崎を見なければならなくなり、必然的にブロックの外でフリーとなる三丸をボール保持の経由地として利用します。左サイドでのゲームの組み立てがメインとなったことにより、小野にクロスからのフィニッシュの役割を与えようという形にもなりました。

後半の開始こそ、名古屋に押し込まれはしましたが、この配置によってふたたび鳥栖にボール保持から侵入できる時間帯が訪れます。60分には右サイドからの展開を受けたクエンカが、ボランチのプレスが緩い隙をついてハーフスペースに構える金崎に縦パス。そこからのレイオフを受けた原川が抜け出してシュートを放ちます。ランゲラックの好セーブの前に得点こそなりませんでしたが、後半のポジションチェンジの効果を発揮する組み立てでした。

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試合全体を通じて、カウンター攻撃の設計の差は感じました。名古屋は、中央の起点はジョーが担い、サイドの裏のスペースにサイドハーフもしくはサイドバックを縦に走らせ、長谷川はボールの動きに合わせてサポートをとるという、いかにして少ない手順でゴール前までボールを運ぶのかという共通意識がありました。サイドの深いところに入っていくことができれば、最後はカットインからのシュートも選択肢として持っている選手たちばかりなので、少人数で決めきってしまうような脅威を感じます。

鳥栖は、これまでなるべくセントラルハーフを下げずに最終ライン4人でゴールを守り、カウンター攻撃に出る際には人数を駆使して前に出ていく形を採用していました。特にアンヨンウは個の力でデュエルを制してからのクロス、シュートという形を持っている選手なので、攻撃力という意味では大きなパワーを持っている状況でした。

しかしながら、ここ最近では、スタメンで起用されるのはアンヨンウではなく、福田や原などの守備面での対応に優れている選手を活用し、最終ラインをケアする守備組織にしています。ここ2試合は、セントラルハーフを下げてでも守り切る形をとったため、無失点という恩恵を受けていますが、その分カウンター攻撃にかかる人数が足りないというジレンマに陥っています。

更に、鳥栖は、スタメンのフォワードのふたりが、カウンターの起点となるさばきや縦へのスピードで勝負する選手ではなく、ゴール前で威力を発揮できるタイプの選手となっています。金崎の強引さは、ペナルティエリア内だからこそ相手も恐怖を感じるのであって、センターサークル付近でボールを持つ彼は脅威を与える存在ではありません。中盤でボールキープするために発揮する強引さは、相手の守備の帰陣の時間を与えてしまうことすらあります。豊田も前進のための空中戦とゴール前での迫力が彼の持ち味であり、カウンターにおいては、最後のフィニッシュの場面で登場するべき役者であって、アタッキングサードに侵入するためのルートをつくるタイプではありません。セットプレイの場面ではクエンカをひとり前線に置くという工夫も見せましたが、効果的なカウンターにはつながらず。

名古屋も序盤こそはカウンター攻撃で脅威を与えていましたが、選手交代で打つ手が、シャビエル、シミッチとボールキープしながら狭いところでも入っていけるような選手たちで、カウンターのスピードで勝負できるタイプの選手ではないので、後半はカウンター攻撃も徐々に影を潜めていく形になりました。

終盤は吉田の不慮の故障で十分な戦いができなくなった名古屋。鳥栖も松岡に代えて金森を投入するものの、ボールの前進の仕組みを失ってしまって思うような攻撃につながらず、互いに決定的なチャンスを作ることのできないまま、タイムアップとなりました。

■おわりに
戦術浸透に期間が必要どころか、しっかりとマッシモ色に染まっていた名古屋(笑)
マッシモの元で戦っていた選手たちがいることもさることながら、個々の選手たちの戦術理解能力の高さを示しているのでしょう。
選手構成というのは実現したいフットボールのためにはホント大事で、今夏に期限付き移籍で名古屋を離れた相馬、マテウスがベンチにいたら、後半のタイミングで登場してくる彼らのスピードに屈してしまったのではないかとぞっとします。

期限付き移籍と言えば、この試合は金井が契約上の問題で不出場でしたが、彼の得意からサイドバックの位置からのゴール前への侵入という観点で見ると、81分のシーンは思う所がありまして。右サイドのヨンウからクロスがあがって前で豊田がつぶれるのですが、三丸は遅れて入ってきたためにボールにアクションが取れずにファールとなっていました。こういうところの嗅覚は金井の方が鋭いですよね。もしかしたら金井だったら、ヨンウがボールを持った瞬間にクロスを察知してゴール前に侵入し、シュートにつなげていた可能性はあるかなと思いました。

堅固な守備組織を崩すために人数をかけたいところですが、前がかりになりすぎるとカウンターの矢が飛んでくるという事で、非常に難しい戦いを強いられましたが、無失点に終えることができて貴重な勝ち点1を手に入れることができました。その結果、ひとまずは自動降格となる17位以下になる可能性はなくなり、まずは残留に向けて一段階目クリアという所でしょうか。次節はホームでの最終戦です。ここで勝てば文句なしに残留が決まります。今シーズンも苦しい戦いでしたが、なんとか残留を決めて晴れやかな気持ちで最終節の清水戦を迎えたいですね。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

・ チャンネル
センターバックとサイドバックの間のスペースの事

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