2019 第4節 : サガン鳥栖 VS ジュビロ磐田

2019シーズン第4節、ジュビロ磐田戦のレビューです。

シーズン7連敗しても、開幕3連敗しても、どれだけつらい時期が続いても、一つのゴールの歓喜、一つの勝利の感動を味わうために我々はサッカーを見続けていることを思い出させてくれました。クエンカのゴールが決まった瞬間、駅前スタジアムがつんざくばかりの歓声で大きく揺れました。苦しい思いで我慢してきたからこそ、その反動で感情が爆発したのでしょう。

サガン鳥栖の2019シーズンがようやく開幕しました。

今シーズンに入って毎節変わるサガン鳥栖のスタメンは、秀人の出場停止もありまして今節も変更。福田は今季初スタメン、原川が久しぶりのスタメン復帰、スタメン落ちしたチョドンゴンに替わって金崎がトップの位置に入ります。システム的にはFC東京戦と同じく4-4-2でのセットアップです。

対する磐田もなかなかスタメンがはまらない模様。前節の大分戦での大南の退場による出場停止もありまして、4名を入れ替えての試合となりました。セットアップは4-2-3-1(4-2-2-1-1)での試合です。

■ サガン鳥栖のボール保持(磐田の守備の問題点)
序盤の激しいプレッシングの中のトランジション合戦が続き、鳥栖はトーレスへの長いボールのこぼれ球から、磐田は川又の落としからいくつかチャンスを作りましたが、決定的なチャンスを作るまでには至らず。互いの守備組織が整い、トランジション合戦も落ち着いて来た頃、ようやくサガン鳥栖がじっくりとボールを保持できる時間がやってきました。藤田、祐治へ川又、大久保をぶつけてくる磐田に対して、福田が最終ラインへポジションチェンジしてパスを引き出します。ボールの配給はそこからスタートしました。

鳥栖が主に用いたボール前進の仕組みは下の3つのパターンでした。

<鳥栖の攻撃>
① サイド大外(サイドバック)、ハーフスペース(サイドハーフ)、中央(ボランチ)のコンビネーション(トライアングルでのパス回し)でスペースを作り、そのスペースに金崎を飛び込ませる。

② サイドチェンジによって遅れる磐田のスライド守備のスペースを使い、サイドハーフ、サイドバックが前進する。

③ トーレスへのロングボールによるボールキープ及びセカンドボールの奪取

攻撃としては、原則的には両サイドの幅を取りながら、サイドチェンジを多用して空いたスペースを狙っていくという、今シーズンのサガン鳥栖の狙いに沿ったものでした。これに対して、磐田は前線から積極的にプレッシング守備を行うのですが、鳥栖の攻撃の自由を奪うことがままならず、いくつかの問題が発生しておりました。

<磐田の守備の問題点>
問題A 前線の守備パターンが確立されていないため、2列目のプレッシングの連動が難しく、スペースを与えてしまう

鳥栖のビルドアップは、最終ラインでのプレッシングを回避するために福田を下げるのですが、磐田は鳥栖の福田を使ったボール保持に対して積極的なプレッシングを選択します。しかしながら、守備のトリガーとなる川又、大久保のプレッシングのターゲットが明確に定まっておらず、ボールを保持される状況に対して、前線2人の動きがボールの行方に任せた動きとなってしまい、彼らが制限するべきエリアがどこなのかというところが曖昧なままのプレッシングが敢行されていました。

磐田の2列目にとっては、自分の目の前の誰が空くかが分からないという難しい状況の中ではありましたが、前からプレッシャーを与えるという哲学は有効であるため、サイドハーフが列をあげたり、ボランチが列を上げたりと工夫を繰り返しながらビルドアップ阻止に向かいますが、なかなか全体が連動せず。

特に、上原は積極的に上下動を繰り返していたのですが、コンビを組む田口は中央のスペースを守るロールを与えられていたのか、全体を圧縮するべきタイミングでも思いきった動きができず、ボランチ周りのスペースに対するケアがチームとして手薄になるケースが散見されていました。

問題B サイドチェンジされるとフィルターがかからずにフリーで前進されてしまう

前線のプレッシングはもうひとつ問題があって、川又、大久保がプレスをかわされたときの次のアクションに対する動きが遅れ、即座にプレッシングの2度追い(もしくはボール方向へのスライド)に繋がっていない状況が発生していました。よって、左サイド(藤田のサイド)でボールを保持しておき、そこに磐田の前線を集中させて、ボールを右サイド(祐治のサイド)に展開する事により、祐治がフリーで前を向いてパスコースを探すケースが増えました。

鳥栖の右サイドのボール保持に対して、アダイウトンもプレッシングを行おうとするのですが、大外に控える原と松岡に流せば、容易に前進できる状況を作り出すことが出来ますし、アダイウトンがそのパスコースを消そうとステイしたならば、祐治は逆サイドの三丸へのサイドチェンジを送り込む事ができました。アダイウトンの動き方を見るに、4-3-3プレッシングのように見えなくもなかったのですが、アダイウトンの背後の守備が整理されていなかったので、アダイウトンの個人の判断なのかなと。

磐田としては、A、Bの問題によって、人数がしっかりと揃わないまま、統率されていないプレッシングを敢行することにより、サイドバックの裏やボランチ回りのスペースを空けてしまうケースが発生してしまいました。鳥栖は特に左サイドでのボール保持が優勢で、原川、義希、三丸のトライアングルのパス回しに、金崎、トーレス、福田が参画してパスコースを作り、磐田がうまくかみあわせきれない状況を利用して、アウトサイドが空くという状況を作り出して、序盤から原川のシュート、三丸のクロスというチャンスを作り出していました。ひとつでもハマれば先制出来ていたのですが、最後はカミンスキーの好セーブなどありまして、磐田としては中盤(サイド)を崩されながらも最終ラインでなんとか耐えながら前半を凌ぎきった形です。

後半になって体力が落ちてくると、連携がとれないながらもなんとか体力勝負で耐えていた磐田のプレッシング強度も徐々に影を潜めてきます。少しずつオープンな展開になってきたところで、新たな問題が発生します。

問題C サイドにボールを追いやるものの、そこから中央に誘導できずに縦のパスを入れられてしまう

サイドにボールが入った時に、サイドハーフ、サイドバックが寄せては行くのですが、その強度が徐々に落ちてきて、縦へのパスコースを消せなくなってきました。磐田はいったんサイドバック(もしくはサイドハーフ)にボールを誘導し、そこで圧迫を受けることによって中央に戻したところを上原や田口がボールを刈るという形を取りたかったでしょうが、サイドの縦を切る守備が甘く、そのまま縦にボールをつながれてしまう状況が増えてきました。

縦に対するボールが入るようになると、前述のA、Bの問題によって空けたサイドバックの裏のスペースに入ってきた金崎にボールが入るようになってきます。当然、ボールを保持する金崎に対するケアが必要となり、磐田のセンターバックが持場を離れてサイドに出ていかなければなりません。これにより、金崎がサイドの深い位置でセンターバックと対峙するという仕組みを作り出すことができました。前節までの「サイドの低い位置でスピード勝負」から「サイドの高い位置でレスポンス勝負」へと、金崎にとってはデュエル勝利の確率があがる土台に持っていく事ができました。

■ 鳥栖の守備
(1)原と松岡のプレッシング
磐田のボール保持も田口(もしくは上原)を利用して循環させる形でした。鳥栖と異なったのは、磐田のボランチは、最終ラインになるべく落ちずに角度を作って鳥栖の1列目の前でボールを受けたいという狙い。1列目の前で受けてサイドバックを経由してアダイウトンという磐田のストロングポイントへのパスコースを作り、サイドから仕掛けていこうという形でした。

鳥栖の守備は、アダイウトンに対して松岡をマッチアップでぶつけます。磐田のサイドバックに鳥栖のフォワードが着いた場合は、松岡がアダイウトンの所で待ち受け、フォワードのプレスが間に合わない場合は、松岡がボランチへのパスコースを消しながらサイドバックを追い立て、縦にボールがでたところで二度追いとなるプレスバックで原と共にアダイウトンを囲み込みます。

彼のストロングポイントはアジリティを生かしたプレッシングの速さ。テクニックを持つプレイヤーがそのテクニックを披露する時間もない程に素早いプレッシングで攻撃を阻害することによって、自由を制限しました。アダイウトンに当たり負けないプレッシングは、17歳のそれとは思えないほどの力強さを感じました。彼の、例え相手がイニエスタであっても物おじせずに激しくぶつかっていくメンタルの強さは、サガン鳥栖の魂のハードワークの後継者として素晴らしい素質を兼ね備えていますよね。

原と松岡がアダイウトンを意識している守備をしていることによって空く、彼らの裏のスペースを狙う選手がいなかったので、鳥栖としては楽だったかなと思います。川又や大久保が執拗にアダイウトンの作る縦のスペースに入ってくるようになると、鳥栖が守備の基準を変えなければならない事態が訪れていたかもしれません。

(2)ネガトラ対応の速さ
福田と義希との役割分担は、攻撃でスペースに飛び出していくのは主に義希で、ビルドアップで最終ラインのケアをするのは主に福田が担っていました。これによって、鳥栖の攻撃時に、福田が最終ライン(もしくはその1列前)で磐田がカウンターの起点を作ろうとするところで、福田がすぐにプレッシングに入る状況を作り出していました。鳥栖がサイドバックを高く上げる攻撃で最終ラインが薄くなるというリスクはあったのですが、そのリスク管理は、センターバック2人の前にカウンターのフィルターとして福田をおくという形でマネジメントされていました。福田のスピードによって素早くプレッシングをかけ、攻撃の芽をつぶすことに成功したシーンは何度となく訪れていたかと思います。

また、松岡のプレッシングの速さも、磐田のカウンター防止にも大きく貢献しておりまして、松岡もボールロストと共に高い位置から磐田にプレッシャーをかけ、カウンター攻撃の芽をつぶすことに成功していました。彼らのアジリティという個人の質があってこその守備組織ではありますが、山田、アダイウトンにボールが入る前に、ボールの出所をつぶす守備によって、守備組織を整える時間を作ることに成功していました。

(3)フォワードのプレスバック


鳥栖のプレッシングは前線から追い回す形ではなく、ミドルサードのやや高い位置でブロックを構えながら、無理せずにプレッシングに入る守備で対応していました。フォワードは、どちらかと言うと、ビルドアップのパスの出先をしっかりと押さえるという形でありまして、トーレス、金崎は磐田のセンターバックから直接川又や大久保にくさびが入らないように注意しながら見張ると言う役割を果たしていました。

センターバックは比較的難しくない状況で、田口、上原にパスをつける事は出来るのですが、鳥栖は、ブロック守備の中で、ボランチからのパスコースを制限し、そこから先の展開に少しでも迷いが生じた場合は、フォワードのプレスバックで狭い網の中でパスを出させ、そして少しでも甘いコースに来たならば出足鋭くボールを回収するという仕組みの守備をしておりました。磐田は、田口と上原がボランチ二人のコンビネーションで崩すという形がなかなか見えず、上原が上下動を繰り返す運動量豊富な動きを見せていたのですが、中盤で人数不足が発生するという、若干逆の弊害がでてしまったシーンもありました。

(4)磐田の単調な攻撃パターン
磐田としては、サイド攻撃でアダイウトンや山田がペナルティエリア付近までボールを運んだ際に、選択肢がカットインしてシュートというパターンしかなかったのが、決定的チャンスにつながりづらかったところでした。サイドバックがインナーラップしてくるので、大外を使うという形を作れず、アダイウトンの仕掛けに対して鳥栖の守備が中央に密集してくる状況を作り出し、自らシュートコースを狭めていく中で、強引なシュートに持って行かざるをえませんでした。それは、川又や山田、大久保がボールを持っても同様で、ゴール前でボールを受けてからの変化を付ける事が、なかなかできなかったですね。

磐田には外からクロスをあげると川又と言う武器もありますし、スペースにしっかりと飛び込むことができる大久保という武器もあります。川又は中央からディフェンスラインの裏に抜ける動きを何度も見せていました。ただし、磐田は川又を上手く使えずに、ゴール前に進むにつれて、攻撃が中央、中央と寄ってきて、最後は選択肢がシュートしかなくなってくれたことは、鳥栖にとっては助かった所です。アダイウトンがサイドでボールを受けて、カットインしてから、もう一回サイドのスペースを使うなどの崩しが洗練されれば、もっともっと鳥栖の守備陣を脅かすことができたのかなと思います。

81分には、中村、山田、川又とパスを繋いで中央に起点をつくって逆サイドのエレンにフリーで流し込むことができ、チャンスを作りました。前半と異なり、外、中、そしてもう一度外という意識が出来たからこそのチャンスメイクでした。
ここでちょっと感じた事があったのですが、磐田は前半から左サイドで侵入してきても、アダイウトンのカットインからのシュートしかチャンスを作れず、右足でのシュートの精度が上がらずに苦労していました。とはいっても、左サイドの確度のあるところでボールを持てる状況は作り出せていたので、この状況で作れるならば、左サイドに右利きでシュートを打てる選手を置いた方がラストの精度が高まるのではないかと思いました。81分のチャンスではフリーで受けたのが左利きのエレンであったため、シュートではなくてクロスという選択になってしまいましたが、右足でファーサイドから巻けるシュートを打てる選手がこのポジションにいたらどうなっていたのかなという事を考えます。この選手交代と配置の所は、ほんのちょっとしたところですが、もしかしたら、明暗を分けるポイントだったかもしれないなと。

■ 祐治退場後(10人での戦い)
FC東京戦で4-3-2の練習ができていたというのはうれしくともなんともなく、なかなか皮肉ではあります(笑)
鳥栖は、当然の事ながら11人の頃よりも更にブロックの位置を下げて、ミドルサードのやや低い位置で4-3-2で構え、磐田がサイドチェンジで鳥栖の陣地の奥深くまで入り込むと、フォワードが逆サイドのスペースをカバーするべく列を下げて、磐田の押し込みが激しくなるにつれて、4-4-1 ⇒ 4-5-0 ⇒ 520という守備組織を見せていました。

この数的不利の状況下における守備に貢献したのは、ある意味当然とも言えますが豊田でした。前線でプレッシングで追いまわし、ボールの前進を許すと、鳥栖の中央の脇のスペースをカバーするべくポジションを1列さげて、磐田のサイドバックが上がってくるスペースをケアしていました。

攻撃は、時間を作るべく、なるべくボール保持を試みたいのですが、数的不利であるのでプレッシャーに負けてどうしてもボールを手放さないといけない場合はロングボールを蹴らざるを得ません。10人になってのロングボールですが、豊田が最終ライン(もしくは2列目)で守備をするケースが多くなったことで、前線に人数が不在となった場合は、福田がスプリントによって前進して、ロングボールのターゲットという役割をこなしました。11人の時は最終ラインでボール保持をヘルプし、10人になった場合は前線でボールキープと前進に貢献するという、今節は彼がいなければ、このクエンカの劇的ゴールでの勝利はなかったかと思います。

※ ちなみに、開幕戦でのインタビューで、今シーズンのキープレイヤーはという質問に私は「福田」と回答しているので、彼の復帰と活躍はうれしい限りです。

クエンカ投入後は、クエンカを左ウイングの位置に置いて、4-3-1-1のような形を作り、豊田との位置関係を近づけてセカンドボールをより拾いやすいフォーメーションと変更します。大久保からのロングフィードは左サイドに選手を集め、数的不利な状況で選手が分散して更に悪化しないような配置と変えました。この選手配置が功を奏することになり、クエンカのゴールはその左サイドでの原川のクリアを豊田が落としたところから始まります。

■ クエンカゴール徹底分析
今回、冒頭で鳥栖の攻撃パターンと(磐田の守備の問題点)を記載しましたが、このクエンカのゴールでも根本的な要因は同じところにあり、この試合で鳥栖が粘り強く継続した攻撃の形が、ついに実を結ぶことになりました。

■ 終わりに
劇的な勝利でしたが、この試合の観客は14,624人。
最近、試合が不調であったために、昨シーズンからの観客数を考えると、思いのほか空席があったのかなという感じです。
トーレスに替わって豊田が入った際のスタジアムの雰囲気は一種異様なものを感じました。
その雰囲気に圧倒されて、磐田の守備陣も押し込まれていったのかなと、鳥栖が優勢となるスタジアムの雰囲気を作り出せたのかなと思います。もっと観客が増えれば、もっとスタジアムが揺れますし、こういった劇的ゴールによって、更に大人数の観客で揺れるスタジアムは、いつまでも思い出となるものです。
更に多くの観客が入ってくれるように、是非ともこういった良いサッカー、良いゲームによる勝利を継続してほしいものです。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

<画像引用元:DAZN>

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