2019 第29節 : ジュビロ磐田 VS サガン鳥栖

2019シーズン第29節、ジュビロ磐田戦のレビューです。

■ スタメン

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■試合

鳥栖は、試合開始早々からロングボールを活用した前進を試みます。高丘がゴールキックのボールのほとんどを、センターバックにつなぐのではなく長いボールを蹴っていたことからもその意図が伺えます。磐田が積極的に前からプレッシャーをかけてきていたため、そのプレッシャーにひっかからないように簡単に回避するという目的もあったのでしょう。

ビルドアップは、2センターバックを中央に配置し、その間でジョンスが受ける形。磐田はツートップ+ボランチ一人を上げるプレッシャーで応戦。プレッシャーをまともに受ける形になるので、人数によって優位に立ちたい場合は時々最終ラインに下がるジョンスの姿やフォローする金井のも見えました。ただ、磐田がビルドアップで自由を与えない形をとったので、そこで頑張ってボール保持するよりは、早々に長いボールを豊田に当てる方法を採用。何が何でもボール保持という方針は取らなかったので、鳥栖がじっくりとビルドアップでボールを持つシーンはほとんど見られませんでした。

鳥栖の攻撃の主たるエリアは左サイド。そして、狙いは大井と大南を動かすこと。豊田は左サイド(磐田の右サイド)を主戦場としてポジションを取り、ロングボールを引き出しました。その位置でこぼれ球を狙っていたのはクエンカ。バックヘッドを狙う形が多かったのでサイドバック、もしくはセンターバックを引き出してその間(その背後)の位置でクエンカにボールを持たせたかったのでしょう。彼がサイドでボールキープすることによって、さらに磐田が奪うためサイドに人数をかけてくることになります。そこからの逆サイドへのクロスですね。三丸や原川のクロスを、金崎、福田、豊田に狙わせるというクロスになります。豊田は一つ惜しいヘッドがありましたね。原川のクロスがどんぴしゃりだったのですが、キーパーのナイスセーブで得点ならず。残念。

左サイドにポジションを取る豊田へのロングボールが多くなるということは、必然的に前進を果たしてからも左サイドからの攻撃が多くなります。特筆的だったのは三丸の位置。この試合では、これまでのような「サイドに張ってろ」の一辺倒ではなく、左サイドから中に入ってハーフスペースでボールをさばくプレイを多く見せました。ただし、彼がここでボールを受けて前を向いて中央へラストパスを送るというよりは、サイドバックを引っ張ってスペースを作って、クエンカ、原川が侵入できるスペースを作るデコイ的な役割。ボールを預けられた時も、前進してくるセントラルハーフがサイドから更に前進できるように簡単にさばいてボールを受け渡していました。

先制点はこれらの形の集大成。ビルドアップをするぞと見せかけて、センターバック+ジョンスが相手を引き寄せ、高丘が豊田にロングキック。磐田のセントラルハーフ陣を前に寄せていたため、ハーフスペースの位置にポジションを取っていた三丸が簡単にセカンドボールを拾う事ができます。
中継者の三丸はサイドに張っているクエンカへ渡し、金崎に大井を背負わせてセンターバックの背後のスペースを作った上で、空いたスペースにクエンカが飛び込んできました。「左サイドへのロングキック」+「ハーフスペース三丸」+「最終ラインの背後のスペースづくり」という狙いが機能したシーンでした。

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磐田は両サイドバックをワイドの高い位置にポジションを取らせる形。ビルドアップは基本センターバック2名で行っていましたが、金崎と豊田のプレッシャーが強く、それらを回避するために、途中からボランチが1枚下りる形をとりました。

鳥栖の守備は、序盤から積極的なプレッシング。磐田がボランチをひとり下げて3人で最終ラインのボール保持を行うのですが、鳥栖は福田を上げて同数プレッシングを採用しました。磐田が左サイド(鳥栖の右サイド)にボールを回した時に、一気に豊田と福田のプレッシャーでつかみに行くという動きです。前節もだったのですが、福田が左センターバックと左サイドバックの双方を見ながら守備をする事によって、人数不足を走力でカバーする方法で対応しました。後ろに人数を残しつつ前からプレッシャーをかけて精度の低い縦パスを奪い取るという形です。

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積極的なプレッシングは割と成功していて、磐田が窮屈になってロングボールを蹴るシーンは多くありました。プレッシャーがきつい中でのキックなのでその正確性(パスの精度)も下がり、蹴らせてからの回収という狙いに沿った守備はできていました。

ただし、23分のようなシーンは、考えさせられるシーンでして、前から追いかけて長いボールを蹴らせて、前線の守備としては合格点の対応を取っています。しかしながら、そのアバウトなロングボールに対して競り合ったセンターバックがルキアンにつぶされ、藤川に拾われ、裏を走る山本にシュートを打たれました。磐田の攻撃の肝はルキアンなので、ルキアンのマークに人数をかけるという手もありますが、そうなると前に出ていく選手の人数が足らなくなるのが痛しかゆし。34分のシーンも、キーパーキャッチからパントキックをルシアンにキープされてから藤川に展開。そのままシュートまで打たれています。
組織的な守備の成功によって苦し紛れで発動したロングボールなのに、「個人の質」で守備が破壊されてしまうというのはなかなかシュールであります。

鳥栖が先制した後は、やや鳥栖のプレッシングも落ち着きを見せます。磐田のボール保持のシーンが多くなり、最終ラインで奪ってからのカウンターをしかけますが、磐田の攻撃サイドと鳥栖がカウンターをしかけたいサイドが同じであるため、早めのチェックを受けてなかなかボールがスムーズに前に進めません。右サイドを活用したカウンターができればよかったのですが、福田が気を利かせてバックラインまで下がって守備をするケースもあり、カウンターでの起点となるポイントが前方に作れず、前に出ていく推進力がなかなか上がりませんでした。

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磐田の同点ゴールは前半終了間際。
これまで、右サイド(磐田の左サイド)を完全に封殺していた鳥栖ですが、磐田がこの局面でちょっとした変化をもたらせます。これまで通り、藤田にボールが入ると強度の高いプレッシングで圧力をかける福田。藤田は、ワイドに構える小川に展開しますが、これまで同様に福田がリトリートして小川にプレッシャーをかけます。ここで小川は、ビルドアップに変化をつけたかったのか、はたまた逃げ道がそこしかなかったからなのかは分かりませんが、小川は中央に入ってくるドリブルを仕掛けて福田を引き連れ、そのまま中央にポジションを取ります。

ちなみに、セオリーとしては、サイドでプレッシャーをかけて相手が窮屈になった時に逃げるように中央に入ってくるドリブルは一つのボールの狩りどころです。福田が寄せた時に金崎が一緒にサイドに寄せていればそこでつぶせるチャンスはあったのですが、終了間際で体力的に厳しかったのか、最終ラインに戻ったボールに対するケアをしたかったのか、中央への逃げ道をつぶすことができていませんでした。

金崎の守備のポジションは気になる所でありまして、52分にも、全体が左サイドにプレッシャーをかけて嵌められる形になった時、金崎はひとり右サイドを見ています。この時、全体に合わせて少しでも中央にスライドしていれば(もしくは相手を嵌める形ができていたので藤田をマークできていれば)相手のパスミスを奪って即時ゴール前でのチャンスとなっていました。金崎のポジショニングがチームオーダーなのか個人の判断なのかはわからないのですが、攻守ともにメリット・デメリット、様々な影響が絡み合う選手ではあります。いろんな意味で目立っていて、見ていて面白くはありますが。

話を戻します。この小川の中央へとドリブルで入る動きに呼応して、左サイドに藤田が流れ、山本も小川が張っていたワイドのスペースにジワリとポジションを移します。松本も下がってボールキープに参画して最終ラインにおけるビルドアップ(ボールキープ)の構図に変化を加えます。プレッシャーをひきつけていなすことがなかなかできなかった磐田が、小川が中央にドリブルで入ってくることによって、また、その動きに応じて磐田の選手がポジションを連動して変化させることによって、鳥栖の守備の基準点をずらすことに成功しました。

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こうなってくると後は芋づる式で、金崎が引っ張られ、豊田が引っ張られ、逆サイドに展開されたときには、クエンカは運ぶ今野、受ける藤川、広がる大南の3人を見なければならない状況が生まれます。前線の豊田、金崎、福田がいない状況で前進を受け、さらにパスコースが複数ある状態を作られたことで、クエンカの選択はステイだったのですが、その選択によって大南が余裕をもってクロスを上げる事の出来る時間と空間を持つことができました。更に、クロスが上がる直前、秀人が引いて受けようとする松本に引っ張られることによって、祐治の前に大きなスペースができます。祐治はそのスペースに対するケアのために1歩前にでてしまうことによって、ルキアンへの対応が遅れました。あとからカバーで入ってきた金井も届かず。

小川の中央に入ってくるドリブルによって鳥栖の守備の基準が動かされ、ひとつひとつのずれを修正しようとした動きをしり目に合間、合間でボールをつなげた磐田が、最後はピンポイントクロスとルキアンの強さによってゴールを決めることができました。鳥栖にとっては前線の守備が生命線であることを再認識させられるシーンでした。

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後半に入っても高い位置からプレッシャーをかける両チーム。前半と同様に、鳥栖は豊田、磐田はルキアンと、スライディングもいとわないくらいの激しい守備で前線からプレッシャーをかけます。そして、両チームともに、ビルドアップで前進したいけれども、窮屈になって最後は蹴ったくるしかない状況となることも前半と同じ。ここで状況を打開するべく、磐田はアダイウトン、鳥栖は小野、ヨンウを入れて変化を狙います。

磐田はいかにしてルキアン、アダイウトンにボールが収まるか。ビルドアップでの攻撃となると、鳥栖が人数をかけて守備をするのでさすがの前線二人も思うような形でままならないのですが、カウンターやクリアボールを拾う場面だと、センターバックと1対1になれるので、うまくボールキープできます。磐田としては、鳥栖にボールを持たせた方が良かったのかもしれません。

鳥栖も選手は代えてもビルドアップは変わらずにツーセンターバックとジョンスで三角形をつくり、ツートップの脇に小野がポジションを取る形。選手配置に変化を加えましたが、ビルドアップがうまくいかないとみると、早々にあきらめて豊田を狙って長いボールを蹴り、その裏をクエンカに狙わせるという形は継続していました。

ただ、小野が入ったことによって左サイド、ハーフスペース、中央の位置関係を変化する頻度が上がります。勝ち越しゴールのきっかけとなる前進は小野の運ぶドリブル。磐田は前半と変わらずに鳥栖の2センターバック+ボランチの三角形に対してツートップ+ボランチを当ててプレッシャーを与えますが、ツートップ脇のスペースで小野がうまくボールを受けます。前方の視野が開けた小野は前進すると同時にハーフスペースで待ち構える三丸を経由してサイドを突破。この突破から押し込む時間帯を作り、最後は金崎が3人をかわすドリブルからのシュートで見事な勝ち越し点を挙げました。

リードしてからまた変化がありまして、これまでは鳥栖がボールの前進を図るために早めに豊田に当てるボールを蹴っていたのですが、リードしてからは攻撃のフェーズでボール保持に比重を置くようになり、ロングボールを蹴る比率が減りました。1点リードしたという状況から、不用意にボールロストするよりはなるべくポゼションの時間を作りたいというチーム全体の意識でしょう。小野が最終ライン近くに引いてボールを受ける事により、チームとしてのキープ力も高まっています。

鳥栖の守備方式も変化しました。センターバックに対してプレッシャーに出ていく比率が下がり、タイミングが合わない時は、プレッシングの基準点を少し下げて、ヨンウは小川、クエンカは大南を見る形を取ります。最終ラインに対するプレッシャーよりは、両ワイドを自由にさせないポジションへと変化しました。最終ラインでのボール保持が楽になった磐田は、徐々にポゼションを上げながらサイド攻撃を仕掛けてきます。後ろに人数をかけるようになった鳥栖は、ジョンスが最終ラインのケアをする回数も増え、前半の失点のようにゴール前にスペースを作られるような機会を作らずに何とか防いでいました。

耐え抜いて終われるかと思った試合終了間際、磐田に同点ゴールが生まれます。ロティーナさんが失点は3つのタイプに分類できると言ってました。

(1) 避けようのないゴラッソ
(2) クリアミスなどのヒューマンエラー
(3) 守備戦術コンセプトのミス(避ける事のできる失点)

磐田の同点ゴールはどれかと考えてみたいのですが、どれにも当てはまるんですよね。

まず、クロスを入れられるきっかけとなったシーン。小川が中央にドリブルで入ってきますが、ジョンスと金崎が2人いるもののどちらもプレッシャーに行けません。また、三丸は大南をケアしようとしてかなりワイドにポジションを取って、秀人との間のスペースが大きく空いています。このスペースを埋めるべきであろう小野は、ボールサイドに寄りすぎて秀人の前でアダイウトンをスクリーンするようにポジションを取っています。(これがチームオーダーなのかどうなのか。)
試合終了間際で体力的にもきつく、カオスな状況であったとしても、ポジショニングが組織として適正であったとは言い難いでしょう。(3)

小川は秀人の三丸の間のスペースをみつけて、そこに入ってくる大南に対してクロスを上げます。三丸もなんとかついて行って大南に先に触られたものの自由は許さないようにルーズボールにすることに成功しました。このボールの秀人のクリアがうまくいかずにミスキックとなってしまい、アダイウトンの真上に上がってしまいました。このクリアを遠くに蹴ることができれば防げた失点でした。(2)

そしてアダイウトンのスーパーゴール。ゴールと逆側を向いている状態からのバイシクルシュートは、スーパーゴール以外の何物でもないですよね。(1)

いずれにしても、1失点目も、2失点目も、守備組織の構築とポジショニングで防ぎようのある失点でした。攻めなければならない状況になった時には、(最近の劇的ゴールなど)チームとして得点が取れているのですが、守らなければならない状況になった時にどのような守備を行うか。今シーズンは終了間際に決める事も多いのですが、逆に決められる事も多く、そのあたりは継続的な課題でしょう。

■ おわりに
チャンスもありましたがピンチもありました。アウェー地での残留争い直接対決ということで、負けていたら非常に厳しい状況に追い込まれていたので、勝ちたかったのはやまやまでしたが、結果としては十分だと思っています。勝ち点1を上げて順位も上げることができましたし、残り試合を全部勝てば残留が自力で決まる位置に来たのでポジティブに捉えてよい結果だと思います。

これからまだ厳しい試合を続きますが、得点がとれているというのは良い傾向だと思います。得点は自信にもつながりますし、チームの勢いにもなります。ここのところ無失点試合がありませんが、失点はある程度覚悟のうえで、先に入れられてもあきらめずに、アグレッシブに得点を取りに行く姿勢を見せてほしいですね。結果は後からついてくるでしょう。期待しています。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事


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