転換期を迎えた2020年サガン鳥栖



ここ2年、明輝監督はチームの状態が悪化した時の緊急登板でサガン鳥栖の監督としての任務に就かれ、見事に残留という結果を残してくれました。

この両年共に、決して恵まれておらず、むしろ逆境の中でのスタートであったにも関わらず、明輝監督は残留という結果をチームにもたらせ、しっかりと任務を全うしてくれました。突然のトップチームへの監督就任でとまどう面もあったでしょうが、目標であった残留達成(しかも2年連続)という結果は、明輝監督の自信にも繋がったのではないでしょうか。

机上で考えて想定する事と、現場で実際に携わるのでは雲泥の差があります。自分の中ではいろいろと戦局、戦術をイメージしていたとしても、実際に現場に立つとそのイメージと実態とがかけ離れてしまうことはよくある話です。そういう意味では、明輝監督のこの2年で得られた監督経験は、自分のイメージとのすり合わせも含め、あらゆる状況下に対応するために蓄積された貴重な財産とも言えます。

何よりも、この結果によって、明輝監督はサポーターの信頼という更に大きな財産をも得ることが出来ました。 監督、選手、サポーターが、お互いがお互いを未知数のまま手探り状態でスタートするのではなく、お互いが信頼した上でスタート出来るのは、チームの雰囲気も含めてアドバンテージとなりますよね。Twitter上でも明輝監督の就任を喜ぶ声のほうが圧倒的に多かったですね。

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社長が2020年は育成モードと話しをされたのですが、何も育成に力を入れだしたのは今年からと言うことではありません。何年も前から、ユース年代のアカデミー組織を整備し、有望な選手を受け入れる環境を整え、効率的な育成をより拍車をかけるためにアヤックスメソッドを取り入れ、そして年代問わず一貫したフィロソフィの元で技術を磨くという取り組みを積み重ねてきました。時間をかけてコツコツとやってきた事が、U18のプレミア昇格やU18、U15のクラブ選手権・高円宮杯での躍進という、目に見える形でようやく現れるようになりました。

本来ならば、トーレスを始めとした有力な選手たちを引き入れ、そこでトップカテゴリーで一定の結果を残した上で、若手にバトンタッチというのが理想の姿だったかもしれません。しかしながら、期待に反し、ここ数年は、満足な結果を残すには至りませんでした。

残念ではありましたが、ここ2シーズンは、なんとか残留も出来ましたし、あの世界的プレイヤーのトーレスがサガン鳥栖のために粉骨砕身して戦ってくれた事は、チームとしてひとつのステップを駆け上がったとも言えます。もちろん、もっともっと圧倒的なスピードで相手を翻弄する姿や、類まれなる技術に培われたゴールを見たかったですが、彼の一挙手一投足にワクワクさせてもらったこの高揚感こそが、サッカーに、サガン鳥栖に求める事に他はありません。

トーレスの加入を投資と言うならば、費用対効果がどの程度出るのかというのは、プレイヤーとしての価値よりも、むしろ今後の方が大事なのかもしれません。現に、トーレスがプレイしてきたチームのエンブレムが一覧化される時に、世界の名だたるチームに混じってサガン鳥栖のエンブレムが表示されています。

海外の選手にオファーを出すときに、名もしれぬチームからのオファーではなく
「フェルナンド・トーレスがプレイしたチーム」
という箔がついたわけなのです。
それを活かすも殺すもこれからのチーム次第でしょう。

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一般的に、組織を経営するための資源は、

・ヒト
・モノ
・カネ
・情報
・時間

だと言われています。

サガン鳥栖は、Cygames、DHCなどとのスポンサー契約満了によって経営環境が大きく変化しました。確かに、カネはあるに越したことはないのですが、あくまでも経営資源の一つ。カネがないならば、様々な資源の効率的な活用こそ、チームとして経営も成績も結果を残すために残された手段となります。

私はサガン鳥栖のステークホルダーには、文化、哲学、関係性というものを大事にしてほしいと思っています。経営資源に現れないものも活用した、総合的な魅力の発信ですね。サガン鳥栖の地域の中での存在価値、サガン鳥栖が表現しようとしているサッカー、サガン鳥栖ならではのアイデンティティ、これらが普遍のものとして確立出来たときに、経営基盤の安定に繋がるのではないてしょうか。

具体的には、(是非はともかくとして)社長がおっしゃられている
「ブーイングをしない」
という事もひとつのアイデンティティ構築に向けた提案なのかもしれません。Jリーグで唯一ブーイングしないチーム。そういう唯一無二のチームとして存在価値を示すのも、ひとつの方策なのかなと。

チームとして、唯一無二のものを示す事は、サガン鳥栖というチームから資金(年俸)以外の新たな魅力を発信する事に繋がります。チームの文化やアイデンティティを明確に示し、その内容に共感してくれた選手たちであれば、これまで以上にモチベーションを高くしてサガン鳥栖というチームに来てくれるでしょう。

豊田選手はサガン鳥栖の文化を作るパイオニアですよね。当初、彼にとっては、サガン鳥栖というチームに来ることは都落ちに近い、一旦の挫折であったかもしれません。しかしながら、鳥栖に来てからの活躍はもちろんの事、在籍していく中で、鳥栖というチームの歴史を知り、鳥栖という地域の人間性を知り、鳥栖というチームのアイデンティティを作り上げ、今までで一番鳥栖を愛してくれる選手になったと言っても決して過言ではないかと思います。いまや、彼から発信される言葉のひとつひとつが、サガン鳥栖サポーターの心を揺さぶるものとなっております。

豊田のような、サガン鳥栖の歴史を共につくり、チームのアイデンティティを確固たるものにして、それを啓蒙・伝承してくれる存在となる選手の輩出こそ、今後のサガン鳥栖の発展に関わる大きな命題です。

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サガン鳥栖は、資金を使って実績のある選手を獲得して優勝を目指すというチャレンジを終え、実績は十分でなくとも招来有望な才能のある選手たちを育成し、開花させるという次のチャレンジに歩を進めました。このチャレンジは、昨年までのチャレンジよりもよりハードで、成功するためには間違いなく、時間というリソースが必要です。

ビジョンをもって推進したとしても、必ずしもうまく行くとは限りません。そのとき、簡単に芯がブレてしまう事のないよう、自信を持って強い気持ちで立ち向かわないと、何も得られないまま、時間だけが過ぎていくことになります。

チームが進むべき方向へ向けて舵をきるとき、その背中を押すのは他でもないサポーターの役目です。サポーターがチームのやることに異議を唱えはじめたら、フロントも監督も選手も、邁進することに躊躇し始めます。なぜならば、サポーターもスポンサーと同様に大事な顧客なので無視できないからです。

そして、サポーターこそ、チームのフィロソフィーを誰よりも理解する事が必要であり、チームのフィロソフィーを自らの手で作り上げる必要があります。チームがうまく行っていないときに、安易にネガティブな変化に走らず、フィロソフィに基づいたポジティブな思想の元での変化となっているのか。それを判断できるのは、定期的に入れ替わる監督や選手ではなく、このチームを愛し続け、見守り続けるサポーター以外にはいないのです。

チームがやっていることに対して、決して我慢しろという意味でも、口を出すなという意味でもありません。チームのやろうとしている事、目指している地点、そして現在の立ち位置。それをしっかりと理解し、目指すべき目標に向けた道を進めているか把握し、そこに間違いがなければ結果が出ずとも根気強く見守り続け、チームがブレだしたらしっかりと意見を上げる。そんな真のサポーターが一人でも多く増えることが、この経営危機に陥っているサガン鳥栖を改善し、輝かしい未来を築き上げる事になるのではないでしょうか。

ビジョンが明確となって、サポーターの資質があがったとしても、結果が出る事を約束されたわけではありません。サガン鳥栖だけではなく、J1のチームはどこもより高みを目指し、あらゆる経営努力を重ねています。それらのチームの更に上を行かなければなりません。

社長が育成モードと話されたのは、そういった覚悟を持って付いてきてほしいという事だとも思っています。目の前の結果に一喜一憂するのではなく、一つ一つのプレイが未来につながるものとなっているのか、将来に向けた道程の一歩となっているのか、そういう目を備えなければなりません。

そういう意味では、今年のサガン鳥栖は、選手もサポーターも共に
「心のスタミナと頭のスタミナ」
がキーとなるかなと思っています。長く困難な道のりに対して、途中でスタミナ切れすることなく、強い気持ちをもって芯がブレることのないように応援していきましょう。

鳥栖フューチャーズの解散、サガン鳥栖の経営悪化による100%減資、引き継ぎ先が見つからない中での経営譲渡、幾多の困難を乗り越えてきた我々ならば、チームの方針を支え、本当の意味でのサポーターになることは必ず出来ます。
「死ぬこと以外はかすり傷」
チームの存続のために、我々にやれる事は何があるか。
私たちサポーター自身がこれまでの事をしっかりと振り返り、そして、未来のサガン鳥栖サポーターへと引き継いでいきたいですね。

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