2019 ルヴァン第4節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖

2019シーズン ルヴァンカップ第4節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

4月にも関わらず今期3回目の対戦となるサガン鳥栖対ベガルタ仙台。過去の2試合はいずれも鳥栖が3失点して敗北を喫しています。この試合に負けるとルヴァンでの勝ち抜けが厳しくなる戦いだけに、調子があがらないながらもなんとか勝ち点を取りたいところです。

鳥栖はリーグ戦からスタメンを数人入れ替えました。注目はツートップのチョドンゴンとアンヨンウの韓国人コンビ。松本戦はカウンターのチャンスにトーレスと金崎の息が合わずに決定的なチャンスを逸しただけに、ツートップの相性も気にしたいところ。スタメン発表時はオーソドックスな4-4-2かと思われましたが、守備の局面では秀人が最終ラインに下がって5バックを形成する形を取りました。守備を厚くして過去の3失点ゲームを払拭したいのか、仙台に人数を合わせたかったのかは、カレーラスさんの胸の中です。

対する仙台はリーグ戦でのスタメンからほぼ全員を入れ替えた布陣。いつもの3バックシステムではなく、4-4-2システムでこの試合に臨みました。ターンオーバーでスタメンが変わったことによる影響なのか、鳥栖の思惑を外して揺さぶりをかけるためなのかは、これもまた渡邊監督の胸の中です。いつもの鳥栖と仙台が逆転したしたかのような現象は非常に不思議な気分でした。

序盤に試合のペースをつかんだのはサガン鳥栖。祐治、秀人、藤田で構成する最終ラインに対して仙台のツートップは、やみくもにプレッシングに行くのは得策ではないと判断したのか、鳥栖のボール保持に対し、いったんはボール保持者に詰める動きは見せるものの、サイドチェンジに対して二度追いするまでの積極性なプレッシングは行わず。プレッシングに来ないということは、運べるスペースも時間もあるということで、鳥栖は藤田がボールを運びつつ、左サイドの位置から長短のパスを織り交ぜて最終ラインからの攻撃のタクトを握ることになりました。

藤田のゲームメイクはいろいろなプレーを見せてくれて少し驚きもありました。最終ラインからボールを持ち出したかと思えば、相手陣地深くまで入ってハーフスペースでボールを受ける役割も果たすこともありましたし、サイドからボランチの位置に斜めに入ってさながら偽サイドバックのような動きで三丸へのパスコースを作ることもあったり。攻撃に参画してくる動きのあるストッパーというのは相手にとっては捕まえづらいもので、鳥栖の攻撃にアクセントを加えるには十分の動きでした。

仙台の4-4-2は守備面でとまどいがあったのか、序盤はツートップの脇のスペースからボールを持ち出す藤田に対して、道渕が出ていくべきか、とどまるべきか、いろいろと試すもののなかなかはまりません。中央を抑えれば三丸に通され、サイドを抑えにかかると下りてきたアンヨンウに通されと、鳥栖のボールの前進を食い止めるのに四苦八苦していました。

鳥栖は、前線のアンヨンウとチョドンゴンが仙台のサイドハーフが動いた隙をついて、ハーフスペースで受けたり、サイドバックの裏に入り込んだりと最終ラインから上手にボールを引き出していました。縦横無尽に動き回るような派手な動きではありませんでしたが、ボールを引き出すという役割としては十分な動きで鳥栖のボールの循環に貢献していました。

うまく守備の基準を決められない仙台の隙をついて、難なくサイドからボールを運んでいく鳥栖。思うようにボールを奪えない仙台は徐々に撤退を強いられることになりましたが、鳥栖も仙台の撤退に乗じてサイドの奥深くまではボールを運ぶものの、最終ラインに人数をかけてきた仙台に対してゴール前の局面になると効果的な崩しができず。10分から15分頃には連続でコーナーキックを得るものの、仙台のディフェンスが良いのか鳥栖のクロスの精度が良くないのか、シュートまでには至らないもどかしい展開が続きます。

チャンスが続いてゴールが決まらなければ流れが変わるというのはよくある話で、守り切った仙台が、鳥栖の守備の仕組みに慣れを見せ始め、徐々にボールを保持できるようになってきました。仙台のボール保持局面では、鳥栖も前線からのプレッシングはそこまでの強度はなく、最終ラインではじき返すことを前提としたブロックを構えます。最終ラインは秀人を中央において5枚で構え、中盤は義希と原川で形成し、クエンカを相手のボランチへのパスコースを見せるようにしつつ前線に3枚を配置する5-2-1-2のような形です。

クエンカを前に押し出すことによって中盤の脇のスペースが空くことになり、仙台はサイドハーフを中心にボールを前進する仕組みを作ります。ただ、鳥栖が前線に3枚を残しているので、カウンターに対する備えの必要もあり、仙台がなかなかサイドバックをあげていくタイミングを見つけることができず、分厚い攻撃とまでには至りません。

仙台は内寄りにポジションをとるサイドハーフまでは簡単にボールを渡せるものの、そこから長澤、阿部に至るところで思うように鳥栖の密集地帯を抜けられず、狭いところを通すパスも通らずという事で、仙台もなかなかシュートまでたどり着かない状態が続きます。

互いに相手の守備の仕組み上で生まれるスペースをついてボールの前進を果たそうとするものの、ゴール前まで来るとフィニッシュまでには至らない展開。この展開を打破するべく、先に仙台が動きました。30分頃、仙台が4-4-2をあきらめて3-5-2へとシステム変更し、両サイドのウイングを作ることによって、ワイドに幅のある攻撃へとシフトチェンジ。この攻撃によって、義希、原川の脇のスペースに対する攻略が進み、チョドンゴン、アンヨンウをやや中盤よりのポジションへと押し下げます。リトリートしたという事は、両サイドのウイングバックが上がっても差し支えなしということで、永戸が積極的に攻撃への参加を見せだします。永戸は裏に抜け出したり、浅いところからでも鋭いボールをゴール前に送りこんだりと、さすがの動きを見せていました。

仙台のボール保持が続いてきたところで流れも仙台に傾くかと思われた42分頃、押し込まれだした鳥栖がショートカウンターで先制点を挙げます。

仙台が左サイドでボールを保持しているタイミングで、鳥栖の中盤の脇のスペースを狙って右サイドストッパーの照山が高い位置へと侵入。ここで、左サイドにポジションしていたシマオマテから平岡に展開した際に、大岩が平岡の方向へ寄ってしまったことで問題が発生します。照山が高い位置にあがっているため、最終ラインでの大岩から右サイドに向けたボールの循環先が失われてしまったことに加え、大岩が平岡の方に近寄ってしまったことで、狭い範囲に鳥栖の選手たちも密集することになってしまうことになりました。行き場をなくした大岩のトラップミスをクエンカがかっさらいアンヨンウへ。最後はアンヨンウからボールを受けたチョドンゴンが冷静にゴールに流し込んで先制ゴール。システム変更で勢いを取り戻した仙台にとっては思いがけない失点だったでしょう。ここで前半は終了。

後半にはいってまず流れをつかんだのが仙台。両サイドを鳥栖のウイングバックにぶつけ、高い位置に押し込みながらサイドでボールを保持し、鳥栖の前線と中盤を寄せたところで逆サイドへ展開。2名で中盤を守る鳥栖のセントラルハーフのスライドが間に合わないスペースを突いて、49分頃には関口、50分頃には永戸がペナルティエリア手前からシュートを放ちます。前半はシュートまで持ち込む仕組みができませんでしたが、後半はサイドチェンジをうまく使いだした仙台が攻勢を強めます。

さすがの鳥栖もこれには対策を打たなければならないと思ったのか、チョドンゴン、アンヨンウの2名をサイドのスペースのカバーに回すことに。撤退守備の様相を見せだした鳥栖の隙をついて仙台のボール保持がさらに加速し、鳥栖の守備陣を押し込んで高い位置をとることに成功した椎橋のミドルシュートからコーナーキックを獲得。このコーナーキックをクリアできなかった鳥栖が、最後はオーバーヘッドのパスを天敵長澤に決められて同点ゴールを上げました。

同点になってから試合は膠着状態へ。仙台がボール保持して攻撃をしかけるものの、前線をやや下げて5-3-2の形でブロックを組む鳥栖の最終ラインの攻略ができず、鳥栖もボールを持つ機会は減ったものの奪ってからのアンヨンウとチョドンゴンのスピードのあるカウンターで応戦。互いに決定機を迎えることのないまま時間が過ぎていきましたが、ここでも先に動いたのは仙台。照山に代えてリャンヨンギを投入し、再び4-4-2へシステム変更。鳥栖も連戦の疲れを気にしたのか、義希に代えて樋口を投入して中盤を活性化します。

前半は、4-4-2でのプレッシングの基準がうまくはまらなかった仙台でしたが、リャンヨンギが右のサイドハーフに入ると鳥栖のサイドバックのところを狙い撃つようにしてプレッシングの強度を強め、ボールの回収の回数を増やします。

ただし、ボールを奪ってサイドハーフが前進は果たすものの、サイドバックをうまく上げていく形ができないのは前半と同様となり、早めにサイドハーフから中央の長澤、阿部にボールを入れるものの、最終ラインを固めている鳥栖の網にかかってしまう展開に。そこから鳥栖もカウンターを見せますが、決定的チャンスとまでは至らず。

互いにボールは前進できるもののゴール前でのチャンスメイクできない状態が続くと、徐々に体力の衰えで間延びが発生してきます。ややオープンな状態でのカウンター合戦が始まり、78分頃には、仙台のカウンターで抜け出した関口を原が倒してフリーキックのチャンス。このチャンスで永戸のキックを大岩が抜け出して決めるものの判定はオフサイド。鳥栖としては肝を冷やしました。

オープンな展開となり段々とロングボールが多くなってくる両チーム。あとはどこまで体力が持つかというところで、仙台は石原、鳥栖は島屋をいれて前線の活性化を図ります。

85分頃に鳥栖はイバルボを投入。入って早速右サイドを抜ける島屋へシュートにつながるパスを送るチャンスメイクを行います。89分にはカウンターからゴール前右サイドでボールを受けて、切り返しをしようとするもののボールが足につかずにシュートまでには至らず。まだイバルボ10%程度という感じでした。

試合終了間際は互いにゴール前を行き来しあう激しい展開となり、試合終了間際にはクエンカが放ったシュートにゴールキーパーが弾いたところを秀人が押し込み、思わずヤッターと喜んでしまったシュートでしたが、判定はオフサイド。残念ながら、ぬか喜びのゴールとなってしまいました。

■おわりに
両チームともに選手もシステムも普段通りではないため、探り探りの中での戦いでした。互いに撤退守備を見せ、高い位置から効果的にボールを奪う機会が少なかったのが、シュート数の少なさに繋がったのでしょう。仙台としては引き分けでも勝ち抜け決定だったので良かったのかもしれません。

例年であれば早々にルヴァンの敗退が決まっていたところを、この貴重な勝点1で、2連勝すれば自力でノックアウトステージに進める状態でホームに戻ってくる事が出来ました。なんとかホームで良い試合を見せてほしいですね。

ルヴァンカップの勝ち抜けのチャンスは残りましたが、リーグ戦に出場しているメンバーを使ってるので、そのあたりコンディションの面はやや心配です。秀人、義希、三丸当たりの疲労がボディブローのようにたまらなければ良いかなとは思います。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

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