2019 第6節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖

2019シーズン第6節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

なかなかスタメンが固まらないサガン鳥栖は、原がスタメンから外れて藤田が右サイドバックへ。藤田のポジションチェンジに伴って出場停止明けの祐治がセンターバック。前節スタメンの豊田が外れてフォワードにはクエンカが今季初スタメンで入ります。セットアップは4-4-2です。

鳥栖と同様になかなか波に乗れない仙台もスタメンを変更してきました。キャプテンの大岩を外して常田がスリーバックの中央へ。右サイドは道渕に代わって蜂須賀が入ります。システムも若干変更してジャーメインとハモンロペスの2トップ、セカンドトップに吉尾と兵藤がポジションをとりました。セットアップは、攻撃時に3-1-4-2、守備時に5-3-2の形でこの試合に臨みました。

■ システム

図の通り、システム的にはお互いに数的優位(不利)な場所が発生します。仮に何も動かないとしたら、仙台は自陣でのボール回しは楽にできることになり、鳥栖にとっては最終ラインに人数が多く、特にサイドバックがあまっているので裏を突かれることなく安心して構えているという状況になっています。あくまでセットアップの上ではですね。皮肉にも、この後の動きで、数的には断然優位なはずのサイドバックの裏をがんがんと突かれだすことになるのですが(笑)

両チームともこれでは、勝ち点3を獲るサッカーにならないので、ボールを相手陣地まで前進するべく(ボールを相手チームから奪うべく)人の配置を変えながら試合を進めることになるのですが、このポジショニングの部分で両チームの差が出てしまいました。

鳥栖は選手の判断ミスが発生し、それに周りが追随することによってチーム全体として予期せぬエラーを招き、仙台は各人の判断にミスが少なく、チーム戦術を遂行する上でエラーなく統率された状態で試合を進めることができた…という所でしょうか。

決して、個人の質の差の問題ではなく、チーム全体として最適な状況を作り出すことができたか否か。ここがこの試合の勝敗を分けたポイントでした。

■ 仙台の攻撃のキーマンは3人のセンターバック

野球の格言なのですが、投手は5人目の内野手という言葉があります。投手は投げることに着目されますが、投げたから終わりというわけではなく、投げた後はダイヤモンドを守る内野手の役目を果たさなければならないという教えです。すなわち、チームスポーツは主役、脇役関わらず、誰もが状況に応じた役割を持ち、その役目を果たすことによって、チームとして最大のパフォーマンスを発揮できるという例えです。

同様に、特に現代のサッカーにおいては、フォワードだから攻めるだけ、ゴールキーパー、ディフェンダーだから守るだけという役割分担にしてしまっては、チームとしての最大限のパフォーマンスを発揮できません。この試合で仙台の攻撃が活性化したキーポイントは、紛れもなく3人のセンターバックが、鳥栖のフォワードをはがして前進し、長いボールを送り込むことによって、ボールの前進に寄与できた事であり、鳥栖の守備のキーポイントはフォワードが仙台のビルドアップに突破されたか、食い止めたかという所でした。

渡邉監督が試合後の談話で

「常田を起用した一番の理由は、ロングフィード、それで相手を大きく揺さぶって、相手の中盤と最前線の2枚、合わせて6枚を一気にひっくり返すことができるので、それを期待して入れました。」

と語っていましたが、常田に関しては言わずもがなの貢献でした。仙台が3CB+1CHのビルドアップに対して、鳥栖が2FW+1CHでのプレッシングとなり、ボール回しの中で、常田がフリーな状態でロングボールを蹴ることができるタイミングができてきます。そのタイミングで、サイドに幅をとる両WBに対して長く、質の良いボールを送り込むことができ、確実にボールを前進させる形を作ることができていました。

ただし、長いボールというのは、それが到達するまでに時間があるので、鳥栖も対応するための時間を作ることができます。また、長いボールを蹴るという事は、鳥栖の陣地深いところに向かって蹴りこまれるので、鳥栖としてはいやがうえにも全体がリトリートしなければなりません。攻められるという事自体は決して良い状況ではありませんが、このロングボール自体によって鳥栖の守備が芋づる式に壊滅するというわけではなく、あくまで深い位置に入り込まれてしまうというものでありました。

鳥栖にとって守備組織が崩れるエラーが発生した状況は、
「自らが主体的にボールを奪いに行こうとした瞬間」
でありました。
無論、ボールを奪いに行く事自体は悪くないのですが、それが良くなかったのは、
「自分たちが奪える形ではないタイミングであるにも関わらず前に出ていく」
という状況だったことです。

試合序盤で、しかも仙台が少しシステムを変えてきた状況下という事もあり、チームとして「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうする」「どんな風に」という5W1Hがまだ整っていない状況下で、その時のインスピレーションで前のめりになってしまったばっかりに仙台の術中にはまり、そして前半早々に先制点を与えてしまったことが、この試合全体を難しくしてしまいました。

鳥栖が難しい判断を迫られたシーンというのは明確でありまして、それは、
「仙台のセンターバックが、フォワードのプレスを外して侵入してきたとき」
です。

最初のシステム図でもありますように、仙台は最終ラインではボールを保持できる状況下にあります。その中で、鳥栖のフォワードのプレッシングが弱まった時に、仙台のディフェンスがボールを持ちだす動きを見せます。いわゆる「1列目」を突破された状況です。その状況下において、鳥栖としては「出る」のか「戻る」のか判断が必要となり、そして、チーム全体の判断ミスによって、一気に鳥栖のディフェンスが崩れるシーンを迎えてしまいました。

■ 鳥栖の守備システムのバグ
この試合は、最初の図でもわかる通り、仙台のセントラルハーフ(アンカー富田)を誰が見るかという判断もありました。鳥栖の回答としては、富田にボールが出るタイミングで、彼に前を向かれないようにボランチがプレッシャーをかけ、ボールを戻したら自陣に戻る動きを繰り返す、いわゆるボクシングムーブメントという動きで富田をけん制していました。

鳥栖のボランチが富田に対してプレッシャーをかけるというのは一つのポイントでした。富田に対してプレッシャーをかけるということは、最初の図でいうところの、福田もしくは秀人がかみ合っている相手選手を離して前にでるという事になります。「じっとしていれば何も起きない」というところに変化を加え、前からプレッシングをかけることによってかみ合わせにずれが生じる事になります。

<正常系>


前述のとおり、守備設計としては1列目の突破がカギを握っていました。まずは、鳥栖の守備の成功パターンから見てみましょう。

今回のボールの奪いどころはサイドであるのですが、フォワードが3センターバックの誘導に成功して、中央の常田がロングボールを蹴らないように見張りながら、平岡(もしくはジョンヤ)サイドにボールを回させます。そのタイミングで、もう一人のフォワードがさらにサイドに追い込むようにプレッシャーをかけたタイミングが、鳥栖がボール回収に動ける状況でした。

この動きであれば、サイドでしっかりと人を捕まえることができていますし、当初のかみ合わせでは空いていた富田に対してもボランチがしっかりと捕まえています。最終ラインも数的優位を保っていますので、仮に長いボールを出されたとしても先に追いつくことができ、万が一、サイドに抜け出されてキープされたとしても、中央にセンターバック、サイドバックと2名が残るので致命的な状況という形にまでは至りません。

この形でのプレッシングによって、鳥栖は高い位置でボールを奪い、ショートカウンターの機会を作ることも出来ていました。

<バグその1>

さて、本題。鳥栖のフォワードがプレッシャーをかけたい逆方向に仙台がボールを回すと、センターバックがボールを持ち出すチャンスが生まれます。センターバックがボールを持ち出したときに、パスの出し手をケアするのか、受け手をケアするのかというのは非常に判断が難しいのですが、その判断ミスが生じてしまったときが仙台のチャンスにつながっていました。

ひとつめは、自陣に入り込もうとするセンターバックに対して、鳥栖としてはまだミドルサードに入ろうかという高い位置であるにも関わらず、迎撃するかのようにサイドハーフが1列前にでてプレッシングを仕掛けてしまったことです。サイドハーフが出ていくという事は、リンクしているボランチ、サイドバックも出ていかざるを得ず、パスコースを防ぐために仙台ウイングバックには鳥栖のサイドバックが、仙台セントラルハーフには鳥栖のボランチがプレッシングを仕掛けます。

一方、最終ラインは、今年の守り方として相手の強いフォワードに対しては常に数的優位を保とうとするべく、最終ラインでの人数確保が方針となっている模様で、2センターバック+サイドバックで仙台の2トップを見る形で構えていました。

そうすると、必然的に数が合わない場所…今回は仙台のセカンドトップが浮いてしまう状況が発生してしまう事になり、
「この選手は誰が見るとカイナ?」
…という事態に陥ってしまうのです(敗戦のショック(笑))

序盤から、鳥栖がプレッシングをかけるもののうまくはまらずに吉尾に自由を与えて簡単にサイドのスペースを使われてしまったのは、鳥栖のプレッシングの判断ミスから生まれたものでありました。

<バグその2>

こちらは、ある程度鳥栖がリトリートしている状況なのですが、序盤からセカンドトップをフリーにしたことによって、鳥栖も修正を加え、中盤もしっかりとスライドしてセカンドトップをボランチが捕まえるという形に修正をしてきました。ただ、やっぱり1列目が突破されてしまうとつらい状況というのはどうしても発生するわけでありまして、全体がどう振舞うかという所がポイントとなり、簡単に言うと、どこを重要視して、どこを捨てるかという判断を迫られます。

仙台は両サイドに幅をとるウイングバックを置いているので、中央が難しい場合は簡単に外にボールを回すことができます。サイドバックとしてはウイングバックをケアしたい、でも、センターバックは中央にいるセンターフォワードが気になって動けない。サイドバックとセンターバックの判断にずれが生じてしまうという、そのジレンマの狭間で生まれてしまうのが、CB-SB間のスペースでした。

ジャーメインもハモンロペスも中央で待ちかまえるよりは、両者ともにゴール前でスペースを見つけると、ボールがもらえる位置には惜しみなくスプリントしてポジションを動かすことのできる選手です。無論、吉尾に至っては、その動きを期待されて起用されている選手であります。センターバックが追随したり、ボランチのケアがないまま、藤田や三丸がウイングバックに食いつく動きを見せた時こそが、仙台FWが侵入してくるタイミングであり、ゴール前に起点を作られてしまう形となります。

ブルシッチがPKをとられたシーンがありましたが、これも、サイドバックが仙台の幅をとる選手に引き寄せられてSB-CB間が空いてしまい、そのスペースにボールを送られて祐治をサイドに引き釣りだされてしまったことによって、中央がブルシッチ一人という状況を生んでしまいました。彼が焦ってクリアミスをしたことは確かにミスではあるのですが、彼が焦ってしまう状況を生んでしまったのは、チーム全体の守備設計のバグですよね。

改善するとすれば、マリノス戦のような動きを見せればよかったわけでありまして、侵入されても焦らず、選手間のリンクが切れないようにコンパクトな状態を保ってスライドすることは必要でしょう。

あとは、仙台のウイングバックに対して誰がどのタイミングで出ていくのかという決めごとですね。サイドバックが出たとして、空けたところをセンターバックがスライドするのか、ボランチが落ちるのか。そのときにフォワードも落とすのか、逆サイドが絞って来るのか。

もしくは手っ取り早いのは、名古屋戦のように、守備時にはボランチとフォワードを1枚下げて5-4-1にしてしまうとか。CB-SB間を開けてしまわないように、数の論理で埋めてしまおうというのも一つの策としては妥当だと思います。ただ、後ろを重たくすることによって仙台にボール保持を許すことになるかもしれませんが、そうなると押し込んで前に出てくる仙台センターバックの背後のスペースをカウンターで利用できていたかもしれません。攻守は表裏一体ですよね。

■ ラインコントロール

図は、鳥栖の2失点目のきっかけとなった、サイドの裏のスペースにボールを蹴られてポイントを作られてしまったシーンです。この試合では、サイドの裏のスペースに出されてセンターバックがつり出されるというシーンを数多く作られてしまいました。その原因は、最終ラインが上手にラインコントロールできていなかったことに起因します。

例えば、このシーンですが、仙台の最終ラインに対して強いプレッシャーをかけており、パスをつなぐ相手に対しても鳥栖の中盤が封鎖して、ジョンヤは蹴るしかない状況に追い込まれている状況です。蹴るしかない状況に追い込んでいることを察知したのか、もしくはウイングバックへのパスを警戒したかったのか、藤田はラインを上げている状況でした。しかしながら、祐治とブルシッチが仙台のフォワードの抜け出しが怖いのか、藤田のラインに合わせずに低い位置を保ったままの状況となっています。

これによって、サイドバックとセンターバックのポジションに段差ができて、サイドバックの裏のスペースを与えてしまったうえにオフサイドも取れないという、最悪の状況を生んでしまいました。ラインコントロールができていなかったという部分も、この試合の大きな問題点のひとつであり、失点の要因となってしまいました。

■ 鳥栖の攻撃
<パスネットワーク図(前半のみ)>

今回の鳥栖は、長いボールをフォワードに当てるという攻撃はほぼありませんでした。これは前線がクエンカ、金崎であるということが要因でしょう。彼らに長いボールを当てたとしても決してストロングポイントではないので、ボールロストの可能性の方が高まります。

コンセプトとしては、しっかりとボールをつなぐ。そして、左サイドを有効活用するというところでしょうか。矢印の流れを見たらわかるように、全体的にボールの流れは左側へと矢印が向かっています。鳥栖がボールを奪うポイントは右サイド、左サイド、双方あるのですが、そのあとの攻撃の主体(ボールの流れ)としては左サイドに重きを置いていました。

特に、三丸は攻撃のキーマンとして活躍していました。ゴールキーパーからボールを受ける役割、そして高い位置にポジションをとって、ビルドアップでつないだボールを最後にクロスとしてゴール前に送り込む役割という、起点と終点のタスクをしっかりとこなしていました。この試合、チーム全体としてクロスは12本上がっているのですが、そのうちの7本(約60%)は三丸があげたものです。右サイドバックの藤田のクロスは1本だったので、左サイドからの攻撃がメインだったことは数字としても明らかですね。三丸を高い位置に上げて彼がクロスを上げることのできる状況を作るために、左サイドに人数を多く配置して、ビルドアップで崩していく戦術なのでしょう。

ちなみに、横浜FM戦のクロスは7本でしたので、仙台戦の方がチャンスメイクできていたと言っても良いでしょう。DOTAMAさんが、保持率とパスだけでは得点は取れないと言われていましたが、保持率とパスのおかげでチャンスメイクはできていたのかなと。大事なのは、その先の精度とフィニッシュの部分です。

<フィニッシュについて>
そこで、フィニッシュの話になるのですが、この左サイドに人数を集めて崩してクロスという攻撃の形に課題がありまして、それは、ビルドアップや崩しに金崎、クエンカを要することによって、ゴール前でクロスを待ち構えるのが、義希、松岡などの決してヘディングがストロングポイントではないメンバーになってしまっていた点です。

彼らは、本来、フィニッシャーの役割ではなく、ビルドアップであったり、裏に抜けてクロスを上げたりと、どちらかというとチャンスメイクをこなすべきプレイヤーです。今回の攻撃パターン上、右サイドハーフやボランチがフィニッシュの役割を担わなくてはならず、彼らがゴール前でクロスを待ち構える形になっていましたが、フィニッシュの役割としては迫力不足でした。

当たり前の話ですが、ゴール前でクロスを待つメンバーが、松岡・義希よりもトーレス・豊田という方が相手にとっては恐怖の度合いが高まります。攻撃においても、配置が適材適所であるのかという事は重要であり、得点が入らないことを、「質的問題」という便利な言葉で片づけられないですよね。それこそ、選手の配置に関しては、監督・コーチの役割です。

その点を考えると、例えば、選手交代は小野(ヘディング強い)を右サイドにおいてフィニッシュの場面で活用する配置にしたり、ボランチを飛び込ませるならば谷口(ベンチに入っていませんでしたが。ヘディング強い。得点力高い)を起用するという選択肢もあります。

交代して入った小野とチョドンゴンは何を意図した上での起用だったのかも気になります。小野もチョドンゴンもチャンスメイク側に入ってしまったのでシュート0本で終わってしまいました。それではちょっと寂しいですよね。

原川に代えてチョドンゴンを入れることによって、サイドのスペースに侵入して起点となる動きを見せてくれましたが、彼もまたチャンスメイク側に回ってしまったばっかりに、ゴール前でクロスを待ち構えるという役割をこなすタイミングがなかなか来ませんでした。果たしてその役割を与えることが彼の能力やチームとして求めることを最大限達成できるのかという所ですよね。

<クエンカについて>
今回は、クエンカが初スタメンだったのですが、彼のボール保持も独特の空気とタイミングを持っているので、周りが慣れて動き出せるのには時間がかかるかなとは思いました。彼がどのタイミングでボールが欲しいのか、どの位置でほしいのか、どの状況であったらパスを出せるのか。

ただ、ボール保持と循環は彼が入ったことによって確実に質が上がっています。ネットワーク図を見ても明らかなように、ハブ空港のような役割を果たし、彼を中心にパスが展開されています。そのボール保持の質の高さをビルドアップの出口からの展開として使うのか、それとも高い位置でのラストパスで使うのか、そしてその場所はサイドなのか中央なのか、ある程度の約束を与えないと、彼の自由な動きで回りがついて来れず、チームとしてスペースを作る動きもボールを受ける動きもままならないように見えました。

怪我などの事情で仕方がないかもしれませんが、毎試合スタメンが異なるのは、お互いが特徴を理解するためにはデメリットとなります。選手間の動きを把握しているからこそ、個人のインスピレーションに合わせた攻撃が確立できることもあります。例えば、豊田がクロスではファーサイドに逃げる動き、中央では裏に抜け出す動きが多いというのを義希は知っているかもしれませんが、クエンカは知らないかもしれません。その動きを知っているだけで、パスを送り込むポイントが異なり、それはゴールの成功確率の違いにも繋がります。戦術だけではカバーできないことは、試合の中で培っていくしかありませんので、様々な選手を使えば使うほど、ある程度の期間はかかり、我慢が必要なのかもしれません。

<右サイドの連係について>
攻撃パターンといえば、右サイドは非常に良い崩しを企画しておりまして、金崎がハーフスペースに入り込んで、藤田から縦パスを受けて相手を背負ってボールを受けるシーンが何回か見られました。金崎が背負ったタイミングで、松岡も藤田も動き出すのですが、せっかく前を向いて走ってくる状態の良い彼らにボールを渡さずに、金崎自身がターンしてゴール前に入っていこうとするので、仙台のディフェンスにことごとくカットされていました。

例えば、仙台戦では、37分のシーンや45分のシーンなど、金崎が背負ってボール保持したタイミングで、(やや抜け方が悪かったですが)松岡も藤田も前を向いて抜け出せる位置にしっかりとランニングし、レイオフ(スイッチ)を狙って動き出すのですが、金崎からボールは出てきませんでした。これは、仙台戦に限ったことではなく、神戸戦でもFC東京戦でもそのようなシーンは多々発生しています。

おそらく、戦術のパターンがしこまれていないのでしょう。金崎のセンスでボールを引き出せる位置に入って受けるというところまでは対応し、松岡も自身の経験からボールを良い形で受け取れる状況を作り出そうとしているのですが、味方をどのように使うのかというところは、選手たちの即興に任されているため、良い動きをしても展開につながらないのかもしれません。もしくは、金崎が松岡、藤田を信頼していないか。

相手を背負って後を向いている選手よりも、前を向いてスプリントしている選手の方が、圧倒的にゴール前に近づける可能性が高いのですが、そこに対してボールをださないのには、チームとして、個人として何か理由があるはずです。

■ 仙台の守備

この試合での仙台の守備は非常にわかりやすくて、サイドバックにプレスがはまったらそのまま全体でプレッシング、はまらなかったらリトリートという、すごく単純でありながらも、選手全員の状況判断にミスが少ない形で対応していました。早めに先制点を挙げたので、無理をして前に出ていく必要がなくなったからというのもあるでしょう。ここで無理をしなくてよくなったために、ボールが奪える形にならないと判断したら瞬時に5-3-2ブロックを構えるべく全体がリトリートしていました。そのあたりの意思疎通が鳥栖の守備フェーズと異なったところです。最初の失点につながるパスミスも、仙台のブロックに対して有効な手が打てず、ブロックで構えられている状態の中、右サイドから左サイドへ大きな展開をしかけたところをカットされてしまいました。

■ 仙台の攻守の切り替え
この試合でもうひとつ語るポイントがあるとすれば、攻守の切り替えでしょう。とにかく、仙台は攻守の切り替えにおいてオーガナイズされていました。

<攻から守>
まず、攻から守の切り替えですが、鳥栖のゴール前でボールを失ったとしても、セカンドトップを中心として即座にプレッシングに入り、鳥栖のボール保持に自由を与えませんでした。鳥栖の今節の戦術である「ボールをつなぐ」というのがこのカウンタープレッシングにぴたりとはまってしまいまして、すぐにボールを蹴っ飛ばすならばプレッシャーにはまらないのですが、中途半端に保持してしまう(※)ので、奪ったもののすぐにボールを失ってしまうという事態が訪れてしまいました。

※ 守備の際のポジショニングがバラバラだったので、誰がどこにいるのか明確でなく、ボールを奪ってからのつなぎもデザインしきれていなかったのでしょう。

2失点目は、見た目にもわかるように、ガチャガチャの最終ラインであったにも関わらずつなごうとして、仙台の強いネガトラプレッシャーに負けてしまって原川のミスを誘発してしまい、仙台にプレゼントパスを送ってしまいました。

3失点目は、裏に抜け出したハモンロペスから秀人ボールを奪ったのですが、リャンヨンギのネガトラプレッシャーが強くてボールロストしてしまうところからスタートします。ここも、きっかけは仙台のネガトラのプレッシングなんですよね。その後、左サイドの石原がカットインして、ハモンロペスにボールを渡されてからの失点でした。

ちなみに、この時の石原の動きは非常に秀逸でして、ハモンロペスにボールを渡した後も右サイドのスペースに向けてスプリントしています。これで、三丸がハモンロペスに寄せるのか、石原が狙うであろうスペースを消すのか、一瞬迷いました。この迷いによってハモンロペスに寄せきれず、ブルシッチが抜かれてしまって失点してしまいました。いまの鳥栖に足りないのはこの動きなのではないかなと。

<守から攻>


仙台の守から攻への切り替えにおいては、鳥栖の攻撃パターンとポジショニングによるスペースを見事につく攻撃を繰り出していました。

前述のとおり、鳥栖のビルドアップが、左サイド重視であったため、時折ボランチがアウトサイドにポジションを移して仙台のブロックの外側にポイントを作ってからの崩しを企画していました。この仕組上、右サイドハーフがゴール前に顔を出してフィニッシュを狙うというところなのですが、全体が左サイドによっているために、鳥栖の右サイドに大きなスペースを生んでしまい、カウンターの場面でハモンロペスや石原が上手く抜け出して一気にボールを運ぶという形を作られてしまいました。攻守の切り替えのデザインに関しては、仙台の方が上手であったかなという印象です。

■ まとめ
局所、局所では、選手の個の質を前面に押し出してボールを保持し、また、数的優位を作り出してボールを前進することもできていました。足りないのは試合全体をどのようにデザインするのかというところでしょう。この試合で一番多くのシュートを放ったのが松岡の2本です。果たして、左サイドからのクロスを松岡が合わせることがこのチームの狙いなのでしょうか。

スタートダッシュに出遅れたことを考えると、将来を見越したシステム、将来を見越した選手起用という余裕が徐々になくなってきています。「やりたいサッカー」という大げさなものでなく、ただ、単純に、いまのサガン鳥栖のメンバーではどのようなサッカーがいちばん生産性に優れ、どのシステムを起用し、どこに配置したら選手達の能力が最大限発揮できるのかというデザインにプライオリティをおいてほしいです。誰にどの役割を任せたら良いのか、誰がどんなプレイが得意なのか、そこは、監督、コーチだけでなく、選手たちも意見を言い合って、チーム全体としてよく考えてほしいですね。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事


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