相模透

ツイッター @dereinzige5

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最近の記事

神の死骸における生態系

孤独死していく花を見たくて 摘んだ花をひび割れた花瓶に挿した 滴る水滴の音を聴いて 死んでいく私の身体 やがてその根は私へ伸びて 花に命を奪われるという ただ一つ許せる終わり方を 羽化できないように狭く作られた蛹室  みたいな部屋の壁際に座り込んで迎える  生きろと言われたことがなくて 私と神の関係だけが残った 間引かれた花にとっての満開が幻肢痛であるように 初めから実像が欠けている  その煉獄を全うするために 何にも救われず死ななければならない 一切

    • その後の話、孤独について

      その後の話をしよう。 同じクラスで、ある日学校に来なくなって風の噂で退学したと聞いたクラスメート。鬱病になって会社に来られなくなり退職した同期。受験に失敗して引きこもり、母親を殴っていると伝え聞いた同級生。いずれも僕が人生ですれ違った人で、彼らにも死なない限りその後がある。レールを外れたあとのその後の人生。僕は学生時代暗くて友だちがいなくて、学校もさぼりがちだった。殆どの人間の視界に入っていなくて、話さざるを得なくなって僕と話すときのクラスメートはみんな嫌そうな顔をしていた。

      • 喪失

        失ったと言えるほど何かを得たことはないが、喪失感がつきまとっている。例えば詩作。十数作作ったが何かの賞を得るでもなく、佳作に引っかかって終わった。まだ制作はしているが、結局全部無意味なのではないかと思いながらパソコンと向かい合っている。短歌も、たまに新聞に載る程度で気休めにしかならない。僕の言葉は汚言とそれ以外の差が激しい気がする。それ以外も大して美しくはないが。仕事も、就活に失敗して入った会社だから大して身が入らない。元々何かに身を入れた過去もないから余計に虚しい。毎日何の

        • 水に焼ける

          幼い頃母は言った 最後はみんな花と一緒に燃えるの それからずっと 花の色が痛い 神経をなぞられるみたい  気づけば私は 一つの痛覚だった 火傷にめくれていく肌膚 光芒は目を焼き 照射する色彩は 焼け付くような水色 それは神も薄まる抽象 私は 水に焼死したい そのために この手を春の海に浸して 私が可燃物か確かめる 波の先が光って 指先から零れていく水に 私の火葬を想像する 視界は薄まり 光を失う前に 死に似合う花を探して 摘んだ一本の菊 この身に湛える 無意味を垂らすと発火し

        神の死骸における生態系

          虚無について

          虚無が流行らなくなったからといって虚無を捨てることはない。流行りに乗ったわけではなく必要ゆえに纏ったものだからだ。捨てるならば流行り廃りでなく己の意思で捨てる。かつて自死が思考を塗り潰し、死に半身を浸していた僕を救ったものは虚無であり、生と死の境界を溶かす許しだった。今の僕にも必要か、といえばかつてほど切迫して要しているとは言えない。しかし僕にとってそれは絶えぬ詩の源泉であり、汲み尽くし難い豊潤であり、故郷なき魂の故郷である。だから虚無と決別するときが来るならば、それは生か死

          虚無について

          斜陽

          明日にはもう この世にいない未亡人が 最後の化粧を施して あとはもう 枯れていくだけの花に水を遣る為 ベランダに出る 濃紺に沈んでいく街に 命の喧騒を燃やした 残り火のような夕焼けが射して 最後の水遣りを浴びた 花びらに垂れる水滴が赤く染まった 花言葉なんてぜんぶ死でいい 何故生きてきた  一筋の 月明かりにもなれはしないのに  私はきっと 遺灰すら美しくない 描かれるなら 油画でなく水彩画で 名を冠するなら 花の類語に 花瓶に挿すのは 雪解け水に咲いた花 私の死体が燃える

          告解

          無言で自死を指示すだけの 風景を形骸にするために 人、物、存在へ 捨象の自由落下を経て 最後にたどり着く教会 私の心臓を 止めるための毒を携え 一つの告解を以て 今この場所で 生死を判ずるために そこに遍く静謐な永遠に 跪いて懺悔する 私は  生きながらに死ぬために 己の名を刻んだ墓を建て そこに献花を添えることだけを  私の持つただ一つの意味として 非存在で己を濯ぎ  死に浴し 神も薄まる抽象に触れ ただ息をするために死を許した その先に 廃墟に光る非常灯のように おぼろ

          冬景

          真冬に 清澄な空気越し 星座が一層眩しいように 破滅はその原色を顕わにして 目覚ましの音は 絞首台の床が抜ける音 コンクリートの灰色は 死だけが似合う無機質 風景は逆向きの刃として 切っ先は僕の最奥を指している そうやって僕は 表象の数音階下の 可聴域外で鳴り続ける 終わりを採譜して  現れた歌は 命の拒絶 コートを着込むように 自閉した僕の 人間性の形状は その結論への途中式でしかなかった 生は 一個の痛覚  憂鬱を活ける花瓶 冬が終わる前、 事象の水底は 遠くともその色

          生きる意味がない

          生きる意味がない。明日を迎える理由がない。朝ベッドから起きる意義がない。一歩足を先へ出す動機がない。詩を書いても結局何にもならなかった。人生は続いているし、相変わらずこの生に意味はない。詩作は意味を見いだす練習だった。明日を生きる意味を見いだす練習。文章を書くことに意味を見いだす練習。それは何かに結実することなく、コンクリートに落ちた花の種子みたいに、終わっていくだけの無為でしなかった。なんのために、なんのために。青臭い問いだろうか。しかし僕にとっては生死がかかっている問いだ

          生きる意味がない

          労働

          仕事で何かミスをしては上司や客に詰められている。今日も上司や客からの詰めが入り、仕事が終わっても帰る気力が湧かなかった。重い身体を引きずって帰りの電車に乗り、仕事のことを反芻してぼーっとしていたら降りる駅を通り過ぎ、3駅くらい過ぎてからやっと気付いて電車を降りた。駅のベンチに座ってほどけたビジネスシューズの靴紐を見つめていた。仕事中も仕事が終わってからもずっと死ぬことを考えている。死ぬくらいなら仕事を辞めて家も出て(仕事を辞めたら家庭に居場所はなくなるに決まっている)、どこか

          清拭

          何も得なかった 牡丹雪が積もることなく 地に染みていくように 細粒化した日々 それを 散り際へ捧げるために 白い花の種を植え 燃えるために発芽して 灰になるために咲いた 命の形から生ずる 収斂としての弔花 死に濾過されて 沈殿した祈りの残骸を 糸に紡ぎ死装束を編む 残りは細かく砕き白粉を 死に化粧へと仕立てて 遺灰が白くなるように 白いものだけを口にして 髪の色素が抜けていくのも 肌の血の気が失せていくのも 終わるために在るから 私に似合う化粧は 死に化粧だけ 呼吸器の電

          花を冷凍する

          すべてを終わりで透かして 何もかも最後の姿でしか見えない だから僕は花を冷凍した 造形物は永遠への過程であり そんな空疎の集塊を世界という 僕らは 墓に話しかけるしかないのか 静寂より綺麗な音はあるか それが最後の言葉でいいのか アサガオと同じ寿命がよかった 祈りが露天しないように 空位の祭壇こそ僕の神だ、と その本質に自壊を孕むものへ まだ時計がなかった頃の時間を 凝固剤として混ぜこんで 凍った花を流れる水滴から、目を背けた さっきの挨拶も誰かの笑顔も 遺言   遺影 

          花を冷凍する

          遺棄

          命を捨象する 形而上的通り魔 被造物は無色へと瓦解して 宇宙は可燃物だから 漂白の炎は延焼する 遺灰の砂漠を歩み 僕は我に返り続けて 神の空位を覆う糊塗を 爪が剥がれても尚取り去った 氷穴に風が鳴る音を 福音と思って耳を傾けるような 寸劇を終わらせるために 僕は育てた花を捨てた 己の造形も有り様も その一つ一つをつまんで眺めて 在ることと在ることの是認の間にある 神経的な癒着を切断した それが本物ならば 最後に何も残らなくても 終わりを許す 降り落ちる雪の  一つの結晶に思い

          無為

          雪が落ちる 微かな音のように在り 机上のスノードームがひび割れて 永遠が零れ出る 茫漠は吹雪いて 最初から空いていた穴を 欠落と呼ぶような形骸の重奏 それを押し花にして 讃美歌だけが聴こえる夜に挿した すべてを見失うための標識として その肌に雪が 落ちても溶けることはなく 眩い無彩色へと眠りに落ちて 二度と目を開けることはない 僕はいままで 生きていたことはない 雪解けの染みを指でなぞって 僕の目が 夕焼けを見るためだけにあるように 命に一滴の無為を垂らして 身を投げた祝

          供花

          鬱血した現実に 血清か毒かも知らぬまま  海を流し込んだ 境界は決壊して 朝露が葉脈をなぞるように 抽象が僕の輪郭を伝い落ちて 等しく青い黙祷に水没する 報いを求めぬ信仰が 神の不在を水源とするように 根もないのに咲く花が 意味的な雪原に芽吹いた その仮象の薄氷を 足場に飛び立つ冬鳥 無重力に四肢を伸ばして 街は空疎な形象の羅列 指先が世界の端と繋がり 澄んだ復讐は遍く 神なき場所こそ聖域と呼び 空洞ゆえ無疵の祝福を 花はすべて享受せねばならない 咲くことなく枯れ落ちた

          仮象

          自動販売機の釣り口に 残った小銭は神の残り香  生と死の可食部を漁って 神と無意味の間の浅瀬に 足だけ浸かり 吹雪は足跡を消していく 枯れた花に水遣りして 皆道連れに選ばれただけ へその緒を繋ぐ先は 誰にもわからなかった 私を仮に人間として 焼かれたページを読もうとして 死体に心肺蘇生を繰り返し その時間の食痕を生と呼んだ 死産した胎児に名付けるように 祈りはすべて空を切った 冬に殉じた渡り鳥の 墓標としての樹氷から 雪が落ちる音で 命を水色になるまで薄めて 予め与えられ