七夕に選ばなかった「愛」と紅月の「願い」
既存楽曲の追加が先か、新曲イベントが先か。
年度の切り替わりからずっとそわそわしていた。
選ばれたのは、楽曲追加だったー
七夕を題材にした七夕以外の歌
『夜空、然りとて鵲は』
この楽曲が追加される時期について、七夕付近なのでは?と予想していた。
なぜならタイトルにある「鵲」には、天の川に橋を架けて織姫と彦星の逢瀬を手助けしたという伝説が残されているからである。
しかし、予想は大きく外れ、2024年9月24日にゲーム内に実装された。
「七夕でないならいつだよ!」と鼻息を荒くしていたが、作詞者であるこだまさおり氏の解説を聞き直して己の浅慮を嘆いた。以下、その内容である。
こだま氏曰くこの曲は、七夕の夜に愛の契りを交わせなかった未練と、後悔を抱えた男の歌とのこと。
そして七夕がモチーフだが、七夕以外の日を指す歌だという。
すぐには内容が咀嚼できず、改めてタイトルに目をやる。
『夜空、然りとて鵲は』
然りとてとは、そうはいってものように逆接の意味を持つ。
つまりタイトルを言い換えると、「(七夕の)夜空、そうであっても鵲は(天の川へ橋を架けなかった)」となるということか。
なんてこった…そんなの、七夕に実装されるわけないじゃないか。
「男」たちの「未練」と「後悔」
先にも述べた通り、『夜空、然りとて鵲は』では「七夕の夜に、愛の契りを交わせなかった未練と後悔を抱えた男」が描かれている。
ここで出てくる「男」とは、「紅月」の3人を指すと解釈する。
なぜなら、それまで「男」で一貫していた人称が、大サビで「俺たち」に変わるからだ。ここでいう「俺たち」とは歌い手である「紅月」だろう。
加えて、Aメロの歌詞もそれぞれを3人を表現するように感じるからだ。
夢ノ先学院を改革するという果てなき野望を掲げ、時に非情に、ときに強引に茨の道を突き進んだ蓮巳くん。
そして蓮巳くんの野望に手を貸したことを憂い、幼馴染の悲痛な叫びに思わず伏せていた本音をこぼした鬼龍くん。
そんな2人を内面から慕い、ただ真っ直ぐに付き従う颯馬くん。
歌割りも含めて、この曲は「紅月」自身のことを歌っているように思える。
さらに、七夕に願いが成就されなかったという点においても、彼らを指す楽曲であることを強く思わせてくれる。
では彼らが七夕に残した未練と後悔とは何だろう。
それは、【七夕祭】で手放した「勝利の切符」と応えられなかった「ファンの期待」と考える。
そして、成就されなかった願いとは「圧倒的な勝利」を掴み取ることではないだろうか。
🎋🎋🎋
夢ノ先学院における大規模なドリフェス【S1】。
その中の一つである【七夕祭】は、年中行事を題材とした学院の伝統を残しつつも勝ち残り戦という斬新な内容だった。
伝統と革新に重きを置き、かつ体力に定評のある「紅月」にはうってつけの舞台である。
【DDD】での雪辱を果たすべく、とりわけ蓮巳くんは意欲を燃やしていた。
揺るぎない勝利を豪語していた「紅月」だったが、終わってみれば1回戦敗退という何とも不完全燃焼な結果だった。
彼らの舞台演出に不備があったわけでも体調が悪かったわけでもない。現に「紅月」は1回戦で対戦相手の「Ra*bits」に勝利している。
なのになぜ、彼らは勝ち残れなかったのか。
それは会場設営を担当していた生徒会のトラブルに対処するため、一度手にした勝利を対戦相手に譲ったからだ。
生徒会の仕事も手を抜きたくないと、蓮巳くんは不本意ながら舞台を降りた。
蓮巳くんが抜けてはパフォーマンスに綻びが出ると、鬼龍くんも颯馬くんを連れて舞台から降りた。
勝ち残れる実力を有していながらも、自らの意思で舞台を降りた。
だがそれは、「紅月」を観にきたファンの期待に背く行為ではないか。
アイドルと生徒会、どちらも蔑ろにしたくないというのは蓮巳くんのわがままだ。
舞台に残る権利を手放し、ファンの期待に応えられなかったことーこれが「紅月」の【七夕祭】における未練であり後悔だと思う。
しかし彼らは同時に、別の後悔を晴らすことができた。
自分たちが有利になるシステムの上で勝利を収め、若い芽を容赦なく潰しにかかった春の【S2】。「紅月」は生徒会勢力として非情なまでの圧政を敷き、対戦相手である「Ra*bits」から根こそぎ観客を奪った。
しかし、そうして得た勝利は手放しで喜べるものではないと感じていたようだ。
偶然か必然か。「紅月」は【七夕祭】で再び「Ra*bits」とあいまみえた。
そこで正々堂々とライブ対決を行ったことで、彼らの確かな実力と成長を感じ取った。
だから「紅月」は「Ra*bits」に舞台に残る権利を譲ったのだ。そこには贖罪の意味も込められていた。
ともに夢の先へと邁進する同志に対する仕打ちを後ろめたく思っていた「紅月」。それを面と向かって吐露できたことは、彼らにとって【七夕祭】での大きな収穫だったのではないだろうか。
あの日選べなかった「愛」と鵲に誓う「願い」
大サビにて、「俺たち」は鵲にある願い事をする。
この楽曲における「鵲」とは何を指すのだろうか?
歌詞にもこだま氏による解説でも明言されておらず、真意は分からない。
しかし、『夜空、然りとて鵲は』が「紅月」自身のことを歌っているとするならば、私は「ファン」を指すと解釈する。
なぜなら「紅月」と「勝利への栄光」、この両者の橋渡しになるのが「ファン」の存在だと考えるからだ。
そうであるならば、【七夕祭】で彼らが選べなかった「愛」とは「ファンの期待や応援」であるように思えてならない。
よって、最後の歌詞は「紅月」からファンへ向けられた「願い」であり「誓い」と捉えることができると思う。こんな具合に。
楽曲のリリース時期から察するに、事務所に属してアイドル業界の厳しさを痛感してきた頃だろう。
自分たちの躍進にはファンの存在も必要不可欠であると、そう認識できたからこそ歌えた楽曲なのではないだろうか。
MVの終盤にて、紙吹雪の中にひらりと舞う1枚の羽。
男たちの願いに呼応するように、鵲は空へと羽ばたく。
今度こそ、彼らの栄華への架け橋となるためにー
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