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【男の自画像-11】米国の光と影

 バスは、ニュー・ジャージー州に入った。

 そう言えば、NY州マンハッタンには、緑がない。木がない。街路樹もなかった。ここ、ニュー・ジャージー州では、灌木が見える。看板も見える。

 僕たちが行ったマンハッタンのとある場所は、看板が殆どなかった。
繁華街にも、あの有名な五番街にさえ看板が殆どなかった。
日本で言えば、大手町のようなビルばかりの街並である。

 しかし、ビル自体には、中世風の彫刻がされている。ビルのデザインも街全体が示し合わせたように統一されている。僕は、このセンスがなかなか良いと思った。

 日本の新宿は、俺が、俺がと言わんばかりに看板が大きくでしゃばっている。秋葉原などは、その最たるものだ。

 NY州は、道路が悪い。何処でも、ボコボコだ。ガイドのMさんによるとNY州は、お金がないらしい。消費税を8%近くも取っておいてどうしたものか。

 ここニュージャージー州では、60%が賭博の利益らしい。なるほど、ハイウェイは綺麗なものだ。バスも揺れず心地好い。

 何処の国でもお金が一番強いのか。

 ウォール街への入り口が右に見える。信号待ちだ。バスの左側に高級車がスーと止まる。前には2、3台の車が止まっている。その左側にふらふらと浮浪者らしい人が見える。なにやら運転手と話しをしているが、遠くてよくわからない。

 興味本位に見ていると浮浪者は運転手から物乞いをしているのだ。信号待ちのわずかな時間を狙っての出来事である。僕が感心したのは、運転手の行動であった。僕が運転手なら、窓を閉めてしまい知らん振りをするだろう。

 しかし、高級車の運転手は、前の車に物乞いをしている浮浪者に気付くなり、ゴソゴソとポケットに右手を突っ込み小銭を探している。そして、自分の車にくるや否やさっと小銭を渡したのだ。10セントくらいなのだろうか。バスからでは良く見えない。
 浮浪者は嬉しそうに、にこにこしながら後続の車に向かって歩き始めた。彼等にとってはいつもの光景なのだろうが僕にとっては、ちよっとショッキングな出来事であった。

 物乞いをするのも当たり前、恵んであげるのも当たり前。多国籍ならではの風習。偉大なる国アメリカなのか。悩める国アメリカなのか。

 TVのCNNや新聞の記事でしか知らないウォール街。世界を動かしているウォール街。

 ガイドのMさんのアナウンスに今まで寝ていた人も興味を持って聞き始めた。僕も身を起こすようにシートに座り直した。Mさんのガイドによると、建築物のデザインには、10%程度の芸術性を取り入れなければならないとのこと。この辺のビルも、中世の彫刻をあしらった感じのデザインである。派手な看板、作りたい放題の日本の看板とは全く違うものと感心した。

 信号が変わった。バスは右に曲がる。狭い路地にバスが入る。CNNで見覚えがあるビルが見える。間違いなくウォール街らしい。

 前から来る車と擦れ違うのにバスの運転手は大変らしい。道行く人は、「なんでこんなところに大型バスがくるのだ」といわんばかりの顔をしている。道路の標識も窓から手を出したら届きそうである。道は狭く、まさに路地といった感じだ。

 今は、11時ちょっと過ぎたところ。太陽は、車窓のはるか上にある。天気はいい。ビル群のわずかな隙間から青空も見える。

 しかし、街は全体的に暗い。そう日陰が多いのだ。

 ビルが摩天楼のように高く、そして密集しているので日が当たらないのだ。
NYウォール街。

米国は、影と光のある街だった。

がんになってから、「お布施をすると気持ちが変わる」ことに気がつきました。現在「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」に毎月定額寄付をしています。いただいたサポートは、この寄付に充当させて頂きます。サポートよろしくお願い致します。