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『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』と『ミッション:インポッシブル』シリーズの魅力を大解剖。

割引あり

7月21日から劇場公開したトム・クルーズ主演の最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。その魅力をこれまでのシリーズ作や監督たちの演出術、スパイ映画のライバル『007』との違い、トム・クルーズの生き様をブラッド・ピットらと比較する、など様々な視点で解説。『ミッション:インポッシブル』シリーズへの愛を語った特集記事となっています! 


トム・クルーズは、なぜ撮影初日に超危険なバイクアクションへ挑んだのか?
最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が何度も観たくなるハナシ。


『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の撮影風景

この人が主演なら、映画館のスクリーンでその活躍を目撃したいーー。そう思わせてくれるスターがごくわずかとなった時代、彼だけは、あらゆる世代の観客を映画館に向かわせる吸引力、つまりスターのカリスマ性を保っている。その名は、トム・クルーズ。現在61歳の彼だが、昨年(2022年)は『トップガン マーヴェリック』が世界的に大ヒット。そのカリスマ性はキープどころか、今も増強し続けているようだ。

そんなトム・クルーズにとって俳優人生、最高の当たり役といえば『ミッション:インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントで異論はないだろう。今から27年前、1996年の第1作以来、これまで6作が公開。日本でも常に大ヒットを記録してきた。その7作目『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が待望の公開となる。タイトルからわかるとおり、今回はシリーズでも異例の2部作。過去のシリーズは3〜6年のインターバルで作られてきたが、『PART TWO』は現時点で来年(2024年)公開が決まっている。

2部作といっても、今回の『PART ONE』だけで上映時間が2時間43分。ひとつの作品としてしっかりとした結末も用意される。2時間43分はシリーズ最長なのだが、断言できるのは体感時間が異常に短いこと。つまりアクションとドラマの見せ場があざやかに機能し合い、われわれ観客の目をスクリーンにクギづけにし続ける。

タイトルに付け加えられる言葉が毎回、謎めいているこのシリーズ。今回の“デッドレコニング”とは、船舶の用語で“推測航法”という意味。船の経路や距離から、過去や現在の位置を推定して進む航法のことで、これはイーサン・ハントの運命の比喩にもなっている。とはいえ、文字どおりの意味を示すかのように、本作は海底の潜水艦からスタート。いきなり大パニック的な事件が起こり、明らかになるのが“エンティティ”(日本語では「それ」と訳される)。すべてのデジタルシステムを破壊するとされるAIのような存在だ。このエンティティを制御するためには、2本の“鍵”を合体させなければならない。その鍵が悪の手に渡りそうになり、イーサンとそのチームはなんとか阻止しようとする。物語はいたってシンプルなので、われわれはその攻防にひたすら身を任せればいい。

『ミッション:インポッシブル』シリーズでは毎回、ほかの映画では絶対に目にしたことのない前人未到のアクションシーンが用意され、しかもその過激さがエスカレートしてきた。1作目『ミッション:インポッシブル』は、天井からぶら下がり、床スレスレの高さでの静止。『M:i-2』ではセーフティネットなしの絶壁クライミング。4作目『ゴースト・プロトコル』ではドバイの高層ビル、ブルジュ・ハリファで地上518mの外壁を登り、5作目『ローグ・ネイション』では離陸する飛行機にしがみつき、上空まで飛行。そして前作『フォールアウト』ではヘリコプターにぶら下がったうえに、乗り込んで操縦……と、そのすべてをトム・クルーズがスタントマンに頼らず、自分でやったからこその迫力やスリルが映像にやきつけられてきた。ほかのスターには絶対にマネできないチャレンジに、われわれも感動をおぼえるのである。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の撮影風景

この最新作も、完成前から話題になっていたのは、バイクに乗ったまま断崖から飛び出し、空中でバイクから離れ、パラシュート降下するシーン。断崖の高さは1220m。なんと15カ月もの準備期間を要し、トムは536回ものジャンプ練習を行ったうえ、スカイダイビングの厳しいトレーニングを受けた。練習用の傾斜台を様々な角度で試し、飛び降りる地点も絶対にズレないよう、細心の注意が払われた。しかもそれをドローンが撮影する。トムによると「ドローンと僕の動きは完全に同期する必要があり、決められた一定のペースで動かなくてはならなかった。傾斜台を走っていると、身体中に“分子”を感じるようになり、バイクの音と身体中の分子の感触で自分のスピードを理解できるまで、トレーニングする必要があった」とのこと。まさに超人的な感覚である。

驚くのは、トムの精神的な心構えだ。撮影当日、彼は「ほかの人の緊張を吸収しないように、着地するまでスタッフには近づかなかった。普段となにも変わらない一日のように過ごした」と語る。崖から離れたら6秒以内にパラシュートを開かないといけないのだが、実際に飛んでいた時間をトムは次のように振り返る。「すべてがスローモーションのようで、失敗は回避できると感じられた。野球選手がホームランを打つ前にボールの縫い目が見える、というのを読んだことがあるが、そんな感覚だった」

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の撮影風景

さらにリスペクトを感じさせる点が、もうひとつ。最も危険なこのバイクジャンプは本作の撮影初日に行われたが、その理由は、トムの作品全体への配慮だ。万が一、大事故に繋がった場合、脚本などの大幅な修正が必要になり、それまで撮った映像が無駄になってしまう。だからリスクが高いシーンを最初に終えることをトムが主張したという。前作『フォールアウト』で、ビルの屋上から別のビルへ飛び移るシーンで足を骨折してしまい、自分のせいで撮影が中断したことから、限界に挑みつつ、周囲に迷惑をかけないという、トム・クルーズの強い信念が生まれたわけで、そこにわれわれも感動してしまう。

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の撮影中に負傷するトム・クルーズ

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