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菅井友香さんと飛龍伝

「こんな私の為に幾多の若き同士たちが志半ばに倒れていきました。

私はあなたが好きです。あなたが大好きです。
この幸せを失いたくないと本当に思います。

が、私は今全共闘40万を率いる神林美智子です。
ひくわけにはいきません。
行きます。」

・・・

大道具や小道具もなく、衣装もない。
それは、生身の人間がそこで生きる姿で、勝負をしているからだ。
つかさんのお芝居を見てきて、ちょこっと演じさせていただいて、思うこと。

つかこうへいさんのお芝居が好きだった母に連れられて、
新国立劇場のこけら落とし公演を見に行ったのが、生まれて初めてのつか芝居だった。
当時中学2年生(年ばれるな)
怒涛の台詞と、ぶつかり合う人達の姿に、
言葉も出ず、後半はただただ涙だけが流れたのを鮮明に覚えている。

高校生になった私は、本当は今度こそ運動部に入ろうと思っていたのに、なぜだか演劇部に入部する。
物理講義室で先輩たちが熱心に読み耽っていたのが、つかさんの戯曲だったからかもしれない。
以後、私は多くのつか作品を観劇し、高校演劇のレベルではあるが、演じてきた。
もうそんなのここで話さなくてもええわ!と思うくらい本当に稚拙だったけど、
それらの経験から確信したことがある。

つかさんのお芝居は、その人の生き様を、心のありようを、炙り出す。

私なりに、つかさんのお芝居についてはそう感じている。
だから、演じていてもしんどさを感じることがたくさんあった。自分と向き合う作業…それは、演劇のスキルではなく、本当に自分自身の心と対峙する作業が、ひたすらに続いた日々だった。
だから、やりきった時にわかったことが、山のようにあった。

・・・

「飛龍伝」を劇場で観たのは、神林美智子を内田有紀さんが演じた時のものが初めてだった。高校生の頃。
正直あまり詳細は覚えていないけど、「いいなぁ」と思った心の感触だけは確かにある。
広末涼子さんの飛龍伝は劇場では見られなかった。

それから時が流れ、2019年の12月初旬。

私は久しぶりに「飛龍伝」が公演されることを知る。
神林美智子は…あ、欅坂の子か。この子キャプテンなんだ。そうかあ。へえー。
あ、〜さんも〜さんも出るのか。頑張られているなあ。
久しぶりに飛龍伝、見たいなあ…。

これが、「飛龍伝✖️菅井友香」を始めて知った時の感想。信じられんな。

それから数週間後、CDJ1920で、私は欅坂46と出会う。

年が明け、2020年。
心の中がソワソワしていた。何となく、見にいきたい飛龍伝。
チケット代が高いし、どんな人かもよくわからないしなぁと躊躇していた観劇を、
なんだか見てみたいという気持ちが日増しに強まっていったのを覚えている。
それは彼女のパフォーマンスを、目の前で見たからだろう。
公開稽古の様子を見た時は、うーんどうしようかな、まあいいかぁ我慢するかぁとすら思った。

そんな最中、1.23の出来事。
キャプテンの子大丈夫かな。
こんな最中でつかさんのお芝居やるのか。
大変だろうな。どんな心境なのかな。
全共闘を率いる神林美智子と、欅坂46を率いる菅井さん。か…。
…心が一気に菅井友香さんの神林美智子に寄っていった。

それでも悩んだ。
世の中は何だか不穏な感じがしていた頃だったような。
しかしそんな私が観劇を決めた決定打がある。
それは、ゲネプロを見終えた、つかさんの元で演劇人として生きてきた方々のツイートにあった言葉だった。

「拍手です」

「感情に素直なお芝居で、芝居って人間力」

このお二方、そして先述した、飛龍伝に出演されたお二人の役者さんには、その昔ちょっとお世話になったことがあって。
特にこちらの言葉を寄せたお二人は、つかさんのお芝居においては個人的に絶大な信頼を寄せている方々だったので、この言葉を見て
「行こう」
と決心した。

そして出会った、菅井友香さんの「神林美智子」
とっても素直な人柄で溢れた美智子だった。

なんといえばよいのか。
「Q.この時の○○の気持ちは?」
「A.悲しい気持ち」
なんて答えが無いのがこの戯曲だと思う。
様々な立場に置かれる美智子が、目の前で起こる出来事に、正直にぶつかっていくしかないというか。
理屈じゃないんだ、という感じがする、まさに。

なので、その一つ一つの事象に、純粋に真っ直ぐ向き合う菅井友香さんの姿は、とてもとても魅力的だった。

一平との2人のシーンは、本当に本当に拍手ものだった。
可愛くもあり、強くもあり、儚くもあり、切なくもあり、美しくもあった。

大好きな曲である「パラダイス」のキレも抜群で、流石だなぁと思った記憶がある。

神林美智子と言えば、冒頭に挙げた台詞。
特に、

「が、私は今全共闘40万を率いる神林美智子です。
ひくわけにはいきません。
行きます。」

…この言葉に、あれほどまでの説得力を持たせることができたのは、彼女がそのようにキャプテンとして歩んできたからなのではないかとつくづく思う。

きっとこの戯曲の稽古中、グループ内でも様々な出来事と対面し、多くの葛藤があっただろうなと、今ならよくわかる気がする。
けれど、そんなこと、今の10分の1も分からなかった当時の自分でさえ、葛藤の中でも凛として闘い続ける強さと美しさを感じることができた。
それは、菅井友香さんの人間力の高さと、戦い続けた努力の日々を体現したものだったのだろう。

大変だっただろうな。

でも、一歩もひかなかったんだな、菅井友香さん。

本当に、本当の、美智子だったんだなあ。

・・・

この時の舞台は、未だに何度も再放送がされています。
たくさんの方に見ていただきたいなあと、心から思っています。

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