御徒町エレジー第9話【リメンバーin韓国】
韓国。
海外旅行で10年位前に行った場所。
韓国通の当時の上司に連れられ、初めて行った真冬の韓国。
到着してすぐに連れて行かれた、冷麺が美味いと評判のおばあちゃんの家みたいな店。
震えながら食べた氷の浮いた蕎麦みたいな色の細い麺。
あまりの寒さに正直味は覚えていない。
そして、暖房のない店内でドラム缶の上で焼くカルビの店。
吹雪の中、夜に食べたネギたっぷりのタッカンマリ。
屈強なオッさんに、台の上で全裸で擦りまくられ、途中ぬるま湯をブッカケられ、寒さに震えたサウナのアカスリ。
そして朝5:00に叩き起こされ、旧日本軍の雪の行軍の如く、ガチガチに凍結した道を助け合いながら辿り着いたスンドゥブチゲの店。
ただただ寒い、過酷な思い出しかない国。
案の定、帰国後風邪を引いた。
それが俺の中の韓国。
その日はいつも行くママの町中華の店が珍しく休みの日だった。
その隣にある店。
若い女性が中に入っていく様子を前から見て知っていた。
女子がこぞって行くような店には俺は決して入らない。
どうせお洒落なカフェ飯的なところだろうと予想していた。
試しに覗いてみる。
以外にも韓国料理の店であった。
ちょっと入ってみるか。
うわぁ。。。
8割方女子で埋まってる。
帰ろうかな。。。
「こちらどうぞォォォ」
店員に声をかけられた。
仕方ない、ここで食うか。
メニューを見る。
おっ!ユッケジャン。
辛くて美味そうだな。
オーダーするも、品切れ…
出鼻をくじかれる。
【オススメ!冷麺定食】
じゃあ、これにするか。
こ、これは。
あのおばあちゃん家みたいな店で食べたのと同じタイプの冷麺だ。
細かく砕いた氷に浮かぶこんにゃく色の麺。
ズルッ、ズルルゥ〜。
ん?ん?
美味い、美味いぞぉ!
酸味の中にほのかな甘みのあるサッパリとしたスープ。
刻んだキムチの食感、合間につまむキンパもいい味だ。
流行に敏感な女子が集まるのも納得だ。
ミニチヂミとサラダ、味の違うキムチもついてるのが嬉しい。
この店は要チェックだ。
そして、翌週。
今度こそ、ユッケジャン。
「ごめんねぇ、品切れ…」
周囲の女子の料理を見てみる。
誰もユッケジャン頼んでない。
ひょっとして、夏場だから出してないんじゃないのか?
そう思いつつも今回はスンドゥブチゲをオーダー。
生卵が別皿で添えられている。
スンドゥブの中に落として食すようだ。
スープを一口。
嗚呼、なんて優しく深い味・・・
酸味のある程良い辛さ。
アサリのダシがたまらん。
これはメシがとてもススム君。
不思議な色の雑穀米のようなメシをかき込む。
このダシはいくらでも飲める。
しかも、健康に良さそうだ。
この店マジでいいぞ!
そのまた翌週。
今度こそは、ユッケジャンだ。
「ユ、ユッケジャン…」
メニューを指さす。。。
どうせないんだろ??
「ありますよぉ。」
えっ・・・あるの?
そして念願のユッケジャン。
赤い。
いや紅い。
くれないダァーー!
食欲をそそる色だ。
これは迷わず白メシ投入。
ユッケジャンクッパの完成。
以外と辛い。
いや、結構辛い。
辛い、でもウマイ。
このままだと門が開いてしまう。
ブワッ。。。
頭皮の毛穴が開く。
額から首筋をつたう汗。
だが、止まらない。
中の具材は、モヤシ、ぜんまい、ネギ、牛肉、卵。
夢中ですすり、完食。
美味かった。。。
ずっと食べたかっただけに余計に美味く感じた。
「ごっそさん。」
店の外に設置してある灰皿の前に立ち、電子タバコを吸う。
店のガラスには、ビショビショでおしゃぶりを咥えている産まれたての雛のようなオッさんが映っていた。
第十話へ続く
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