見出し画像

【打開の翼】第8話「何を恐れるのか」

それから何度となく戦場に立った。
私たち3人はお互いの戦い方を熟知してるのもあり
勝てない時があっても傷を負うことはなかった。

「お前らホント、しぶといな」
「隊長~そこは上手い言うといてや~嘘でもええから~」
「上手いというよりバランスがいいな。
 身軽さを活かした戦法で散った敵をしとめる成保
 群れで襲ってくる敵を一気に叩ける充斗
 仲間のサポートと戦況を見極められる柚
 おかげで突撃も迎撃も撤退もできる。」
「撤退の方を評価するんかいな…」
「いや、これが実際重要で難しい。
 自滅する部隊は大抵勝ちにこだわる。
 引くべき時に引けるのは強力だ。」
「ほな上手いでええやんけ!」
「上手さにこだわるやつも自滅するんだよ!」
「…自滅せえへんのが不思議やもんな…成保」
「やかましいわ!装備の固さだけで生き残りよって!
 こっちがお前の叩き残した敵始末してんねんで!?少しは感謝せえや!」
「…最近はアーマーに着いとるブースターの使い方も覚えてきたから棒立ちやなくなったわい。
 ホンマに見とんのか?」
「敵は見とるけど、お前のことは見つめるほど興味あれへん。」
「適度に見とけばええねん!」
「それはしとる言うてるやろ!」
「くすくす」
「はいはい。ま、ゆっくり休め。じゃあまたな」

隊長は笑いながら飛んでいった。私たちも宿舎へ帰る。
そして夕食時

「なんか隊長の態度も、柔らかなってきたな。」
「そうやな…」
「柚ちゃんのおかげで擦り傷一つ負わんで済んどったんやな~ありがとうな!」
「嬉しいです。私…自信無くしてたんです…」
「ん?」
「蜘蛛に初めて会った時…隊長に前に出ろって言われて…身体が固まっちゃって…
 前線に出れないソルジャーなんて…失格だ…って…」
「何言うとんねん。柚ちゃんはサポーターが天職なんや。
 状況がああでたまたまボルケーノ持っとったんが柚ちゃんやったから隊長はああ言うただけで
 無理して前に出ろいう意味で言うたんやないと思うで?」
「…柚ちゃんが前に出たら、俺らは誰に後ろ預けたらええねん。
 後ろにおってや?」
「はい(照)
 あ、あの、気になってたことがあるんですけど…」
「ん?」
「あ、大したことじゃないんです!
 成保さんと充斗さんって会話するとき
 相手のことを『お前』って言ったり『自分』って言ったりしますよね?」
「あー…これ方言やねん…」
「…なるべく柚ちゃんとかが居る時は『お前』て言うようにしとるんやけど
 成保と言い合いしとる時は混ざるな…混乱させてごめんな」
「あ、いえ、文脈で分かるんで大丈夫です!
 相手を『自分』って呼ぶこと自体は、小さい男の子に対して『ボク』って話しかけることもあるし
 そう考えると不思議じゃないんだけど、決まりとかあるのかなーって素朴な疑問で…」
「一応あるっちゃあるけど…地域によって変わったりするし
 距離的にはもう俺は充斗に対しては『お前』なんやけど、その場のノリもあるし…説明ムズイ…」
「ああ!ホントに大丈夫なんで!気にしないで自然にしてください!」
「…………」

夕食が終わって各自、部屋へ向かう。

「じゃあ、また明日」
「おう!またな!」

部屋に戻ると成保は充斗を睨みつける。

「おい、言いたいことあるなら言えや。」
「あ?」
「お前、最近おかしいねん!暗いっちゅうか…なんか心配事でもあるんか?」
「…………」
「柚ちゃんのことか?」
「…………」
「ビンゴかいな。」

成保はベッドに寝そべり呆れたように言う

「愛の告白やったら勝手にせえや。フラれて泣くの見たいからな」
「フラれる決めつけんなや!ちゃうわい!柚ちゃんのことは好きやけどそういう好きとはちゃうねん。」
「俺もや。柚ちゃんは好きやけど、恋愛感情やら、そう言うのとはちゃうんやんな…。」
「…………」
「何が気になってるのか分かれへんけど…柚ちゃんは柚ちゃんや。それでええやろが。」
「…もし、叩いたら自爆するターゲットに突っ込んだら爆発に巻き込まれる。
 自爆するて知っとったら遠くから攻撃するやろ?」
「なんやねん!柚ちゃんのこと知りたいけど藪蛇になって嫌われるんが怖いのかいな!?」
「…そうやな…知れへんで地雷を踏みたないんや…」
「…………」
「俺は絶対言われたないことがある。それもし口にしたら、俺はお前をシバく」
「…………」
「せやけどお前は何でシバかれたんかわかれへん。俺も言いたないから言えへん。納得いかへんやろ…?」
「それは…藪蛇になって嫌われるんが怖いのとはちゃうやんけ…
 柚ちゃんを傷つけたくない…優しさやろが…」
「…………」
「自分が傷つきたないのか、相手を傷つけたないのか…デカい差やで?
 俺は今の柚ちゃんを見とればええと思うけど、そういうことならハッキリさせようや。」
「聞いても無駄やと思う…」
「なんでや。聞くこと自体が地雷かもしれへんからか?」
「それもあるけど…多分柚ちゃんは…自分でもわかってへんのとちゃうんかな…」
「…ああ…せやから『無駄』か…
 ああもー!物事整理して筋道立てて考えるの、顔に似合わず得意やろ!お前」
「顔に似合わず言うなや」
「まず何を知りたいねん?」
「…柚ちゃんは元々エアユサールが女性専用兵科やて知っとったんやないか?」
「うん」
「知っとったのも…戦闘で周り見てサポートが上手いんのも…UDMにおったことがあるんやないか?」
「!?そうか…おったことあれば知ってて当然や…」
「せやったらなんで、いったんUDMから離れたんか?」
「…………」
「なんで…………おったことを覚えてへんのか…………これは憶測やけどな…」
「最後のはもしホンマやったら、多分モロ地雷やで?」
「そうやろな…」
「俺も知りたいことあるで。」
「なんや?」
「なんで隊長は女であること隠してるんか。」
「!」
「隠してるって言うんはおかしいか…言えへんだけで。そこは自由やとは思う。
 身体もマントで覆ってるんはエアユサールの装備がセクハラや言うとったから
 単に好かんだけなのかもわかれへん。
 LGBT?とかやとしても、隠すことあれへんやろ。今時そんなんで差別やなんやダサすぎやで!
 言いたないならしゃーないけど、俺等には言うてくれてもええやろ。それでなんや言う奴おったらシバいたるわ!
 ま、隊長のパンチの方がごついやろけどな。」
「…………それや…………そっから切り崩していったら、いけるかもしれへん!」
「差別野郎見っけたら一緒にシバくんか?」
「セクシャリティには触れんでええ!服も自由や!
 隊長は昔からおったやろ!知らんでも隊長職や!過去の隊員のこと、調べられるかもしれへんやんか!」
「!…………『遠くから攻撃する』んやな?」
「行くんは…隊長からや!」

充斗と成保は隊長室へ行く。
隊長は普段着に着替えず、戦闘服のままだった。

「どうした?」
「気になることがあるんです。相談に乗ってくれませんか?」
「隊長として、部下の相談に乗るのは責務だ。」
「どっか人の来ないとこで話せますか?」
「ここでもまあいいが…確実ではないな…………消灯前に来い。誰も来ないところへつれて行ってやる。」

消灯前に隊長室を再び訪れると、隊長は「静かに」というポーズをとり、窓を開けると手招きし
二人を抱えると窓から飛んだ。

「うお!?」
「しっ!」

一番高い建物の屋上まで飛ぶと、降りたつ。

「すげえ…空飛ぶってこんな感じなんや…」
「怖~…地上の色々豆粒やん…」
「ここの下は倉庫だ。死角だし誰も来ない。声も漏れない。遠慮せず話せ。」
「はい…」

充斗はどう切り出そうか迷ったが、意を決して口を開いた。

「隊長、入隊してもう数か月経つけど…
 いつもヘルメット被ってるから…俺等一度も隊長の顔見たことありません。
 見してもらえまへんか?」
「私の顔にそんなに興味があるとは思わなかった。」
「エアユサールが女性専用の兵科やて…俺ら知らへんかったんです。」

隊長は「ああ…」と察したようだった。

「ふう…しかたないな」

隊長がヘルメットを取る。

<つづく>

ここから先は

0字 / 1画像

¥ 100

いただいたサポートは活動費に使わせていただきます! ハートやフォローも制作のエネルギーになります! 読んでくださってありがとうございます(*'ー')