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【打開の翼】第3話「初めての戦闘」

廊下を上がり切って曲がったところには、巨大なクリーチャーが何匹もいた。

「なんやあれええええええ!」
「敵だ」

と言われても、それは規格外の大きさではあるが「銀色の蟻」だった。

「蟻やんか!どっからどう見てもでっかい蟻やんか!」
「敵なの!
 つかそもそも普通の虫もほぼ『宇宙から来ました』みたいな感じだろうが!何でもいいから殺せ!」

私は銃を構えた。が、成保は逃げ出す。

「お、おい!?」
「嫌やー!俺、虫はあかんのやーーーー!」
「ちっ」

隊長はその機動力で、あっという間に成保に追いつくと、首根っこを捕まえて敵の前に放り投げる。

「なにすんねや!」
「お前、柚を守るんだろ?ナンパしようとした時そう言ってたろ?」
「もう時効や!」
「時効、早っ!」

充斗は両手の武器を振り回し敵を叩く。

「むずー!」
「たった7匹だ。訓練だと思って戦えばいいんだよ。色々試してみろ」

私は慎重に狙いを定めて銃を撃つ。
銃弾が当たった巨大な蟻はひっくり返って死んだ。

「いやああああああ!なんでひっくり返って死ぬん!?」
「虫ってそういうもんやろ…つか戦えや!わざと誤射するぞ!」
「わざとやったら誤射やないやろ!つか隊長も戦ってや!」
「私が倒したら貴様らの訓練にならないだろうが。虫が嫌いなら殺せ」
「ああああもおおおおおおおお!!!!」

成保は必死に撃ちまくる。

「あぶなっ!俺に当たるやろがい!」
「知るかボケーーー!!!当たったら誤射じゃい!」
「誤射するのは俺じゃい!」
「漫才してないで敵を撃ってください」
「ははは!女性にかっこいいところを見せるチャンスだろうに、注意されるとは」
「うっさいわ!わかったわ…かっこいいとこ見せたる!…気持ちはあるんやけど、身体が拒否するううう!」
「あーなるほど…分かってきたわ、こうか?」

充斗は装備の使い方を飲み込んできたようで、ハンマーを振り下ろし、複数の敵を一気に倒す。

「おー。いいぞ。かっこいいぞ~」
「隊長に言われても嬉しないわ!棒読みやんけ!どーせなら柚ちゃんに言われたいわい」
「かっこいいですよ、充斗さん」
「よっしゃー!」

勢いづいた充斗は前線に出て敵をなぎ倒す。
私は後方から彼を援護する。
成保は虫の死骸にビビりながらもなんとか進むが

「ん?なんやこれ?」
「ああ、敵を倒すとアイテムを落とすんだよ」
「そうなん?」
「いい武器や回復剤も出すぞ?」
「親切な敵やな」
「待て…なんでそんなもの持ってるん…?虫が武器使うんか…?」
「使うわけないだろ。飲み込んだんだろうな。」
「…じゃあそれ…もしかして…元はUDM隊員のもん…か…?」
「そうかもな?」

新人3人は青ざめる。

襲われるということは、奴らにとって人間は食料なのかもしれない。
だとしたら…

「だから、殺さなきゃなんないんだよ。」

隊長は自らの武器を構えると、衝撃の事実に固まっていた充斗に向かってきた最後の一匹を撃ち抜く。

「やらなきゃやられる。簡単な図式だろ?」

しばらくすると虫たちの死骸はまるで蒸発するように霧散して消えた。
残ったアイテムを集める。

「とんでもないとこに就職してもうたな…」
「こんなことなら応募せえへんかったわ…金の問題ちゃうわ…」
「あいつらは地球の生物じゃない。宇宙人…というかクリーチャーだ。
 ほとんどのクリーチャーは地球上にいる虫の形態をとる。何故かは知らんがな。
 ただしサイズはあれだ。元々あのサイズの何かが、虫の形態をとっているのか
 地球上にいる虫が何らかの処置を経てああなったのかは不明だ。」
「うえええ…………」
「死んである程度時間が経つと消えてくれるんやから、楽やんけ。
 消えへんかったら死体の始末までせなあかんねんで?」
「いややああああああああ!!!!」

叫んでいる成保をよそに、隊長が私の肩を叩く。

「お前、筋が良いな。」
「え?」
「初めてとは思えん」
「でも…私のは簡単だから…充斗さんの方が…」
「ああ、あいつも呑み込みが早いな。素質は十分だ。成保は論外だがな。」

戦闘の後、相変わらず謎の歌唱訓練をした後、私たちは宿舎に返された。

「柚ちゃんと一緒の部屋とちゃうんか~」
「そりゃそうやろ。戦場では男女の区別はなくても宿舎は戦場やない」
「逆にしてほしい…」
「俺もお前と一緒の部屋とか勘弁してほしいわ」
「なんもせえへんて~」
「当たり前じゃボケ!!俺こそなんもさせへんわ!」

さっきまで泣きながらパニくってたとは思えないほど普段通りに戻った成保と
疲れ切った充斗が、私に手を振って同じ部屋へ入っていく。
女性隊員は少ないのか、私は一人部屋だった。

「成保さん…パニくってた割に立ち直りが早いって言うか…ああいうのも適正って言うのかな…クス」

部屋で手を見てぼんやりと考える。
 
(私…何も説明されてない…でも…銃が使えた…)

隊長にかけられた言葉を思い出す。

 『筋が良いな。初めてとは思えん』

(なんだろう…変な感じ…でも…………退屈じゃない…)

その事実に笑みがこぼれる。

<つづく>

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