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【打開の翼】第18話「叶えられた夢」

それからも充斗とのツーマンセルが続いた。
私たちの様子を見ながら隊長は思う。

(大したコンビネーションだな。全く無駄がない。
 これだけ安心して見ていられるツーマンセルも珍しい。
 元々『アレイド』を得意とする充斗に、周りを正確に把握できるようになった上、機動力のある柚は戦闘の相性がいい。
 これに加わる成保は大変そうに見えるが、柚は元々チームメンバーの補助に優れる。
 そしてこうして見ると、充斗がしっかり柚の動きを見てタイミングを合わせているのがよくわかる。
 病み上がりを投入するには最適だろう。)

戦闘が終わり、隊長が降りてくる。

「ごくろう。もう新兵の配置では物足りないのではないか?」
「こっちは二人なんやで?このくらいでちょうどええわ」
「すぐ三人になる」
「え、じゃあ…」
「明日成保が戻る。部屋片づけておけよ?」
「ええー!?明日かいな…こら、徹夜仕事やで…」
「…………成保さんのベッドに私物置きまくってますもんね…」
「戻ってくることを喜べよ…」
「喜んでますよ!」
「おう!成保がエアユサール装備の柚ちゃん見て、どう反応すんのか楽しみや」
「え…教えてないんですか!?」
「俺は言うてへん」
「私も教えていない。と言うか自分では言ってないのか?」
「私がお見舞いに行ったのは、転科する前1度だけだから…」
「なんや、1回しか見に行かへんかったんか」
「だって…なんか同部屋の人がかわいいとか成保さんのカノジョなの?とか言ってからかうから…」
「まあ…怪我して動けない男どもの大部屋に柚ちゃんが行ったらお祭り騒ぎにもなるやろな…」
「そういうことなら…行かなくて正解だな…まあ、というわけで、その装備で迎えてやれ。」
「私をサプライズの装飾にしないでくださいー!」
「まあそう言うな。成保もサプライズを用意している。楽しみにしておけ」

隊長の言うとおり、翌日成保は退院してきた。

「何やその体…」
「リハビリの成果や。」
「…リハビリと筋トレ、間違うてへんか…?」
「いや~隊長が自らの筋肉に見惚れるのわかるわ~まだいける!俺はまだいける!」
「いかへんでええわ!」

 コンコン

「はい~開いとるで~」
「成保さん!おかえりなさい!って…ええ!?なんですかその筋肉!」
「え…ええ!?柚ちゃん!?え、え!?」
「あーエアユサールに転科したの言い忘れとったわー(棒読み)」
「わざとらし!!!絶対わざと言えへんかったやろ!」
「えへへ、どうですか?」
「良い!ごっつええ!俺に見せたくて着てきたん?」
「え…えーと…(隊長に言われたとも言いづらい…)」
「んもーーーーーかわええなああああああ!!!」
「はいはい。ほんでな?柚ちゃんがエアユサールになったんで、前とは戦い方が変わる。
 お前はホンマはまだ全力で動いたらあかんはずや。
 戦闘のリハビリは実践になるから、今まで通りに動こうとせんといてや?」
「おう、そこは分かっとる。迷惑かけるけど、かんにんな?」
「迷惑だなんて思ってませんよ!」

すぐに戦闘の機会は訪れた。
成保は前のように跳ねまわることは自重したが、普通の人並に走ることはできたし
なによりトリッキーな動きをしないことで安定感が増した上
リハビリこと筋トレで鍛えたおかげで、今まで避けてきた重火器も楽に扱えるようになっていた。

「あー!やっぱ疲れるわー!筋トレは単調な動きでええけど、敵はどっからでも来よるからもー!」
「リハビリやったんちゃうんかい。やっぱり筋トレやんけ。」
「前より安定してる気がします。今後もセーブして動いてください。」
「えー?何や柚ちゃん毒舌になったんちゃう?充斗なんかと一緒におるから…」
「やかましいわ!」
「俺は確かに今は病み上がりやから、よう動かれへんけど
 柚ちゃんがエアユサールやから、ぴょんぴょん飛び回る必要がないだけや。
 柚ちゃんの偵察は正確や。安心して攻撃だけに集中できる。」
「それはあるな。なんや、お前ちゃんと周り見て攻撃しとったんかい。」
「当たり前やろ!
 俺の虫嫌いなめんなや!
 柚ちゃんの周辺予測と充斗の盾を考えて、虫の攻撃に当たらんように動くと
 自然とああなっとっただけや!
 やらんで済むんやったら、無駄に体力消耗する動きせーへんわい!」

隊長はこっそり上から私たちのことを見ていた。

(ふむ…やはりブランクを感じさせないチームワークだ。
 それに、成保が居ると活気がある…
 惜しいな…もうこのコンビネーションが見られなくなるとは…)

戦闘が終わると夕食になる。
やはり成保が居るとにぎやかだ。

意外と好き嫌いの多い充斗に、これまた意外と食に詳しい成保が
あーだこーだと説明して食べさせようとするが、充斗も譲らない。
「子供か自分!」
「おかんか自分!」
と、やり合う二人を見て、私はくすくす笑う。

食事を終えて部屋へ向かおうと廊下を歩いていると
狭い歓談スペースに人が群がっていた。

「なんや?」
「ドラマだよ」
「あ…」

話しかけてきたのは坂本だった。

「なんか3週前に始まったドラマが、スゲー人気でさ。
 主題歌もまたいいんだわ。
 これから始まるからみんな待機してんだよ。覗いてみなよ。」
「えー?嫌や~あんな人込み!」
「うーん…」
「でもちょっと興味あります」
「う~~~~柚ちゃんがそういうなら…」
「まあ、ちょっとだけならいいだろ?」

みんなで人ごみの外側からこっそり覗いてみる。

「あっ、刑事ものなんですか?」
「んーちょっと変わったやつだけどね」
「!」

成保の顔色が変わる。
しばらくオープニングに見入って固まっていたが、私と充斗の服を掴んで自室の方へ走り出した。
異変を察した坂本も慌ててついて行く。

「なんやなんや?」
「どうしたの!?」

成保は無言で自室へ入る。
私と充斗、坂本も一緒に入る。
成保は自分のベッドに座ると呆然としていた。

「おい…ほんまにどうしたん…?」
「ご、ごめん…人ごみに酔った?」
「ごめんなさい…私が見たいって言ったから…」

「…………俺の曲や…………」

「え…?」
「あのオープニング…俺のバンドの曲や!」
「ええ!?」
「え?え?」
「あ、ああ…こいつな?バンドやっててん…で…」

充斗は成保がなぜUDMに入隊したのか、そのきっかけを聞いた時のことを坂本に話した。

「ミュージシャンだったのか…」
「どんだけヤバいとっから借りててん…
 まあフリーターみたいなもんに、そうそう大金貸してもらわれへんやろけど…」
「でも…UDMのお給料ってすごいですよね…?
 多分成保さんが前借できたのって新人期間1年分だと思うけど…」
「普通のサラリーマンの10年分くらいの額だろうね…
 借金ってどのくらいあったの…?」
「2千万…」
「めっちゃ余っとるやん!全部渡したんか!?」
「…前借申請した時…俺は出られないから…送金先を指定しろって…
 だから全額…バンドメンバーに…」
「よう使い込まれへんかったな」
「あいつらはそんなことせえへん!!
 それに返さな…あいつらも無事で済まへんやろ…」
「じゃあ…」
「…………あいつら、俺の意思を継いで売り込み続けてくれたんや…………」
「…だろうね…全国放送のドラマの主題歌だなんて…」

成保は組んだ手で目を隠す

「アホや…………あの曲のギター…………俺の音やった…………
 売り込み用に…無理してスタジオ借りて撮った…あの時の音や…………
 なんで新しく撮らへんかったんや…いくらあん時の音がマシでも…
 ドラマの主題歌やで…?もっとええやつ入れて撮ったらええやん…!」
「…………メンバーにとって『もっとええ奴』なんて、おれへんかったからやないか?」
「…………」
「…出ましょう」

私は坂本と充斗にそっと促して静かに部屋を出た。
充斗の言葉を聞いた成保の組んだ手の間から光る物が零れていたから。

私たちは坂本さんの部屋へ行った。

「2人部屋なんやな…」
「うん。別に亡くなったとかじゃないよ。最初からこう。
 チームで同室になるだろ?うちは男が奇数だから、たまたまこうなったんだろうね。
 ねえ、あの人が『入院してた人』?」
「ああ。1か月やったけどな。」
「彼が居ない時は大人のデートだったけど、彼が入ったら…気を悪くしないでほしいんだけど…
 ぷ!毎回ファミリーコントみたいだった!あははは」
「あいつ、いっつも俺が食えへんもん無理やり食わそうとすんねん!
 栄養がどーとかうっさいねん!!」
「いやーここまで色が変わるなんて思わなかった。」
「成保さんはムードメーカーだから」
「トラブルメーカーや!」
「でも今度は今度でやっぱりまた入り込めないよ。ほんとにいいチームなんだな…羨ましいよ…」
「…2か月後には解散やけどな…」
「え…………あ…!そうか…………新人期間は1年…………その後は各兵科に分かれる…………」
「もしくは除隊や。」
「!」
「…ホントかは知らないけど…1曲ヒットがあったらカラオケの印税で一生暮らせるなんて言われてる…
 あのドラマは本気で人気沸騰してて、オープニング主題歌もチャートを独走してる…」
「…成保さんは借金のためにここに来たんですよね…?それだけ売れたんだったら…」
「…成保がここに残る理由は…もうなくなったんや…」

「しかし驚いたな…あれが彼の演奏だなんて…」
「私もです…アマチュアの曲じゃないですよ…」
「自信あるて言うてただけあるな…」
「…新兵期間を卒業したら、兵科で分かれるから…
 成保さんと一緒になれるかもって楽しみにしてたんだけどな…」
「…………」

ミュージシャンとして大成することが見えてきてる未来…
苦手どころか大嫌いな虫と命がけで戦い続けなければならない未来…

どっちを選ぶかなんて…………

でも…考えたくない…
全ては…成保さんに委ねよう…
成保さんの人生なんだから…

<つづく>

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