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【打開の翼】最終話「私たちの関係」

「あれ?なんや…俺寝てもうたんか…」
「疲れてたんやろ。歯ぁ磨いときや。」

先に起きていた充斗はもう制服に着替えて本を読んでいた。

「あー…まいったな…もう朝飯の時間やんけ…
 歯磨きした後すぐ飯食うの嫌やねんけどな…」
「罰ゲームや思て我慢せえや。」

食堂で待っていると寝ぼけ顔の成保と、その背中を叩く充斗が来た。

「おはようございます!」
「おう、おはよう、柚ちゃん」
「おはよう~ふあ~あ」
「どうしたんですか?成保さん」
「寝坊しただけや。」
「めずらしいですね(クスクス)」

食事をとりながらいつも通り話す。
ゆっくり雑談できるのなんて食事の時くらいだ。
相変わらず充斗の好き嫌いに成保が口うるさく言う。

「クスクス、ホント、コントみたい」
「ん?『ホント』っちゅーことは…誰かがそう言うたんか?」
「坂本さんや。お前が入ってから、俺等の飯食う様子、ファミリーコントみたいやて」
「ええ~?ちゅーか、ほんなら俺が戻る前は何やってん」
「大人のデートだそうです…」
「はあああああ!?お前、柚ちゃんに何したん!」
「雑談。それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「ほんで、なんでデートになるねん!もー!ちゅーかファミリーコントってなんやねん…」
「『子供か自分!』『おかんか自分』ってよくやってるからじゃないですか?クスクス」
「それは…まあ…やっとるな…」
「ファミリーコント…ああ…それや…」
「ん?」
「いや…ちょい俺の中で不思議に思うとったことが…ストンと落ちただけや。」
「言えや!!」

私はこの時、充斗が何を思っているのかわからなかった。
でも、彼の表情は清々しくもあり、少し寂しそうでもあった。

それから2カ月、いつも通りの日々が続き
残り一か月くらいからはもう隊長は見守ることもなくなった。

私たちは無事生き残り…そしてついに新兵として最後の日が来た。

いつも通りに食事をとり、支度をして、敵を倒す。
ただ、この日はみんな口数は少なかった。
もう言葉を交わさずとも戦闘で息を合わせることは可能だったが…

その少し重い雰囲気を割いてくれたのは

「よう!おひさしぶり!」
「あ!坂本さん!お久しぶりです」
「お!久しぶりやん!元気やった?」
「おう!チームが良くなったんで、俺はすっかり楽になったよ。」
「前はほとんど坂本さん一人で戦ってましたものね…」
「そうなんや…」
「みんなうまくなったよ。誰も除隊しないで残るって。そっちは?」
「ああ…俺は残るで。」
「私も残ります。」
「俺も…残るつもりや」
「つもり…?」
「ああ…ちょっと考えとることがあってな…でもまあ、たとえ無理でも残るわ」
「なんやねん…歯切れ悪いな…」

嫌な予感がして怖い…

「あ、呼んでる。邪魔したね。隊に戻るよ。
 色々あったけど今ではいい隊だと思えるようになった。
 最後の1日を楽しむよ!」

坂本さんは手を振って去っていった。
でも彼の別れ際の言葉…『最後の1日』に、私たちはしんみりした表情になる。

「俺等も帰ろう」

宿舎に帰って最後の夕食を一緒に取るが、やはり3人に会話はなかった。
成保がたまらず話す。

「あーこれで新兵卒業か…一カ月入院しとってなんやけど、あっという間やったな…
 坂本さんの言うとおり最後の1日を楽しもうや!」
「…………」

涙が出そうだった

「な、なんや、柚ちゃん…そんな顔せんといてや…俺かて…………」

私は目じりを拭うと充斗に向かって言う。

「あの、充斗さん!」
「ん?」
「考えてることって何ですか?」
「…………」
「教えてください!最後の日なんですから!」

充人がつぶやく。

「…………なんで最後の日やねん…………」
「え…………?」
「…ここで話す話やなさそうやな…」

私たちは食事を終え、充人と成保の部屋へ行く。

「充人!はっきりせえや!俺ももやもやしたまま終わりとうない!」
「…………前に『ファミリーコント』って言われたって話聞いた時、俺、ストンと落ちたて言うたん覚えとるか?」
「ああ…………そんなんもあったっけかな…………」
「絶対忘れてますね…………」
「覚えてへんのやったら今覚えてや。
 俺、ずっと引っかかててん…
 俺たちの関係ってなんなんやろって。」
「何て…同じ分隊やろ…」
「それだけか?」
「…………」
「…ただの…『戦闘の時の一員』…ってだけじゃないです…
 私は…充斗さんと、成保さんのこと…それ以上だと思ってます。」
「それ以上?」
「えーと…………好きです」
「俺も柚ちゃんのこと好きやで!」
「…俺も好きだ。でも…それは恋愛感情とはちゃうやろ?」
「…そ…う…ですね…そういうのとは違います…」
「そうやな…俺は…柚ちゃんが好きや。
 でも恋愛感情か?言われたらちゃう。
 充斗のことも同じくらい好きやもん。
 俺はバイやないから、説得力あるやろ?」
「それやねん。俺も二人とも好きやねん。
 せやから…どういえばええんやろなて思とって…
 そうか…『ファミリー』なんや。て思たら、腑に落ちたんや…」
「家族…ですか…?」
「なんや、ファミリーて言うとマフィアみたいやな」
「普通の家族の方や!
 もうな、家族みたいなもんやねん。
 家族への好きて、恋愛的な不安とかそんなんないやん。無条件やんか。」

「ああ…言いたいことは分かるで?でもなんや、ややこしいな」
「そうか?」
「はっきり言うたらええやん。『恋』やなく…『愛』やて。ちゃうん?」
「ああ…そうです…それです!
 愛って色々あります。人間愛とかホント色々…
 要するに『大切にしたい』って想い…です!」
「俺等は家族…のようなもんやと思てる。
 なのに…『期限が来ました家族終了です』で納得でけるかい!」

普段優しい充斗の口調が鋭い。

「『ちょっと考えとること』てそれかいな。」
「それともう一つでしょう?」
「ん?」
「『なんで最後の日やねん』」
「それはさっき言うてたやろ。納得でけへんて…」
「そういう意味じゃないですよね?ただの文句なら…坂本さんと話した時『たとえ無理でも』なんて言わないです。」
「…………ああ」
「…………そか…それやったら、多分俺も、同じこと考えとったで。」
「充斗さん、坂本さんに言ってましたものね。『坂本さんは行動した。それが大事やと思う』って。
 私も一緒に行動します!」
「ええのか?」
「…そうやな…思ってるだけやったら流されるだけや。そんなん俺のキャラやない!
 なあ、俺等、これから隊長のとこに行って、挨拶するんやろ?俺は言うで!」
「私も…って…3人でわいわい言ったらごちゃごちゃしません…?」
「充斗、言うてくれるか?」
「俺は、もともとそのつもりや。」
「よし!ほな頼むわ!」

3人の目は決意に満ちていた。

「ところで…俺等が『家族』なんやったら、充斗はなんなん?」
「何なん?てなんや」
「息子とか娘とか」
「ああ、関係性か…俺は…柚ちゃんは…妹かな…」
「そうですね、充斗さんはお兄さんかも」
「俺は?」
「おかん」
「なんで、俺がおかんやねん!!!」
「いっつも俺にあれ食えこれ食え言うとるやんけ!完璧おかんやろがい!」
「じゃあ、お父さんは?」
「…………そらもう…………隊長やな」
「うえええええ!?俺と隊長が夫婦なん!?俺、尻に敷かれるどころやないやん!」
「クスクス、でも隊長がお父さんってのはピッタリかも」
「父性や母性は戸籍上の性別と関係あれへんねやな~」
「俺、納得してへんわ!!!あ、『隊長がおとん』てのは納得しとるけど。」

私たちは、これからままごとでも始めるかのように、役割を決めて遊んで爆笑していた。
と、その中であることに気づいたが、言う間もなく時間になってしまった。
でも大丈夫だろう。
何も言わなくても、多分みんなの気持ちは同じだと思う。

「さて…じゃあ、出陣や!」

三人は教官室へ行く。

「さて…新人期間は終わりだ。
 三人とも残留を願ってくれて嬉しく思う。
 お前たちなら自信をもって許可を出せる。

 これからはそれぞれ一人前の兵士として扱われる。
 より過酷な現場に行くことになる。
 チームも大きくなる。
 今までの経験を活かして活躍することを願う。」

「…………それなんやけど…………」

充斗が切り出す。

(いけ!充斗!任せたんや!しっかりやってや!)
(がんばって!充斗さん!)

「チームも大きくなる。て…兵科に分かれるてことですよね…?」
「…そうだ」

「俺はこの二人と一緒やないと嫌です。
 成保は俺等が面倒見いひんと、お荷物になるだけです。」

成保は後半部分に「ああ!?」という顔をして充斗を見るが、すぐに隊長に向かって言う

「俺もこの二人とやないと組みたないです。
 充斗は『アレイド』ばっかやりよる。無駄に上手いし、俺らは慣れとるから今までやってこれたけど
 あないな戦い方、大きな部隊でやらかしたら迷惑でしゃーないです!」

充斗も「ああ!?」という顔をして成保を見たが、成保の視線に応えるように隊長に言う。

「それに…俺ら二人が安心して背中を預けられるんは
 柚ちゃんだけです!」

隊長は私たち三人をそれぞれ見据えて言う。

「…………柚、お前は?」

「…………私も…………
 成保さんと充斗さんと、ずっと守り合いたいです!」

隊長はため息をつくと書類に何か書き込む

「では、3人で…………ボーダーチーム3に配属する。」
「ボーダーチーム…?」
「他に誰が居るん?」
「だから!お前ら3人で!一組なの!
 ボーダーチームってのは兵科混成何でもありの特殊部隊だ。
 (まあ…ホントは「特殊部隊」と言うより「最終防衛線」的な意味の「精鋭部隊」なんだがな…)
 たまに居るんだよ。兵科で組むより特定のグループで組んだ方が良い奴らがな。一人の時もある。」
「…………」
「兵科もばらけてて、ボーダーチームとしてはちょうどいい。
 これからもUDMで力を尽くせ。
 ま。予想はしてた。お前らは、3人で一つだ。」

「ちょい待ってや。」
「不服か?」
「おう。隊長がおらへんがな。」
「…………」

そう。これが、気づいた『ある事』

隊長はずっと私たちを見守り、導いてくれた。
それが役目でも、私たちにとって隊長も『家族のようなもの』の一人になっていた。

隊長はこれからも私たちを育てたように
私たちの後輩を育てていくべきなのだろうが
私たちのチームは、隊長が居て完成するものだと確信する。

「俺は、隊長がまともに戦うたとこを見たことあれへん。
 戦われへんから隊長っちゅーか教官をやっとるんですか?
 UDMには教官になれる人材は他におれへんのですか?」
「隊長はまだ隠居するには早いと思うで?筋肉がもったいないわ。」
「現役に…復帰することはできないんですか…?」

完全に私たちのわがままだから、ダメもとでの願いだった。

さすがにこれは予想していなかったようで
隊長も驚いていた。
が、

「…………団体行動が嫌でね…………
 エアユサールのチームに入っても
 私の燃費だとついて行けないし、戦い方も集団行動向きじゃない。
 でもまあ…………ボーダーチームなら…………好き放題できるな…
 ていうか…柚がエアユサールになったんなら…私も転科願い出すかな」
「え…」
「元々私がエアユサールなのは無理があった。
 高身長なだけでも不利なのに
 まさか筋トレに励んだせいで体重まで不利になるとは…」
「そ、それはまあ、不可抗力?みたいなもんやろ…」

「通常、新兵期間を終えてから転科した場合は新人扱いになる…のだが
 さすがに10年以上在籍していて隊長までやってた者なら免除される…と思う。
 めったにないことだから確証はないが…」
「いや、隊長が新人扱いになったら、その隊長つか教官勤める人、やりづらすぎやん…
 どんな顔して指導するんですか。ちゅうか、指導することなんてあれへんやん。」
「普通に考えて一人前の隊員でええわな…」
「端末で本部に聞いてみればいいんじゃないんですか?」
「ごもっともだな…………」

隊長がPCで本部に伺いを立てる。

「ああ…新兵免除で良いってさ。新しい兵科の練習は自分でしっかりやること。だそうだ。
 …………投げやりだな…………」
「た、隊長やるってことは、他の兵科のことも指導するんやから、熟知してるってことやろ?
 実際やるんは装備に慣れることくらいやろ…」
「『自分で自分を指導しろ』って言うしかあれへんわな…」
「投げやりなわけじゃないですよ…多分」

「で、隊長は何になるんや?」
「…足りてない兵科はマニピュレーターだろ?」

隊長はにやりと微笑み、書類に自分の名前を書き足した。

こうして私たち3人と隊長はボーダーチーム3として登録された。
数あるこの特殊秘密軍隊の伝説の中で、私たちのチームがその一つになるのは
まだまだ先のお話。

<END>

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