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【打開の翼】第15話「恵まれたチーム」

その人について丘の上まで移動する。

「おかえり。ん?その人たちは?」
「下の方で戦ってたんだ。合流してくれるって言うから来てもらった。」
「いいんじゃない?一緒にやりましょう?」
「歓迎だし~!」

「ありがとうございます。」
(え…充斗さん、訛りを消してる…?)

「柚ちゃん、俺等は軽い援護だけに徹するんや(ヒソ)」
「は、はい(ヒソ)」

戦いが始まったが予想以上のものだった。
女性二人は勝手に動き、推しと思われる男性二人は兵科無視の動きでそれぞれの女性にとにかくついていく。
間を埋めるようにさっきの男性が支援するが…………

「ちょっと!私がバイク呼んでるのに、無駄にしないでよ!」
「ここでバイクとかありえないし!好みでマヌケな行動しないでくれる!?」


マニピュレーターの戦闘を間近で見るのは初めてだった…が
彼女がかなりおかしなことをしているのは分かった。

マニピュレーターは手持ちの端末で
ヘリや戦車などの騎乗兵器を呼び出したり
遠隔操作できる大型のロボット兵器などを呼び出すことができる兵科だ。

基本的にマニピュレーター自身は武器は持たない。
戦況に応じた兵器を呼び出して、それで戦う。

いくら機銃がついていても、この走り回るのに適さない丘の上で
バイクを呼んでも効果は薄いどころか
他の仲間の邪魔になってしまう。

よほどの熟練者なら話は別なのかもしれないが
それ以前に…………

「な…なじり合ってる…戦闘中に…ありえない…(ヒソ)」
「こら…匙を投げるのも分かるな…(ヒソ)」

かなりの時間をかけて2派は何とか退けたが、さっきの男の人は満身創痍だった。
それもそのはず…実質この人一人で倒したようなものだった。

「もー!あんたがそんなだからこんなに時間がかかるのよ!」
「こっちのセリフだし!ちょっと!あんたら!男なんだからしっかり私を守りなさいよ!」
「飛んでるあんたをどう守れって言うのよ!守るんなら要請で戦う私でしょ!?」
「知らないし~!」

「いい加減にしろ!」

充斗が鋭い声で怒鳴る。

「戦場に性別は関係ない!兵士が見るべきは敵とチームの動きだ!
 貴様らはチームではない!好きに動きたいのなら、チームを抜けて一人でやれ!
 仲間として行動ができないのなら一緒に行動する意味はない!」
(あ、充斗さん、隊長のモノマネしてるんだ…
 元々渋めの低い声色だけど…いつもは優しい口調だから軍人口調だと迫力ある…)

「3派が来る!」

満身創痍の彼が指さす。

「貴様らはそこで見ていろ!邪魔にしかならん!行くぞ!柚!」
「(あ、合わせるんだっけ)おう!」
(お、合わせよった。さすが柚ちゃんやな)

3派は1や2より強力で大量だった。
敵は紫蟻。銀蟻より硬いというだけで、面倒なことはない。
私は飛び立ち、敵を誘導する。
充斗さんは盾で防ぎながらはぐれを始末する。
誘導で敵がまとまって襲ってくる。
いつもの位置を取りで、私は号令する。

「行け!」

その号令で充斗さんは「アレイド」を発動、その周囲を私の電撃が走る。
3派の敵は固いので、1度では死なない。

「後退!守備を固めて迎撃!」
「おう!」

充斗のシールドで攻撃を防ぎ、後退しながらと私の電撃で敵の装甲を削る。

「一気に行くぞ!投擲装備!」
「おう!」

まるで一体のように固まった敵の軍団に手榴弾を投げ込むと同時に充斗のハンマーが振り下ろされる。
間髪入れずにジャンプして敵に電撃を打ち込む。

あっという間に3派は片付いた。

死解していく敵の前、丘の上で背を合わせて並び立つ私たちを
オタサーグループはあっけにとられて見ていた。

「クリーチャーとの戦いは時間との戦いでもある。もめている時間を殲滅に回せ。」

充人に合わせて、私も言う。

「今の貴様らでは話にならん。新人期間が終わった時に除隊手続きをしろ。
 罵倒に憤るなら、そのエネルギーを仲間とのチームワークを築くことに変えろ。
 それができたなら、残留するのだな。」

充斗のブースト歩行に合わせた軽い飛行で移動速度を合わせて去っていく私たちを見て
オタサーグループは…

「ステキ…」
「やばい…惚れるし…」
「かっこいい…女王様だ…」
「あれも同期の新人なのか…?すげえ…」
(間近で見ると…差を思い知らされる…二人とも互いの兵科の特性に合わせた動きをしてた…
 チームってこういうのなんだ…)

オタサーチームが見えない位置に来ると、思わず私たちは吹き出して笑い合った。

「あはははは!なんやこのモノマネ大会!」
「充斗さん似合ってましたよ。軍人口調だとその声、すごくかっこいいです!普段もやってください」
「かんにんしてや~。ちゅーか柚ちゃんもなかなか言うやん?」
「充斗さんが隊長の真似してるんだってわかって、隊長ならこう言うかなってのを言ってみただけです。」
「ホンマに隊長があんな状態見たら、『家に帰れ!』ちゅーて首根っこ捕まえて引きずっていきよるかもな」
「硬いだけで攻撃が単調な敵だったからいいようなものの…あれでよく今まで生きてましたよね…」
「俺等に話しかけてきた人、必死やったもんな…他も戦うてはいたけど…
 あんなん、合わしても一人分の戦力にしかなってへんかったで…」
「ソロが5人居ただけでしたもんね…しかもまともに戦ってるのは一人…」
(あんなチームもあるんやな…俺…いや俺等…恵まれとったんやな…)

戦闘が終わり、いつも通り夕食を取るが、成保が入院中なため充斗と二人での食事になる。

(なんかずっと二人だし…食事も二人だと…なんだかデートしてるみたいで変な感じ…)
「成保さん…どうしてるでしょうね…」
「たまに見に行ってるけどリハビリしとるで。なんや?寂しいんか?」
「そうですね…ああ!充斗さんと二人だとつまらないって意味じゃないです!
 充斗さんと居ると落ち着けるんで…デ、デートしてるみたいな…」
「へーそら嬉しいな。成保がおると落ち着かれへんもんな。」
「あああ!そういう意味じゃなくて!成保さんが居ると楽しいです!」
「ごめんごめん、意地悪やったな。俺も成保が居ると楽しい。
 一人部屋は快適やけど、物足りない。
 戦闘効率やのそんなんやなく、俺等には成保が必要なんやて、やっぱ思うわ。」
「そうですね(デートのとこ…はぐらかされた…でも一応嬉しいって言ってくれたし…嫌じゃないならいいか…)」

恥ずかしいことを言ってしまって、自分の言葉に動揺する私だったが
充斗はスープをかき混ぜながらぽつりと言った。

「…おれへんくなって、初めてその人の存在の大きさを実感するって、物語やらでようあるけど…こういう感じなんやな…」
(充斗さん…?)

<つづく>

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