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【打開の翼】第5話「3年の訓練より1度の実戦」

隊長の誘導で現場に着くと、逃げまどう一般人と巨大銀蟻の群れがあった。

「隊長!市民の救出はしなくてええんか!?」
「それは別の部隊がやる。私らは敵の殲滅が任務だ!」

今回は隊長も戦闘に加わる。
私たちを気遣ってか地上からレーザーを撃つ。

「蟻は離れると唾を飛ばすように体液を吐く!当たるとダメージを負う!避けろ!」
「どうやってーーーー!?」
「せやからマニュアル読め、言うたやろがい!ソルジャーはローリングでよけれるんや!俺はでけへんけどな!」

充斗はUDM隊員に配られている戦闘基礎マニュアルを読み込んでいるらしい。
武器の扱いはまだまだ初心者のそれだったが、ハンマーが気に入ったらしく果敢に立ち向かう。

「ローリングってなんやねんなーーーー!」

成保は相変わらず、虫の嫌さの方が勝ち、普通に「転がる」という意味すら思いつけないようだった。

「こうです!成保さん!」

私は横に転がって体液を避けながら攻撃して見せる

「あ、そか!『ローリング=転がる』ね。って、まんまやんけ!」

成保の身体能力は驚くほど優れていた。
逃げ方が分かったとたん、「虫嫌い」でブーストされた彼の動きは初心者とは思えなかった。
私は感心しながらも狙いを定めて撃つ。
身軽ではあるが射撃の腕はまだ未熟な成保は、なかなか当たらないし、リロードまでの時間にイラついていた。

「気持ちはわかるけど…だから落ち着いて、確実に撃たないと…」
「なあ!柚ちゃん!メイン武器とサブ武器あるんやから、交互に撃ったらええんちゃう?」
「え…?」

成保は両手に武器を持ち、メインで撃ってリロード時間の間にサブ武器で攻撃する
それを見た隊長が驚く。

「へえ、やるな…」

しかも成保は「虫嫌い」が発動してるので、後退しながら撃つ。
おかげで体液の攻撃は激しくはなるが、体液を吐く動作で敵が移動しないので弾が当たるようになる。
体液も「虫の吐いた液になんて絶対当たりたくない」気持ちがブーストされ、見事に見切って避けていた。

(楽だ…これなら援護射撃でいける!)

充斗は距離を詰め、自身の頑丈さを利用して複数の敵を巻き込みながら、ハンマーで殲滅していった。
あらかた敵が退治されてくると、隊長は飛行して
建物に作られた赤いクリスタルのようなものを攻撃する。

全ての敵とクリスタルを破壊し、戦闘は終了した。
20分ほどの時間だったが、何時間も戦っていたような疲労感だった。

「ふう…やれたんですね…私たち…」
「あー着ぐるみ着て全力疾走したみたいやわ…アーマーの中サウナやで…」
「ああああもおおおお!はよ死ねや!」

成保はまだ死んだ虫を撃ち続けていた。

「もう死んでる。弾の無駄遣いだ。死体蹴りはやめろ。」

隊長が成保を止めてしばらくすると敵の死骸は霧散した。

「ひっくり返って死ぬんやもん!きもいんじゃああああ!」
「ははは!いやー成保、正直お前は戦力外だと思っていたが…大したものだな。」
「戦力外でええなら次回から欠席するで!?」
「お前がやってた二兆撃ちは『デュアル・ウィールド』と言う技だ。
 ソルジャーの武器は連射が利かないものが多い。
 リロード時間を利用してサブ武器を使って実質無限撃ち状態にする
 基本だが重要な技だ。」
「…リロードがじれったかったから、やっただけなんやけど…」
「並の奴なら練習が必要なんだが、上手いもんだ。
 あと、後退しながら撃つのも『リトリート・ショット』というやつだ。
 基本戦術なんだが、距離が離れると体液を飛ばす今回の蟻のように遠距離攻撃を持つ敵には危険なことも多いんだが
 お前のローリングは完全に体液を見切っていた。」
「???」
「こいつ、『虫嫌』しか頭になかっただけやろ。カンと運が良かっただけや。褒めるだけ損やで」
「あはは!確かに何を褒められてるのかわからんようだしな。
 だが一番生き残れるのは、カンと運のいい奴なんだよ」

うちらは4人とも無事だったが、他の分隊員には犠牲者も出ていた。

「隊長が撃ってた赤いのは何だったん?」
「敵が作ったエネルギー源みたいなもんだな。先に壊す戦法もあるんだが
 蟻は壁面を上ってこれる。壊そうとすると一斉に上ってくるから数を減らしてからじゃないと
 お前らが攻撃できなくなってしまう。」
「めっちゃ高い場所に行かれたら無理やけど、上ってる最中の敵なら
 銃なんやから攻撃できるんちゃうん…?」
「お前らの技術では私に当たる可能性の方が高いんだよ!
 それに充斗は『アレイド』が上手い。
 通常推奨はされないんだが
 『アレイド』は敵を集めて衝撃波を用いて一気にダメージを与える戦法でスティールウォーラーの専売特許でもある。」
「固まって襲うてくるからハンマーで一気にぶっ叩いた方が早い思たっとってんけど…推奨されへんのか…」
「敵に囲まれた状態になるからな。普通に危険なんだよ。
 こんなにアレイドが上手い奴は珍しい。
 蟻は接近すると体液を飛ばさないから相性も良かった。
 だがあまり過信しない方がいい。
 特に他の部隊と合流した場合はできるだけ使わないでくれ。
 他の部隊が混乱する。」
「せやな…気ぃ付けます。」

隊長に無意識に行っていた攻撃の特性と立ち回りを褒められながら説明されると
各自の戦闘スタイルがよくわかる…

「『3年の訓練より1回の実戦』…か…」
「ん?」
「あ、充斗さんがそう言って…」
「そうだな。訓練より1回の実戦の方が学べることも多い。
 もちろん訓練が無駄と言うわけではないが、充斗と成保には実戦が一番の教科書だな。
 柚、お前はとても模範的な戦闘だった。サポートに徹していたのは主義か?」
「あ…成保さんも充斗さんも突撃するから…消極的ですみません…」
「いや。その理由なら現場判断だ。
 仲間の特性を冷静に分析して立ち位置を決められる兵士は貴重だ。
 これが自分の戦闘スタイルだ!と胸を張って良い。
 お前は優秀なサポーターだ。」

『優秀なサポーター』…なんだろう…その言葉がすごく嬉しい…
でも…同時に…すごく哀しい…なんでだろう…

「帰るぞ!」

隊長の号令で帰還する。
宿舎に戻って夕食時、出陣した人たちの多くが包帯を巻いていた。
改めてまったく無傷な私たちが珍しいことを思う。

と、同じく思ったのか他の分隊の人が声をかけてきた。

「君ら、今日の戦闘に参加してなかったの?」
「しとったで?」
「マジか…すげーな…どこもなんともなかったの?」
「はい…成保さんと充斗さんが上手くて…」
「経験者?」
「1回建物内に侵入してきた奴倒しただけやで」
「何人の分隊なの?」
「ここに居る3人に隊長一人の4人やけど?」
「はあ!?それで無事って…兵科は?」
「俺はスティールウォーラー、そっちの二人はソルジャー」
「…信じられねえ…体液も喰らわなかったのかよ…これ。ちょっとかすっただけでこれだぜ?」
「うわ…火傷みたい…痛いでしょう…?」
「うん。ひりひりする。でもまあ、処置してもらったし数日で治るって。」
「お大事に」
「ありがと。そのうちどっかで合流することもあるかもしんないから、そん時はよろしくな!
 頼りになる部隊とお知り合いになれて嬉しいぜ!」

と言うとその人は自分の分隊の方へ帰っていった。
ほとんどの人が包帯を巻いていて、結構重症な人も居るようだった。

「…ここにおるのって、新兵やんな?」
「やと思う…ある程度の1年経ったら兵科ごとに正式な分隊に配属される…て、マニュアルに書いとったし…」
「ほな、充斗とお別れせなあかんの!?」
「まあ…せやろなあ…例外もあるらしいから、知らんけど…」
「…ずっと3人でやりたいです…」
「俺は一緒やで~一緒の兵科で良かったわ~」
「同じ兵科でも同じ分隊に入るかわからへんやろ…まあ…俺もこの3人がええな…」

それから何度か、蟻の襲来があった。
成保の虫嫌いは相変わらずだったが、おかげで逃げるのが上手い事に繋がってるし
褒められた両手撃ちもすっかりマスターして、動きはみるみる良くなっていった。
充斗は自分から突っ込んでのハンマーでのアレイドは極力避け、ここぞという時に真価を発揮していた。

(みんなうまくなってる…隊長の長所指摘で自覚して、的確な注意で安全性が上がってる…
 私はすごく優秀な隊長に当たったんじゃないだろうか…)

そう思う私も、『優秀なサポーター』に徹して、けっして前に出ることなく
二人が全力を出せるように援護していった。

戦闘にも慣れてきたころ、新たな敵が襲来する…

<つづく>

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