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1と2の狭間で~福岡の離島にて~




静かなところで自分と向き合おうと思って来たけど
日暮れにたどり着いた渚は波が荒れて静かではなかった


日が落ちきる前に火を起こさねばと海辺の木々をかき集める。

火種は文明の利器ライター。お世話になっております。

一番乾いてて細い木々が集まった場所に向けて着火するけど中々つかない。やっとついたと思えば今度はすごい勢いで燃え上がり重ねた木々が一瞬で灰になっていく。

火がつくころには日は落ちきっていた。
やっと着いた灯火が消えないようにと近くの木々をかき集める姿は誰かが見ていたら原始人のようだったと思う。
原始人の動き知らんけど。

しかし火の灯る一瞬の間は美しいものだと思った。
なにもないところに突如現れる点のよう。
初めて火を見た原始人も嬉しかっただろうか。

スーパーで買ってきた魚を拾った木に刺して焼く。
汗だくになりながら焼く。

漫画みたいに地面に刺して焼きたかったけれど、倒れるから手に持った。あれどうやってたんだろ。

最後に残った火もまたきれいだった。

地面に散らばった火の粉を消すべく砂利を拾ってはかぶせる。何度目かのその作業で小指に痛みが走る。はねあがる小指。
元々火があったところを掬ってしまった。

火なのか海なのか砂利なのかこの島なのか、
ナニカがわたしに怒っているような気がした。
怒っているのはわたしだった。

近くにある石を散らばった火の粉に向かってなげつける。

何度も何度も。

点くときは中々つかないくせに消えてほしいときは中々消えてくれない。何度石をぶつけても別れて小さい火の粉が現れる。

小さく

小さく

小さくなるだけ



この身体をどれだけ分解していっても原子、粒子、ひもになるまでほどいても、物質でしかなくて心なんてどこにも見つからないように

どれだけ考えをひもといても複雑に散らばっていって、答えなんてどこにも見つからないように

もうなにに怒っているのかわからなかった。
生まれたときから怒っていたような気がした

最後の火の粉は海の方に飛んで波にかき消された。




海辺で眠るつもりでいたのだが波が結構こちら側まで来ててここで眠るのは少し怖くなった

暑いし虫も多いしゆっくりしたくなって宿を探すことにした。

道端にでるとモフモフした物体が近づいてくる
足元までやってきたので腰を落とすと身を預けてきた

首輪につながれていない犬を見るのは久しぶりだった

ハッハッと息をしながら潤んだ瞳で見つめてくる
なにかを主張しようとしているように見える
話せたらいいのにね

民家の方に首を振ってまるでついてこいと言ってるかのよう。

そちらの方にダダダと歩いて行き立ち止まってこちらを見る
来いと言っているのだろうか
同じとこに帰れたらいんだけどね
人間にはルールがあるんだ

するとまたダダダと戻ってきてゴロンとする

犬もさびしいだけなのかもしれないけれど、
犬がなんと思っていようとわたしにとってそれは優しさだった
身勝手な優しさがちょうどいい

しばらくワシャワシャして立ち上がろうとすると、また身を預けてくる

散歩しようかと言うと
ダダダと道路沿いに歩きだす犬
わたしには目もくれずどんどんゆく

途中きれいな橋を見つけたのでそこで眠ることにした

優しさに触れたのでここでいいかと思った
犬とさよならをしてギターを枕にして横になる

通常の4倍ほどある蚊がわたしの血を吸いにくる
身体があることがほとほと嫌になりながら駆逐していると、いつの間にか眠りに落ちた。

 



また目が覚めるとまだ空は暗かった。
わたしの視界にはたくさんの星が映っている

それらはわたしの身体の上だけに拡がっていた
まるでわたしのために浮かんでいるように思えた

しかし考えてみればこの星達をこの時間この配置で捉えているのはわたしだけで、そもそも今日この島に来なければ、この映像は存在し得なかった。

星達が案外近くにある。その奥行きを認識した瞬間、その星達がハリボテに見えた

すると星達のひとつがまばゆい光を放って姿を消した
まるでビッグバンのようだと思った
他の星達も見てみると実に様々なものだった

光は鈍いけれど大きく拡がるわたがしみたいな星
見つめるとなんか動き出して最終的に踊り出す星
見つめると分裂してその片方が消えてしまう星
見つめるとその場でくるくると回りだす星
見つめると姿を消してしまう星
光ったり消えたりを繰り返している星

見つめたら動きを変える系が多かった

これはわたしの生み出すスクリーンなのだと思った
いつも見たいように物事を見ているのだ

右を向くと他の星達と離れた所に明るい星が2つ
その2つが互いに近づいていきひとつになって消えた
それはひとつになるというより
ひとつに還るという感じだった

なんだかもう大丈夫だと思った




空が青み始めたので次の場所を目指すことにした。
まだ足を運んでいない山の上の方、砲台跡地。 

そこには記念碑があった。
戦争でなくなった人達を想って立てられたもの。

わけもわからず触れてしまった。

記念碑の後ろには丸太でできた椅子が4つあった。
頭の中にイメージが割り込んでくる

兵隊さん達の笑顔。三人で丸太に座ってご飯を食べている。4つの丸太の真ん中の右側が空いている。

「おいなにしてんだ、あんたもこっちに来て食べな」

イメージの中の兵隊さんに言われるままに丸太に向かう。
座ると声をかけてくれた兵隊さんがおにぎりをひとつくれた。

イメージの中のおにぎりを実際の右手で掴んで口に運ぶ。

「なっ、うまいだろ」
すすだらけの顔で満面の笑みを浮かべていた

「おい、これも食えよ」
反対側の兵隊さんが卵焼きをくれる。

「ここの飯ってこれだけがうまいんだよなぁ」
「おい、またどやされるぞ」
「「ハッハッハッ」」

僕の兵隊さんのイメージはいつも死に怯えていた

どうして

「どうして。死ぬのが怖くないんですか?」

おにぎりをくれた兵隊さんが口を開く。

「守りたい未来があるんだ。

そりぁ俺達は死んでしまうかもしれないけどさ、

俺らの次の世代、次の次の世代、また次の世代がきっといい国、いやいい世界を作ってくれると思うんだ」

僕は国なんてなくていいと思ってたし、
天皇万歳といって死んでいく人の気持ちがわからなかったし、
教科書でしか知らない戦争はずっと遠くのことのようで自分とは関係ないと思っていた。

「じゃあ行ってきます」
三人が立ち上がって敬礼をする。

涙が止まらなかった。
僕はありったけの敬服の念で敬礼をした。

もっとちゃんと知らなければならないと思った。
僕達は今彼らが守った彼らが見たかった未来にいる。







わたし達は今きっとブラックホールの中に

限界まで小さくなった点の中で夢を見ている

ひとりぼっちでさびしかったあなたの見果てぬ夢

あなたが少しでも多くの夢を見られるように

僕はこの生を全うする

ずっと続けばいいね


知らんけど