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あの頃へGO!

1976年

この年は、春先に初主演の映画「さらば夏の光よ」が公開される。年明けには、バンド「SUPER JETS」をバックに従え、新曲「恋の弱み」をテレビで披露している。その動画には、大学受験に挑む年とテロップが流れる。6月には、ロサンゼルスでの海外初公演にワンマンライブを開催する。その実況アルバムが2組リリースされる。8月、シングル「あなたがいたから僕がいた」がリリースされ、日本レコード大賞大衆賞を受賞。10月、アルバム「街かどの神話」では、荘久史(そうひさし)名義でソングライターとしてデビューも果たす。

1月、シングル「恋の弱み」がリリースされた。リズムギターから始まるロック調のイントロは、バンド演奏が前提のサウンド作りと伺える。翌年、「近田春夫とハルヲフォン」のアルバム「電撃的東京」にもカヴァーされたナンバー。さらにその翌年に出版される近田春夫の著書「気分は歌謡曲」。当時、この本を手にした筆者は中学生だった。ひろみを始めとした歌謡曲の評論集で、筒美京平なる作曲家を初めて知る著書だった。B面「さらば夏の光よ」は、同年3月に公開された同名の映画の主題歌。原作はクリスチャンの遠藤周作。ニッポン人とキリスト教信者の狭間で描かれた同作は、機会を見つけて観てみたい。このバラードを幾重に聴く度、まだ観ぬ映像が浮かんで来る様だ。

5月、シングル「20才の微熱」がリリースされた。二十歳の成人男性の思考を描いた只のナンパの歌詞と思われるが、そこに焦点を当てた橋本淳の着眼センスが面白い。微熱と言えば、松本隆が小説、映画に発展させる「微熱少年」が連想される。エッセイ集が始まったのはこの前年。松本が27歳、橋本が38才。B面「君の匂いの中で」はディスコナンバー。筒美京平が「Dr. ドラゴン&オリエンタル・エクプレス」名義で「セクシー・バスストップ」をリリースしたのが同年3月、米国で流行していた新ステップ「バスストップ」を踊れる日本版フィリー・サウンドを目指して制作された企画。ひろみのサウンドもその潮流に乗る楽曲が展開され始めた。

6月、3枚目のベスト「ベスト・オブ・ベスト 郷ひろみのすべて」がリリースされた。収録全24曲はシングルのみならずオリジナルアルバムからもセレクトされている。その中で特筆すべきは、前年リリースされたアルバム「HIROMIC WORLD」からピックアップされた「君のおやじ」。ユーミンによる先鋭的なワードだが、映画「風と共に去りぬ」から着想されたと想像される。

1976年、シングル4枚、アルバム1枚、ライブアルバム2枚リリース、ベストアルバム2枚リリース。
1月 シングル「恋の弱み/さらば夏の光よ(橋本淳/筒美京平/筒美京平)」
5月 シングル「20才の微熱/君の匂いの中で(橋本淳/筒美京平/筒美京平)」6月 ベストアルバム「ベスト・オブ・ベスト 郷ひろみのすべて」
8月 シングル「あなたがいたから僕がいた(橋本淳/筒美京平/筒美京平)/夏のページ(橋本淳/筒美京平/高田弘)」
8月 ライブアルバム「GO GOES ON!(Part1)〜HIROMI IN U.S.A〜」
9月 ライブアルバム「GO GOES ON!(Part2)〜HIROMI IN U.S.A〜」
10月 アルバム「街かどの神話」
11月 シングル「寒い夜明け/南の果物(楳図かずお/筒美京平/筒美京平)」
11月 ベストアルバム「郷ひろみヒット全曲集」

8月、シングル「あなたがいたから僕がいた」がリリースされた。このナンバーは、ヒット曲「よろしく哀愁」を意識して制作されたイタリアンツイスト。後年の「マイレディー」や「How many いい顔」につながるこの路線は、既に確立されていたことが改めて分かる。2021年にリリースされる松本伊代のカヴァーアルバム「トレジャー・ヴォイス」にも収録され、筒美ワールドとしての要素を構成しているといえる。同月、6月、米国ロサンゼルスの「スコティッシュ・ライト・オーディトリアム」にて、海外初のワンマンライブ「GO GOES ON!〜HIROMI IN U.S.A〜」が開催された。そのライブ実況が収録されたアルバムのPart1が8月、Part2が9月にそれぞれリリースされた。

ライブアルバム「GO GOES ON!(Part1)〜HIROMI IN U.S.A〜」収録曲
『題名』リリース年(オリジナル)作詞(訳詞)/作曲/編曲
⒈ 『ジュライ・モーニング』1971年(ユーライア・ヒープ)デイヴィッド・バイロン/ケン・ヘンズレー
2.『葬送〜血まみれの恋はおしまい』1973年(エルトン・ジョン)バーニー・トーピン/エルトン・ジョン
3.『ストーン・コールド・クレイジー』1974年(クイーン)フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコン
4.『アメリカン・ウーマン』1970年(ゲス・フー)ランディ・バッハマン、バートン・カミングス、ジム・ケール、ギャリー・ピーターソン
5.『スーパー・ヒーローズ』
6.『プリーズ・ミスター・ポストマン』1961年(マーヴェレッツ)ジョージア・ドビンズ、ウィリアム・ギャレット、フレディ・ゴーマン、ブライアン・ホーランドロバート・ベイトマン
7.『クロコダイル・ロック』1972年(エルトン・ジョン)バーニー・トーピン/エルトン・ジョン
8.『さくらさくら』
9.『ジャンバラヤ』1952年(ハンク・ウィリアムズ)ハンク・ウィリアムズ、ムーン・マリカン
10.『ハロー・メリー・ルー』1961年(リッキー・ネルソン)ジーン・ピットニー、ケイエット・マンジアラシーナ
11.『ユー・アー・マイ・サンシャイン』1939年 ジミー・デイビス、チャールズ・ミッチェル
12.『君の友だち』1971年(キャロル・キング)キャロル・キング
13.『兄弟の誓い』1970年(ホリーズ)

このライヴのセットリストは、当時の英国、米国のロックやポップス及びひろみのオリジナル曲から選曲されている。演奏は「SUPER JETS」にホーンセッションやコーラスが加わった編成となっているが、この投稿を書いている時点ではアップルミュージックやYouTube動画等での視聴は叶わない。特にロックやポップスのカヴァーの演奏や歌唱には大変興味があるところではあるが。

ライブアルバム「GO GOES ON!(Part1)〜HIROMI IN U.S.A〜」収録曲
『題名』リリース年(オリジナル)作詞(訳詞)/作曲/編曲
1.『サタデー・ナイト』1973年(ベイ・シティ・ローラーズ)、フィル・コールター、ビル・マーティン
2.『裸のビーナス』1973年、岩谷時子/筒美京平/筒美京平
3.『モナリザの秘密』1973年、岩谷時子/筒美京平/筒美京平
4.『花とみつばち』1974年、岩谷時子/筒美京平/筒美京平
5.『よろしく哀愁』1974年、安井かずみ/筒美京平/森岡賢一郎
6.『逢えるかもしれない』1975年、山口洋子/筒美京平/筒美京平
7.『パピーラブ』1960年(ポール・アンカ)ポール・アンカ(千家和也)/ポール・アンカ/高田弘
8.『バイ・バイ・ベイビー』1965年(フォー・シーズンズ)ボブ・クルー(安井かずみ)、ボブ・ゴーディオ
9.『20才の微熱』1976年、橋本淳/筒美京平/筒美京平
10.『恋の弱味』1976年、橋本淳/筒美京平/筒美京平

10月、アルバム「街かどの神話」がリリースされた。約1年ぶりとなるオリジナルアルバムには、ホラー漫画の第一人者・楳図かずおの作詞が起用され4曲、橋本・筒美コンビの4曲、荘久史(そうひさし)のナンバー2曲が収録された。

アルバム「街かどの神話」収録曲
『題名』作詞/作曲/編曲
1.『街かどの神話』楳図かずお/筒美京平/船山基紀
2.『あの地平線』橋本淳/筒美京平/筒美京平
3.『もう会えません』楳図かずお/筒美京平/船山基紀
4.『夏のページ』橋本淳/筒美京平/高田弘
5.『小さな友情』橋本淳/筒美京平/高田弘
6.『寒い夜明け』楳図かずお/筒美京平/筒美京平
7.『あなたがいたから僕がいた』橋本淳/筒美京平/筒美京平
8.『限りなき愛の日々に』荘久史/荘久史/高田弘
9.『桜の五線譜』寺田声/大兼佳也/高田弘
10.『南の果物』楳図かずお/筒美京平/筒美京平
11.『青いサンダル』寺田声/大兼佳也/高田弘
12.『アメリカより愛をこめて』荘久史/荘久史/高田弘

11月、シングルカットされた「寒い夜明け」がリリースされた。軽快なシティーポップは今なお聴き込めるタイムレスなナンバー。さらに聴き込むうちに、「ですます調」で描かれたリリックの描写が深く謎めいて、サウンドとの絶妙な構成に気付かされる。作家陣の視点で見ると、まさに化学反応の典型的な例かと納得させられる。

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