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あの頃へGO!

1972年

1972年8月、郷ひろみのデビューシングル「男の子女の子」がリリースされた。前年、ジャニー喜多川にスカウトされ、北海道旭川市で開催されたフォーリーブスのステージでファンからの「GO!ひろみ」という声援がそのまま歌手名として採用された。ジャニーは1968年にリリースされたオックスのヒット曲「ダンシング・セブンティーン」のノリを思い描き、デビュー曲を作曲者の筒美京平に発注した。いまそのイントロを聴くとそのノートに“ダンシング・セブンティーン”のワードが気のせいかピッタリ当てはまる。作詞の岩谷時子は加山雄三の「君といつまでも」で有名だが、作詞家としてのスタートは1952年にマネージャーをしていた越路吹雪の「愛の讃歌」の訳詩だった。原曲は、フランスの歌手エディット・ピアフの「Hymne à l'amour」。飛行機事故で亡くなった恋人のボクサー、マルセル・セルダンへの想いが歌われた。それから20年のキャリアになる岩谷も56歳。“一度の人生大事な時間”は、シックスティーンの郷がノリで歌うワリにはシリアスなメッセージ。それでもHey! Hey! Hey!と迫る郷の前には広大な未来が広がっていた。B面の「夢をおいかけて」は、そんな希望に満ち溢れたテーマ。マイナーの曲調にブラスセクションが重なる青春歌謡チックなサウンドだ。エレキのリードとストリングスが彩られ、サウンドの方向性も前向きだ。11月、シングル「小さな体験」がリリースされた。ハンドクラップが変速的に響くウェストサイドストーリー調のテンポで始まると、ロックンロールのノリに展開されかっこいい。郷の個性的な声質もティーネージャーとは思えないほど完成されている。B面は兄貴分の北公次が作詞した「せのびした16才」。曲は筒美が書いている。編曲は1968年にリリースされヒットしたいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」を手がけた高田弘。初期の筒美サウンドに関わってきたひとり。高田の名編曲は1978年にリリースされる野口五郎の「グッド・ラック」だろう。同月、デビューアルバム「男の子女の子」がリリースされた。このアルバムには同時発売のシングルA面「小さな体験」は収録されなかった。12曲が収録されそのうち9曲が高田の編曲。CBSソニーの酒井政利はシンシアを皮切りに郷のデビューアルバムもプロデュースし新しいアイドルのサウンドを生み出していった。。

1972年、シングル3枚、アルバム1枚リリース。
8月  シングル「男の子女の子/夢をおいかけて(岩谷時子/筒美京平)」
11月 シングル「小さな体験(岩谷時子/筒美京平)/せのびした16才(北公次
    /筒美京平/高田弘)」
11月 アルバム「男の子女の子」
12月 シングル「天使の詩(アン・グレゴリ、P・クーラック/日本語作詞:ヒ
    ロコ・ムトー/青木望)/青いしずく(ヒロコ・ムトー/木下忠司)」

デビューアルバム「男の子女の子」収録曲
『題名(邦題)』作詞(訳詞)/作曲/編曲
1.『男の子女の子』岩谷時子/筒美京平/筒美京平
2.『理由なき反抗』岩谷時子/筒美京平/高田弘
3.『せのびした16才』北公次/筒美京平/高田弘
4.『愛の教室』岩谷時子/筒美京平/高田弘
5.『言えない友達』北公次/筒美京平/高田弘
6.『夢をおいかけて』岩谷時子/筒美京平/筒美京平
7.『Too Young(トゥー・ヤング)』シルビア・ディー(日本語詞:岩谷時子)/シドニー・リップマン/高田弘
オリジナル:ナット・キング・コール(1951年)、ダニー・オズモンド(1972年)
8.『Sealed with a Kiss(涙のくちづけ)』ピーター・アデル/ゲイリー・ゲルド(日本語詞:岩谷時子)/高田弘
オリジナル:ブライアン・ハイランド(1962年)、ボビー・ヴィントン(1972年)
9.『Go Away Little Girl(ゴー・アウェイ・リトル・ガール)』ジェリー・ゴフィン、キャロル・キング(日本語詞:岩谷時子)/高田弘
オリジナル:スティーヴ・ローレンス(1962年)、ダニー・オズモンド(1971年)
10.『約束の海』石坂まさを/鈴木邦彦/高田弘
11.『虹の世界へ -ひろみと共に-』神坂薫(工藤忠義)/葵まさひこ/葵まさひこ
12.『おしゃべり』石坂まさを/鈴木邦彦/高田弘

オリジナルで気を引くのは岩谷/筒美コンビ作の「愛の教室」だ。イントロはファズのかかったカッティングギターで始まる。バンド色が強い編曲は、グループサウンズからの流れなのか、一方で「よろしく哀愁」の予兆を感じるナンバーでもある。岩谷の少年の心の描写は生々しくタイトルの納得感を与えてくれる。洋楽ポップスのカヴァーは3曲収録された。「Too Young」は当時人気のティーネージャー、ダニー・オズモンドがナット・キング・コールの原曲をカヴァーしてヒットしたナンバーだった。マイケル・ジャクソンのジャクソンズと双璧をなすオズモンド・ブラザーズのメンバーで、ダニーはマイケルと同年、郷は少しだけ上になる。同じダニーのカヴァー曲「Go Away Little Girl」は、スティーブ・ローレンスが1962年にリリースしたヒットしたナンバー。楽曲はジェリー・ゴフィンとキャロル・キングのカップルによる。ダニー同様ビルボードポップチャートでNo.1を獲得したスティーブは、今年3月に他界した。多くのアーティストがカヴァーしたこのナンバーは、シンシアのアルバム「哀愁のページ」にも収録されている。オリジナル曲「虹の世界へ -ひろみと共に-」の作詞にクレジットされた神坂は、フォーリーブスがレギュラーを務めたテレビ番組「歌え!ヤンヤン!」の東京12チャンネルのプロデューサーで、当番組は同年に始まった。

12月、シングル「天使の詩/青いしずく」がリリースされた。木下惠介アワーのドラマ「おやじ山脈」の主題歌。1943年、映画「花咲く港」で監督デビューした木下惠介は、1964年、松竹を退社しプロダクションを設立、テレビドラマ界に進出していた。「青いしずく」の作曲はその実弟、忠司。1974年、イタリアのニーノとトーニのパゴット兄弟とカルロ・ペロが考案したアニメ「カリメロ」がニッポンで放送された。忠司はその主題歌を作曲している。レコードデビュー前からドラマに出演していた郷は、歌手と併行して役者としても活動し、ドラマの主題歌もタイアップを始めていた。年末に開催された第14回日本レコード大賞で「男の子女の子」は新人賞を受賞した。残念ながら最優秀新人賞は、浅丘めぐみの「芽ばえ」に輝いた。作詞は、なかにし礼の弟子、千家和也、そして曲は筒美京平、編曲は高田弘とクレジットされている。

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