元祖アイドルからの、音故知新
シンシア 1972年
デビュー2年目。この年、3枚のシングルがリリースされた。ところが、アルバムは4枚もリリースされている。これは前年同様、アルバム収録曲の半分が、ポップスのカヴァーで構成されている為だった。原曲の英語の歌詞でも流暢に歌いこなす高い歌唱力、聴き直す毎に只々圧倒させられる。アルバムの中の1枚は、全ナンバーが筒美京平作品というコンセプトで、シンシアが他の歌手のナンバーをカヴァーしている。1968年に設立されたCBSソニーは、この年、シンシアに続きジャニーズ事務所の男性アイドル、郷ひろみと契約した。デビューシングル「男の子女の子」と同年リリースされたアルバム「男の子女の子」には、筒美京平の作品が6曲、そしてポップスのカヴァーが3曲収録されている。それでもシンシアのカヴァーの数は多い。
1972年2月、シングル「ともだち/いつか逢うひと」がリリースされた。ピアノとベースギターのリエゾンで軽快に始まるイントロのリズムフレーズ。このナンバーのサビ、「あの人にだけ人見知りなの」は何度聞いても印象的なフレーズだ。6月、シングル「純潔/素晴らしいひと」がリリースされた。夏を前に激しくなったリズムセクション、フレーズとメロディーに絡まる歌詞も「お家が飛びそうでも、楽しいのよ…」と過激ながら、リズムで全てがすっ飛んでしまう。9月、シングル「哀愁のページ/美しい娘たち」は一転して失恋の切ないバラードが歌い上げられている。声量もある歌手の才能を改めて知る「音故知新」だ。
1972年、シングル3枚、アルバム4枚リリース。
2月 シングル「ともだち/いつか逢うひと」
6月 シングル「純潔/素晴らしいひと」
アルバム「純潔/ともだち」
9月 シングル「哀愁のページ/美しい娘たち」
アルバム「哀愁のページ」
11月 アルバム「ギフトパック 南沙織―1972年版―」
12月 アルバム「早春のハーモニー」
アルバムはさらに興味深い。「純潔/ともだち」は、定型のオリジナル&カヴァーのハーフ&ハーフ。「哀愁のページ」は、前年の「潮風のメロディ」同様に、タイトルシングル以外は、カヴァーで構成されている。このカヴァーナンバーを、前年のカヴァーに加えたのが下記の年表だ。筆者の年代でも聞き覚えのあるナンバーだ達だが、改めてシンシアの視点からも見てみるとその原風景が見えてくる様だ。前述の通り、年末にリリースされた「早春のハーモニー」は、筒美京平の作品で収録曲が構成されている。例えば、A面5曲目の「あの場所から」は、Kとブルネンに作られたナンバーだが、1982年に柏原よしえがカヴァーしている。全曲が「筒美京平とサウンド・ナウ・オーケストラ」による演奏となっている。「ギフトパック 南沙織―1972年版―」は、初めてのオリジナルのベストアルバムになり、以後、毎年リリースされていく。
カヴァーの原曲のリリース年表
『邦題』(原曲国)「原曲国題名」(歌手)
1957年
『ターミー』(米)「Tammy」(デビー・レイノルズ)
1958年
『先生のお気に入り』(米)「Teacher’s Pet」(ドリス・デイ)
『恋はひとめぼれ』(米)「To Know Him Is To Love Him」(ザ・テディーベアーズ)
1959年
『カラーに口紅』(米)「Lipstick On Your Collar」(コニー・フランシス)
1960年
1961年
『悲しき片想い』(英)「You Don’t Know」(ヘレン・シャピロ)
『ライオンは寝ている』(米)「The Lion Sleeps Tonight」(ザ・トーケンズ)
1962年
『ゴー・アウェイ・リトル・ガール』(米)「Go Away Little Girl」(スティーヴ・ローレンス)
1963年
『ビー・マイ・ベイビー』(米)「Be My Baby」(ザ・ロネッツ)
『ネイビー・ブルー』(米)「Navy Blue」(ダイアン・リネイ)
1964年
『恋のダウンタウン』(英)「Downtown」(ペチュラ・クラーク)
1965年
『そよ風にのって』(仏)「Dans le meme wagon」(マージョリー・ノエル)
『夢見るシャンソン人形』(仏)「Poupee de cire, Poupee de son」(フランス・ギャル)
1966年
『ジョージー・ガール』(英)「Georgy Girl」(ザ・シーカーズ)
1967年
『悲しき天使』(米)「I Say a Little Prayer」(ディオンヌ・ワーウィック)
1968年
『ラブ・チャイルド』(米)「Love Child」(ダイアナ・ロス&ザ・スプリームス)
『小さな願い』(米)「I Say a Little Prayer」(アレサ・フランクリン)
『悲しき天使』(米)「Those Were the Days」(メリー・ホプキン)
『ウォータールー・ロード』(英)「Waterloo Road」(ジェイソン・クレスト)
1969年
『オーシャンゼリーゼ』(仏)「Les Champs-Elysees」(ジョー・ダッサン)
『雨』(伊)「La Piaggio」(ジリオラ・チンクエッティ)
『スウィート・キャロライン』(米)「Sweet Caroline」(ニール・ダイアモンド)
1970年
『ローズ・ガーデン』(米)「Rose Garden」(リン・アンダーソン)
『ハロー・リバプール』(英)「Liverpool Hello」(カプリコーン)
『木枯らしの少女』(英)「She’s My Kind of Girl」(ビヨルン&ベニー)
『アイル・ビー・ゼア』(米)「I’ll Be There」(ジャクソン5)
1971年
『夏の日の出会い』(米)「Summer Creation」(ジョン・シェパード)
『小さな恋のメロディー』(米)「Melody Fair」(ビージーズ)
『君の友だち』(米)「You’ve got a Friend」(キャロル・キング)
『気になる女の子』(米)「That’s The Way A Woman Is」(ザ・メッセンジャーズ)
『オールド・ファッションド・ラブ・ソング』(米)「An Old Fashioned Love Song」(スリー・ドッグ・ナイツ)
『母に捧げる詩』(米)「Mother of Mine」(ニール・レイド)
『愛するハーモニー』(豪)「I’d Like to Teach the World to Sing」(ザ・ニュー・シーカーズ)
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