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元祖アイドルからの、音故知新

シンシア 1975年

この年、ベストアルバムが3枚リリースされた。1枚目は、今までのアルバムに収録されてきた洋楽ポップスカヴァーのセレクトアルバム「南沙織 ポップスを歌う」。ファーストアルバムからは「17歳」の下地となったリン・アンダーソンの「ローズ・ガーデン」がピックアップされメモリアルなナンバーであることが伺える。2枚目は、ベストアルバム「南沙織デラックス」。初めての2枚組アルバムには、オリジナル25曲がセレクトされ集大成となっている。デビューアルバムからは「ふるさとの雨」がしっかりセレクトされ、信者としてはこのナンバーの貴重さに頷ける。同月にリリースされた全曲オリジナルのアルバム「Cynthia Street」は、新たなサウンドを求めロサンゼルスでレコーディングされた。アルバムA面には、ベストアルバムと対照的に筒美京平氏と安井かずみ氏が起用されている。ジャニーズ事務所初のオリコン1位を獲得したナンバー「よろしく哀愁」を手がけたこのコンビの起用は、酒井政利プロデューサーの特権だった。ドラッグストアが「DRUGSTORE」と表記され、当時の時代や先進的センスを感じる。アルバムB面には、後年映画音楽で活躍するジョージSクリントンとシンガー・ソングライターのアラン・オデイが起用された。集大成のベストアルバム、新たな方向性を模索するオリジナルアルバムが同月にリリースされ、シンシアは転換期を迎えていた。最後のベストアルバム「南沙織ヒット全曲集 -1975年版-」は、デビュー以来毎年リリースされてきたイヤーブック的アルバム。そして12月、満を持してオリジナルアルバム「人恋しくて」がリリースされる。酒井プロデューサーの手腕が発揮され、新たな作家陣が起用された。

1975年、シングル4枚、アルバム5枚リリース。

2月  アルバム「南沙織 ポップスを歌う」
4月  シングル「想い出通り/ご無沙汰」
6月  アルバム「南沙織デラックス」
6月  アルバム「Cynthia Street」
8月  シングル「人恋しくて/ひとつぶの涙」
11月 アルバム「南沙織ヒット全曲集 -1975年版-」
11月 シングル「ひとねむり/おはようさん」
11月 シングル「シンシアのクリスマス」
12月 アルバム「人恋しくて」

シングルは4枚リリースされた。4月、1枚目の「想い出通り」がリリース。フレンチポップスっぽくデキシー調なナンバーに「底抜けな顔」というリリックが引っかかる。有馬/筒美コンビ作を萩田光雄氏が編曲。シンシアもカヴァーしている高木麻早の「ひとりぼっちの部屋」で編曲家デビューした萩田氏。同年、布施明の「シクラメンのかほり」が大ヒットとなった。氏の最高傑作は何といっても1979年にリリースされる久保田早紀の「異邦人」であろう。8月、「人恋しくて」がリリース。1976年に「春うらら」がヒットする田山雅充氏の作曲。テレビ番組「勝抜きのど自慢」に自作を弾き語りで披露した氏は、この時の縁で番組の審査員ハマクラ(浜口庫之助)に師事する。編曲は水谷公生氏だが「シクラメンの‥」と雰囲気が似ているのは気のせいだろうか。11月、3枚目のシングル「ひとねむり」がリリース。作詞は文化放送を退社しフリーとなった人気DJ落合恵子氏。前作のニューミュージック路線をさらに補強するかのように、筒美節がグッとくるナンバー。特筆すべきは1970年代後半からシティポップスを手がける林哲二氏が編曲に起用された。同日、4枚目のシングル「シンシアのクリスマス」がリリース。4曲のクリスマス・スタンダード・ナンバーが収録されたこの企画盤は、萩田、林両氏が2曲ずつ編曲を担当。

アルバム「人恋しくて」収録曲
『題名』作詞/作曲/編曲
『哀しみの家』石坂まさを/五大洋光/水谷公生
『ひとねむり』落合恵子/筒美京平/林哲司
『窓灯り』中里綴/田山雅充/水谷公生
『朝市の立つ町』有馬三恵子/川口真/萩田光雄
『想い出のかけら』落合恵子/筒美京平/林哲司
『人恋しくて』中里綴/田山雅充/水谷公生
『六本木』有馬三恵子/川口真/萩田光雄
『ひさしぶりね』落合恵子/筒美京平/林哲司
『シャワーの中で』石坂まさを/五大洋光/水谷公生
『昼顔』有馬三恵子/川口真/川口真
『ひとつぶの涙』中里綴/田山雅充/水谷公生
『夢をかえして』石坂まさを/五大洋光/水谷公生

石坂まさを氏は、新宿の出身。作詞家・石本美由紀氏主催の同人誌への投稿が契機でプロへの道を歩む作詞家。藤圭子との出会いから彼女を「新宿の女」でデビューさせ育てていった。『哀しみの家』はそんな演歌を手がける作詞家と、3月にロックグループ「キャロル」を解散しCBSソニーからソロのデビューアルバム「アイ・ラヴ・ユー、OK」をリリースしたばかりの五大洋光(矢沢永吉)氏とのまさにフュージョン。この曲にもし原曲があるとしたらハマクラの「愛のさざなみ」であろう。「シャワーの中で」は、グループサウンズ時代から活躍されている水谷氏の編曲で、当時の永ちゃんが歌っても不思議でないサウンドの仕上がりとなっている。エンディングナンバー「夢をかえして」もメロディアスなナンバーだ。シングルリリースされた「ひとねむり」と同様、「思い出のかけら」「ひさしぶりね」は落合/筒美コンビに林哲二氏が編曲を担当。各作品ではハイハットの使い方が何となく際立つのは気のせいだろうか。これらいずれも個性的な作家陣の作品ではあるがそれらを難なく歌い上げているシンシアの表現力にも感心させられる。「窓灯り」「人恋しくて」「ひとつぶの涙」は中里綴と田山両氏のコンビに水谷氏が編曲。ニューミュージック系特有のエレキのリフやベースのおかずラインが際立つ味付けだ。「朝市の立つ町」「六本木」「昼顔」は有馬美恵子、川口真両氏のコンビ。萩田または川口両氏の編曲。中でも「六本木」はディスコテンポのナンバーだが有馬氏のセンスが相変わらず光る。アルバム作りの分業化が進み、全曲オリジナルのアルバムとなった。

(つづく)

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