「放課後、部活にて」(番外編5:①)
これは私の高校生時代のお話です。
ある土曜日の放課後、私はブラスの先輩達とある教室にいました。スティックを使ってのリズム打ちの練習中のこと。そこにいたのは、二人の三年生と一人の二年生(全て女子)、そして一年生の私。
それぞれのパートのリズムを刻む、机を叩く音だけが響いていました。
ふと、廊下の窓の隙間から覗く、中年の女性の影。それはやがて入り口の方に回り、教室のドアが無造作に開けられました。
「あんた達、ここで何してるの?」
荒い声に不規則にフェードアウトしていくリズム。中年女性は特に部屋を見渡すこともなく、なぜか私の方だけを向いていました。
思わず回りを見回し、無言の私。彼女は私の方に近づいて来て、質問を繰り返します。
「ね、あんた、何してるの?」
「え?部活、、、ですけど?」
状況の掴めない私はただ戸惑うばかり。
「ブラスバンドの練習してるんですけど、、、あなたは?」
先輩が横から口を挟みました。彼女はめったに部活にも来ないものの、割と言いたいことをはっきり言うタイプ。
「あんた達、どうして机をそうやって叩くの?顧問は誰?先生がこんなことしろって言ってるの?」
一気にまくし立てるその女性は、先輩を無視して、まるで私一人に怒っているようでした。私は訳がわからず、その顔を見上げながら立っているしかありません。
「とにかく、もうやめなさいね」
その女性は荒い足音で教室を出て行きました。
「なんだったの、あの人?」
もう一人の先輩が話しかけてきました。
「さあ?机を叩くのを止めろって言われたんですけど。。。」
と、首をかしげる私。
「ああ、この下の教室でPTAの会議してるそうだから」
一人で納得して、笑いながら説明する先輩。
「練習してて良いんですか?」
「良いんじゃない?部活なんだから。音が響くみたいだから、教科書でも下に敷けば?」
そう言って、彼女は戻って行きました。
私も戸惑いながら、練習を再開しました。
再び教室に響き始めるステイックの音。異なるパートの不規則なリズムは、また少しずつ大きくなっていきました。
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