【薔薇を買った】

【薔薇を買った】

桜井市での仮吉方暮らしも残すところ十日余りとなった。こちらで仕入れた食べ物は、元の家に戻ると食べることができないというルールがあるので、期間内にうまく食べ尽くさなければならない。

夕方、スーパーマーケットに行き、あとどれほどの必要があるかを思い巡らせながら食料を調達した。

会計を済ませたあと、スーパーの一角にある花屋のバラが目に留まった。ピンク、オレンジ、黃に赤。
サクラソウもチューリップも散ってしまった我が部屋には今、花がない。欲しい。ただ、引っ越しの荷物に花は煩わしい。今買っておけば滞在中には咲き終えるだろうと算段し、迷いに迷ったあげく黄色を選んだ。

道すがら、手に持った薔薇の横顔を見ると外側の花弁の一部が薄っすらと緑色をしている。そういえば、と、思い出したのは「花弁は萼が変容したものだ」という話しだ。先祖返りをした花弁は萼片のような姿形になることがあると「ゲーテ・シュタイナー植物観察」で学んだことが甦ってきた。花はアストラル的な力によって「生命の色〜緑」を失い色彩を纏う。それは神に向かって自らを開こうとする姿なのだそうだ。

あともう少しで家につく、と前方に目をやると、薄緑色した三輪山がゆったりと両腕をひらいていた。


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