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sundaysunday

急な階段をよく目を凝らしながら背中を丸めて降りる。まだ先頭から3人目くらいの列ができていて、隆文はその後ろについた。見慣れた顔を見つけたが、一方的に知っているだけで、話したこともない奴だった。相手とは、なんとなく目があって、「お」という雰囲気を出し、相手は、「佐々木?」と話しかけてきた。隆文は、(うん)と、頷いただけだが、相手が満面の笑みを浮かべているので、つられて口許を緩めた。普段、出入りすることのない非日常の場所で、要らぬ緊張に興奮しているのが、互いに少し気恥ずかしいというのもあるかもしれない。
「ジャンル、くわしいひと?」
ためらいなく手で、否定を表した。
「ごめん、工藤だっけ?」
遠慮がちに聞いてきたが、嫌な気分はしなかった。
「うん、藤田・・・」
藤田シュウはまた、「お」という顔をした。下の名前まで知っているとわかったら、彼はどんな顔をするだろうか。
「俺、ぜんぜんこういう場所来たことなくてさ」
藤田はクラスではあまり目立たない存在だが、俺は文化祭の美術部の展示で、やけに個性的な絵の作品を見て知っていた。
「残酷・・・・」
また、「お」の顔になった。
クラスメイトと絵について会話するなんて思わなかった。
ライブはかなり本格的で、観客もなかなかだった。佐々木もやって来て、藤田と手をあげてリズムをとるくらいは盛り上がった。
結局、佐々木はひとりで20枚以上を売ったらしい。ステージから佐々木コールが始まって、会場が一体になったのには、興奮を感じてしまった。
あの時、もっと粘って誘えばよかったとやはり、少し後悔した。

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