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【漫画】『王様ランキング』に期待を裏切られ続ける

「次に来るマンガ大賞2018」Webマンガ部門ノミネート作品で、ここ数日ツイッターで話題になっている『王様ランキング』。2017年5月20日から連載開始、1話あたり14ページ程度、2018年8月30日現在は第63話まで公開されています。

ぼーっと流し読むだけのつもりが、気づいたらのめり込んでた。漫画読むのが遅い私でも、最新話まで2時間くらいで読了。

とても心地よくさらさら読める一方で、いちいち驚かされ、そして心の奥底からあたたまる名作だったので感想をまとめました。将来子どもができたら、幼稚園生くらいのうちに一緒に読みたい。

ぶっちゃけ、ただの「よくある漫画」
最新話まで読んでも、一言でいえば「典型的な少年漫画」ではある。公式の紹介によると、「耳が聞こえず非力な王子が、多くの人と出会い成長していく物語」。

個人的に分解すると、

①主人公:地位あり・能力なし・夢あり・性格よし。黒子っちタイプ
②物語の終着地点:主人公が「世界一立派な王様」になる
③世界観:巨人、影の一族、治癒の魔法などが登場するファンタジー
④画風:初期のドラゴンボール+ちびまる子ちゃん

という感じ。

主人公のボッジ王子は、最強の勇者ボッス王の長男でありながら、子供用の剣すら振れないほど非力で、耳が聞こえず言葉も話せない。そのせいで国民や王に仕える人々、弟のダイダ王子にも馬鹿にされている。

それでも「世界一立派な王様になる」という亡き母との約束を果たすため、友達、臣下、師匠、家族・・・と一緒に、いろんな困難を乗り越えて成長していく。

やたら巨体の王様、「ソードマスター」である主人公の剣の師匠、巨乳の王妃(後妻)、優秀な弟、弟の師匠でヒゲ面の蛇使い・・・これだけでも胸焼けしそう。こういう漫画、何万回も見た(でも好き)。

そして、主人公の友達になるのは暗殺を家業とする「影の一族」。王様の死に際には魔神が現れ、弟は「鏡に住まう何者か」と自らが王になるための策略を練る・・・。冒険モノ、ファンタジーの定番をすべて詰め込んだ感がすごい(大好き)。

ひたすら期待を裏切られる
これだけ「あるある」で外堀を埋めておきながら、「あるある」展開を予想して読み進めるとひたすらに裏切られ続けるのが、この漫画の一番の魅力だと思う。

ネタバレたくないので、どのキャラのことかわからない程度の表現にとどめますが、「こいつ悪い顔してんな~」と思うと、次のエピソードではころっといい人だったり、「こいつは暴君タイプだな~」と思ってると、結構冷静で客観的判断ができる人だったり。

どのキャラクターにも、それぞれの信念、野望、夢、思いがあり、大切なもののために葛藤して、乗り越えて、奮闘している。「なんてひどいことするんだ」と思う場面には必ず「でもその気持ちわかる」がついてくるんだよね。

次第に「自分ではどうにもならない大いなる力」に巻き込まれていくので、今後彼らがどう生きていくのか、どんな道を選択するのか、楽しみな反面、誰にも傷ついてほしくなくて不安もあります。

絵本みたいな絵柄で、ボッジはじめみんな可愛らしいし、ごりごりのファンタジーなのに、あくまでも「運命は変えられない」というか・・・誰かにだけ都合のいいストーリー展開は皆無なんだよね。みんな幸せでいてほしい。

気づいたら、のめり込んでる
設定やストーリー展開はよくあるものなので、さらっと読めるし、読者の関心をキャラクターの人間性に集中させることに成功していると思います。私のように「どうせこういう展開だろう」「こいつ悪役だろう」という目線で見てしまう汚れた大人だからこそ、じんわりと胸に響くものがある。

それから、この作品の圧倒的な「読ませる力」は、作者の「読ませたい」という思いが表出していないからこそ生まれていると感じました。

少年漫画なので珍しくはないけれど、この漫画には情緒トーンもないし、ナレーションは淡泊だし、なにより主人公のモノローグがない。それどころか、耳が聞こえない設定なので「あう」「あーえ」といった表記以外ではまともな台詞もない。彼が生きる無音の世界が丁寧に表現されていて、読者は「主人公の小さな声に耳を澄ます」しかなくなる。

作者の「気合い入れて描きました」感が出過ぎている泣き顔とか、「いいこと言ってるでしょ」感が出すぎている扇情的な台詞とか・・・「作者の熱・思い入れ・がむしゃら感」溢れる誌面というのは、熱血主人公モノにはありがち。これも嫌と言うほど読んできて、それはそれでもちろん好き。でも前のめりで来られると、ちょっと引いちゃうのも事実。

『王様ランキング』は読者の感動をあおる表現をバッサリ排除しているからこそ、キャラクターたちの一つひとつの表情に引き込まれるし、作者の前傾姿勢が誌面に投影されていないからこそ、もっともっと読みたくなる。


ところで、王子の名前の「ボッジ」と「ダイダ」。
どこかで聞いた響きだなと思ったら、
あわせて「ダイダ・ボッジ」→「ダイダラボッジ」かな?

読んでいてなんとなく『ヘラクレス』を思い出したので、個人的なこの作品のテーマソングはこれ。


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