見出し画像

サチコ、神奈川のサウナに行く① 「湯の泉 相模健康センター」

こんにちは。サウナのサチコです。

行って来ましたよ、「湯の泉 相模健康センター」へ。

草加健康センターの姉妹店で、草加と同じラッコちゃんの看板が目印です。関東のサウナーの方ならご存じの通り、こちらは来年1月17日に閉店が決まっています。定期借地権の満了が理由のようです(涙)。

相模には草加と異なる良さがある

とあちこちから聞いていたので、一度は行ってみたいと思っていました。でも自宅からは片道2時間以上かかる。どうしようかな、いつ行こうかなどと迷っているうちに飛び込んで来た、まさかの閉店のお知らせ。

どうしよう。閉まる前に行っておきたい。でも一度も行ったことがないくせに最後だけ行くなんて・・・と「さよなら詣で」反対派のサチコは思いました。が、結局サ欲に負けてしまいました。そして行くと決めたらその日が楽しみで楽しみで...。指折り数えて待っておりました。

12月のある日曜日。

見慣れたラッコちゃんが、私を迎えてくれました。

画像1

40年前のようなセピア感ですみません。私のスマホ(iPhone6)のせいです。一応申し上げておきますが、これは紛れもなく私が訪れた日の、相模健康センターでございます。

中に入ると下足入れは草加と同じシステム。奇数を選べば、脱衣所のロッカーが上段になるというものです。運良くこの日、入店した途端に相模が生んだロウリュウ姉妹に出会いました(血の繋がりはないようですが笑)。もしかして、相模でもロウリュウを体験できるのかと期待してしまう私。でもどこを探しても何時からロウリュウありという看板は見当たらず、サウナ室のそばに書いてあるかもと考えながら、私はそのまま女湯を目指しました。

早くサウナに入りたいと逸る気持ちをおさえつつ、まずは体を清めます。洗い場は草加よりたくさんあり、シャワーの出も強い! 氷のサービスもここでは健在。各自ペットボトルやお風呂グッズを持ち込めるようにと棚があちこちにある配慮も、草加同様で嬉しいかぎり。ふんふんとあたりを見回しながら草加にあってこちらにないもの、あるいはその逆を探しました。

準備完了! 

体についた水滴をタオルで拭き取り、いざサウナへ。

草加のサ室ではサウナハットを被った若い女の子が大半を占めているのですが、ここでは一人二人程度。ほとんどが常連さんとおぼしき高齢の方で、みなさん一番温度の低い床にマットを敷いて座っています。草加とはお客さんの層が違うんだなぁと思いながら、私は空いている上段へ。

温度計は80度を指しています。草加のようなピリピリした熱さはないのですが、なぜか汗がたくさん出ます。体感的には90度に近い。5分ほどして水風呂へ。15、5度。しっかりと冷たい水の中に体を沈めるものの、20数えてギブアップ。そこから外に出て露天の前のととのい椅子で外気浴をしました。右手には草津から運んでいる白濁した温泉、左手には寝湯がありました。

1セット目はととのうまでには至りませんでしたが、何だかとてもいい感じ。草加と似ているけれど、確かに何かが違う。例えば草加のような「埼玉の聖地」というような威厳はここにはありません。草加と同じものが全て揃っているのに、もっと身近な感じ。この感じは一体なんだろう。

草加とばかり比べるのもなんですが、どっちが良いか悪いかではなく、何が違うのかを私は知りたいのです。

2セット目はもう少し長めにと思いながら、再びサ室へ。私の後から入って来たおばあちゃんが、床に敷き詰められたマットのめくれている部分を、一つひとつ丁寧に直しながら奥に入っていきます。几帳面な人なのか、誰かがつまずかないように配慮しているのか、初めて見る優しい光景でした。

たっぷり汗をかいてから水風呂、外気浴へと足を運びます。腕にはしっかりあまみが出て、徐々に足元から膜が張っていくような錯覚に陥ります。ホワーンとした空気に包まれた頃、私はいつも首を少し左に傾けます。すると目の前の景色がゆっくりと歪んで来て、ととのっていることがわかります。

大阪のタテバでととのってから、いつもこのスタイルでととのうようになりました(笑)

このあと3セット目も終えた私は、ようやくお風呂へ。露天から入りました。ここでもおばあちゃんが手すりにつかまりながら、滑らないようにゆっくりとお風呂に入っています。手すりのそばのお湯に浸かりたいようだったので私が少し場所を空けると、黙ってお辞儀をしてくれます。私も返します。いいなぁ、ここの常連さんはマナーがあって、品があって。

一通りのお風呂を楽しんでから脱衣所で服を着て髪を乾かし、食堂に向かおうとしました。ふと横を見ると階段が。そういえば2階には何があるんだろうとのぼってみると、マッサージができる場所やゲームコーナーがありました。漫画もかなりの数が並んでいて読み放題。広い空間にポツリポツリと人が座ったり寝転んだりしています。おばちゃん2人が真っ赤な頬をして、アイスの話をしています。

「どれにする?」「どれでもいいよ」「じゃあ小豆ね」「それは嫌」

どうでもいい会話なんですが、笑ってしまう。

おばちゃんの前を通り過ぎて、私は窓際のマットの上に座ってみました。青い空が見えて、窓いっぱいに差し込むお日様の光に包まれます。思わず深い息が漏れ、そのまま背中のクッションに身を委ねました。

そっかぁ。


ようやくわかりました。

たとえば草加には、女性専用の休憩所があります。暗い室内に立派なリクライニングチェアが並んでいて、一人ひとつずつテレビがついています。静寂の中で一人の世界にこもることができ、誰にも邪魔されることはありません。大人のリラクゼーションルームです。

一方この相模では、人を感じ、自然の光を感じながら、一人になれる明るい空間があります。目を閉じてみると、遠く誰かの声が聞こえてくる。それすら心地よいBGMになります。

落ち着く。

本当に落ち着く。


ここはいいなぁ。眠ってしまいそうな安心感に包まれました。こんなにほっとした気持ちになったのはいつぶりだろう。もう思い出せないくらい前のことのように感じます。

喉が乾いたな。お腹も空いてきた。食堂に行こうかな。沈みかけた体を持ち上げて、一階に戻ることにしました。

この日は日曜日でしたし、閉店間近ということもあり混雑を覚悟でやってきましたが、お風呂もサ室も休憩所も食堂もそれほど混んではいませんでした。さて、何を食べようか。草加でいつか挑戦しようと思っていた、スタミナ肉玉ライスを食べることにしました。


あ、写真撮るの忘れました。

でもなんかそういう雰囲気じゃないんです。奥ではおばあちゃんとその娘らしき人が、一つのうどんを分けあっていたり。さっきお風呂で会ったおばあちゃんも綺麗に白髪を整えて、あったかい麺類を召し上がっていたり。もちろんカップルで楽しそうにしている若い子もいたけど、ここはSNSとは無縁の世界。常連さんの場所です。

さて、出て来た肉玉ライスは・・・にんにくがやばいです。

食べる前からものすごいにんにく臭。どんなものか一応説明しますと、楕円形の小さな銀のお皿に、白いご飯と肉そぼろがのっています(この時点でにんにくの粒が顔を出しています)。さらにその上に半熟の目玉焼きがのっているという、シンプルなもの。

キーマカレーでもないし、そぼろご飯でもない。ガパオライスのようでいて、それもちょっと違います。まずはひとくち。口の中に肉とにんにくが広がります。ふたくち目、肉とにんにくがやっぱり広がります。いや、ずっとずっと肉とにんにくです。ご飯も一緒に食べているはずなのに、なぜか肉とにんにく。肉そぼろの味付けは濃いめで、ご飯に合います。だけどご飯の量には合っていない。肉が多すぎるよー。これをちょうど良いバランスで食べ終える人を私は見てみたい。私は途中から肉8:ご飯2くらいにしましたが、それでも最後に肉が残りました。ライスをおかわりできない胃が小さめの方は、最初から肉7:ご飯3で食べることをオススメします。

お腹いっぱいになってふと横を見ると、バズーカ砲のようなものを持ったロウリュウ姉妹が歩いています。あれはもしや・・・じっと目で追っていたら、姉妹と目が合いました。思わず席を立つ私。姉妹を追いかけました。こういう時の私、何も考えてません(汗)。

殺気を感じてロウリュウ姉妹が立ち止まります。そこをすかさず、

「今からロウリュウですかっ?!」

と尋ねる私。

画像6

姉妹は笑顔で「そうです。でも男性の方に行きます」と答えてくれました。そっか、ここも爆風ロウリュウは男性のみかと落胆している私に、「女性の方はうちわを使っていまして、先ほど扇いできたところです」と更なる爆風が。

がーん。

私が肉そぼろと戦っている間に、サ室では別の戦いが行われていたのか。

「あの、今日はもう、ロウリュウはないのでしょうか」とにんにく臭い息でしつこく尋ねる私。するとロウリュウ姉妹が、

「やりましょうか?」

と言ってくださるではありませんか!!私の目がにんにくの形になります(大きくなったという意味)。

「な、何時からですか!」

「何時からでも。むしろ何時からがいいですか?」

そんなことある? 特別にロウリュウしてくれるって。しかも私の都合に合わせてロウリュウしてくれるって。そんなこと、そんなことあっていいの?

「今、肉玉食べたばかりなので30分後でもいいですか?」と混乱しながら身勝手なことを言う私。ロウリュウ姉妹は「OKです!」と快く引き受けてくださり、そのまま笑顔で男湯に消えて行きました。

はー、マジか。

言ったことのない言葉が、口をついて出ました。

食堂に戻った私は興奮気味。落ち着け落ち着けと、高鳴る心臓と肉玉の入った胃に向かって何度もつぶやきました。15分くらいそこで休憩してから女湯に行き、髪を湯シャンして体も軽く洗ってスタンバイ。一番大事な歯磨きをすることを忘れていましたがもう時間がありません。あと5分くらいかなとそわそわしていたら、ロウリュウ姉妹が現れました。慌てて姉妹にお礼を言ってサ室に入る私。裸で頭にだけタオル巻いた私のこと、さっきの私だと認識できただろうか。匂いでわかったかな。

姉妹がサ室に入り「これからロウリュウします」と言うと、「熱いですか?」と尋ねる人や、「水風呂に入ってからにする」という方や、退室される方などいろいろ。それでも10人くらいはいたでしょうか。ロウリュウ姉妹の(たぶん)お姉さんの方がご挨拶。草加のロウリュウにあるような拍手喝采はなく、若めの人だけがパラパラと拍手しています。あとのご婦人たちはすでに死期を覚悟したような顔で俯いているという、見たことのない光景が。

(たぶん)妹さんの方が、私のすぐ後ろで熱い石に水をかけます。水をかける度に私の左半身だけが燃え上がっていきます。お姉さんがバズーカ砲みたいなものを持って上に溜まった熱い空気を撹拌します。もうこの時点で数人が退室。「温度計は80度ですが体感はもっと熱いと思います」というお姉さんの言葉に、そうだその通りだと頷く私。確かここでお姉さんが「この時点で歯を食いしばっている方は、限界にきていると思ってください」と言ったような。退室を優しく促すそのお姉さんの言葉に素直に従う者もいれば、逆に燃えてしまう私のようなバカもいる。

お姉さん。口から肉玉が飛び出しそうだから口は閉じているけれど、私はまだ歯を食いしばったりしていません。まだいける。いやこれからが本番ですよね。サウナハットすら持っていない本気のサウナーがいることを、今ここで証明いたしましょう(こういう女があとで倒れて迷惑かけるんだと思う)。

大きな赤いうちわがサ室の中を上下し始めました。私は目を閉じました。目や耳から入ってくる余計な情報や、感情を取り除くために。

画像5

きた。


熱い風を体全体に感じて受け止めながら、私はどんどん無になっていきました。

「今みなさんの体に流れている汗は、1時間前にとった水分だと言われています」

お姉さんの声が遠くに聞こえます。

「それでは短いですが、これで終わりにいたします」という言葉にようやく目を開ける私。顔も体もガンガン燃えています。お礼もそこそこに、姉妹の前を通り過ぎて水風呂へ直行しました。そして外気浴。先ほどの3セットとは異なる、大きな波がザッブンザッブン押し寄せてきます。赤いうちわが再び現れて、私に風を送ってくれます。もう目の前で扇いでくださっているのがお姉さんなのか妹さんなのかわからない状態の私。口が半開きのまま、「あひがろう、あひがろう(ありがとう、ありがとう)」と声にならない言葉を繰り返しておりました。

すべてを終えてカランの前に座り、鏡に映る自分を見ていたら、急に泣きたくなりました。なんで泣きたくなるのかわからないけど、そうなりました。でも涙が出ない。そんなときは声を出したくなるので、誰もいないのを確認して、シャワー全開で頭を洗いながら「わー」と小さく叫んでみました。すると、よく分からない水が少しだけまぶたの横を流れていきました。


「今流れている汗は、1時間前の水分です」


ロウリュウ姉妹の言葉を思い出しました。

今、私の目から流れている水は、もしかしたらもっと前に流すはずの涙だったのかな。

ふと、2階の休憩所が頭に浮かびました。クッションに寝転んでいた時、あの時にもしかしたら私は、一番泣きたかったのかもしれません。悲しいとか嬉しいとかそんなんじゃなくて、あったかくて眠ってしまいそうな心から安心できる場所。長いこと忘れていた場所。そこで子どものように泣いてしまいたかった。


いや。

確か1時間前は肉玉ライスを食べてビール飲んでいたな・・・。

それ以上考えるのはやめました。


入泉料(土日、タオルなし)900円

肉玉ライス 858円

小生ビール 462円

自販機の水 160円

合計 2380円


会計を終えてから、カウンターにいたロウリュウ姉妹の(たぶん)妹さんとご挨拶しました。

画像8

「草加でまたお会いできますように」と言ってくださったその言葉が、本当に嬉しかった。でも私は草加での偶然の再会など待たず、きっと自分から会いに行くと思います。それがたとえ厚木健康センターであっても。


玄関には寄せ書きがたくさんありました。

画像2

1回きりしか訪れたことがない私も、僭越ながら書かせていただきました。・・・という割には大きく書いたけど(笑)。

画像3

外に出た頃には辺りは真っ暗で、夜空にラッコちゃんが浮かび上がっていました。その脇には、人のマークのように見える光も。

画像4

ラッコに近い方が常連さん、左斜め下に控えているのが私かな(笑)。


ものごとには必ず終わりがあり、終わらせる側もそれを受け止める側もとてもつらいものだと思います。すべてを諦め捨て去って、すぐに新しい生活を始められる人が、一体どれだけいるのでしょうか。

サウナに一人で行っている人は、何かを抱えている人だと私は勝手に思っています。この相模健康センターをホームにして、一人で通い続けている人もたくさんいたに違いありません。生きていくのがつらくて、でも生きていかねばならなくて。やっと安心できる時間と場所を見つけたのに、それをまた失う悲しみはいかばかりかと思います。

もちろん相模健康センターを支えてきたスタッフの方々も、また新たにお仕事の場を広げていくことは相当大変なことではないでしょうか。

何が言いたいのか、私にもよくわかりません。ただずっと頭の中に、ロウリュウ姉妹の言葉があるんです。

画像9

「今流れている汗は、1時間前のもの」


寂しさや悲しみが、涙となって流れてくるのは閉店してすぐじゃない。もっとずっと後なのではないでしょうか。でもロウリュウ姉妹は確かそのあとに言ってました。「たくさん汗を流した分、また新たにたっぷり水分をとってください」と。

相模健康センターを愛した人たちが、また新たな居場所や勤め先を見つけることができますようにと、願うばかりです。


相模健康センターは私に安らぎを思い出させてくれた、大切な温浴施設となりました。この日出会った方たち、お世話になった方たちに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


もしもできることならば、ロウリュウ姉妹にもこの記事を読んでもらえますように。


サウナのサチコ








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?