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『すみれとミナミ』千葉のサウナ②と東京のサウナ⑤

こんにちは。ずいぶんお久しぶりのサ活投稿。今日はワタクシ、大沼百合子が担当です。サチコに頼まれました。

サウナのサチコは最近お疲れ気味なの。あの人、取捨選択とか優先順位とかつけるのが苦手なのよね。どれも大事に思えてどれも捨てられないから、全部やろうとして結局ダウンする。自分の限界ラインってものがどこにあるのかを知らないの。「しっかりしているように見えて自分がない」って医者に言われたらしいわ。ショックね。夜に文章を書くことも禁じられたんですって。文章を書くとあの人、かなりアドレナリンが出るみたい。書いたあと、興奮して眠れなくなるのね。昨日も気がついたら夜中の3時まで集中して書いてたんですって。ほんとダメね。睡眠の前はもっと穏やかに過ごさないと。基本的にメンタル弱い人って息抜きも下手よね。サチコは「サウナで息抜きしてる」っていうんだけど、私に言わせればサウナは元気な人が行くところよ。スマホの充電でいうと、最低でも40%は残ってないと危険ね。私の肌感覚だけど。

全部仕事を済ませてからサウナに行こうだなんて日々頑張っちゃって、5%くらいになってから慌てて行ってもダメ。サ室に入った途端に充電きれて倒れるわよ。一番怖いのは自分の充電が今どのくらいなのかを知らない人。サチコタイプね。普段から自分をよく知って、今日は40%を切ってるかなと思う日は、一度よく寝てからサウナに行くべきね。

百合子は説教くさいって? 仕方ないのよ、昔の仕事がそうさせてるの。前置きが長くなったわ。今回私がサチコの代わりにチョイスしたサウナは、すみれミナミ。私が昔、スナックで働いていた頃の源氏名と同じなの。あぁ、懐かしい。

先に行ったのは「南柏天然温泉 すみれ」。千葉県よ。

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今年の2月にオープンしたばかりだから、サウナーの間では話題になっていたみたいね。行ったのは3月の半ば。やだ、もうひと月も前の話よ。この日は平日だったのに、お昼から人が多かったわ。しかも老若男女問わず。カップルも結構いたのよ。お風呂の種類は多いし、もちろん綺麗。私が特に気に入ったのは寝湯かしら。サウナはもう、そりゃ熱かった。人の噂なんて信じない主義なんだけど、ここは本当に噂通りに熱かったわ。久しぶりに全身にあまみが出て百合子びっくり。外気浴は露天風呂の前にある寝るタイプのあれね。ここの外気浴、最高。お日様の光が燦々と降り注いで、私の白い肌がさらに白く見えるの。

私がすみれという名で店に出ていたのは、20代の頃。

初めは大きなお店で働いていたのよ。源氏名ももっと派手だった。でもある夜、何回目かの指名をしてくれたお客さんに「自分の店を持たないか」って持ちかけられたの。私はその店でナンバーワンだったし、そういう誘いはこれまでにもあったの。でもいつも断っていた。面倒なことはごめんだから。だけどね。なんていうのかしら、弱いのよ。キチンとしたスーツを着こなしているくせに、靴紐がほどけていることに気づかないような男。その男の靴紐を結び直してやりながら、いつのまにか「いいわ」と返事をしちゃったのよね。

しくったわ。

自分の足元が緩んでいることに気づかないような男は所詮、詰めが甘いの。任された店は立地が悪かった。

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近くに銭湯があってその帰りに寄ってくれた客もいたけれど、その銭湯が潰れてしまってから先はもうダメだった。あん時、靴紐なんか結んでやらなければよかったと後悔したわ。でもその男のことは今でも恨んでなんかいない。ダメな男ほど、優しいから。店が終わる時間になるとよく、お弁当を買ってきてくれた。疲れているから食べたくないと言っても、「若いんだから食べなきゃダメだ」と天丼なんかガッツリしたものを買ってきたりして。自分は食べずに、カウンターで私が食べるのを嬉しそうに見ていたっけ。

はっ。昔を思い出してたらウトウトしちゃったわ。南柏のすみれで外気浴している私の体を、子どもがじっと見てる。あまみに驚いているのね。あなたもあと50年したら、ととのうってどういうことか分かるわ。その前に一つだけいいこと教えてあげる。男に同情は禁物よ。

お昼は食堂で、これをいただきました。

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別に昔の思い出に浸っていたわけじゃないの。偶然よ。サチコが写真も撮ってきてというから一応撮ったけど、何かを記念に残すのって嫌いなのよね。すみれという名は、男が私につけた名前。すみれなんてあまりに小さい花で、私には結局似合わなかったのよ。

入泉料 ¥780

アサヒジョッキ ¥480

ミニ天丼 ¥500

何となくタオルも買っちゃった ¥120

滞在時間 3時間


次に行ったのは「サウナ&カプセルインミナミ」ね。

JR立川駅南口から歩いてすぐのところ。東京都よ。ここも今年グランドオープンして、新しくなったの。立川駅自体は立派でおしゃれなんだけど、このミナミ周辺は水商売系の匂いがプンプンするわね。この街並みが何となく落ち着く自分に、ちょっと腹が立つけど。

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ここは外に小さな受付があって、声をかけると中の下足ロッカーでスリッパに履き替えて戻って来てくださいと言われる変わったシステム。スリッパを突っかけながら受付に戻ると、お兄さんがすまなそうに「今日は昼から女性サウナに工事が入るんです。それでもよろしいでしょうか」と。時計を見たら11時。「お昼って12時頃ですか?」と聞くと「おそらく1時頃だと思うのですが」どっちにしてもせっかく立川まで来たのだから、入るしかないのよね。「それで構いません」と言って、中に入ったわ。エレベーターで上がっている時に自分の足元に気が付いた。

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ちょっとこれはないわね。

ロッカールームの前にはすごいジムが完備されてる。でも誰もいなかったわ。平日のお昼だしね。ちょっとやってみようかと思ったけど、今日はそんな暇はない。ロッカーの中の館内着に着替えてサウナへ。エレベーターの移動が多いのはちょっと大変。でもサウナは最高だった。ずっと独りきりだったの。サ室は94度。ここでも1セット目からあまみが全身に出たわ。たまらず外に出て大きな水風呂に入ると、ここは18度。私はキンキンの水風呂なんて求めない。このくらいでちょうどいいわ。外から鈴の音が聞こえてくる。何の音かしら。ランチの呼び込み? 何処かのお店の自動ドアの開閉時の音?

音で思い出した。

私がミナミという名で店に出ていたのは、30代の頃。

20代で失敗してからはツイてなかった。若い時の苦労は買ってでもしろっていうけど、水商売の失敗は立ち直るのが難しい。最初に働いていたお店でお世話になったママから、申し訳なさそうに紹介されたのは、場末のスナックだった。

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すみれの時の店と似てるって? スナックなんてみんな同じようなつくりなのよ。ミナミという名はそのママがつけてくれた。少しでも南向きの人生でありますようにと。この店はもともとママの友達の店だったの。病気で入院中の間、助けてやってほしいと言われたから、代理ママってところね。ここはビルの2階にあるのに北向きの暗い店で、何となくカビ臭いところが嫌だった。窓や扉を開けて換気していると、どこからか風鈴の音が聞こえてくるの。ビル風が吹き抜けるところに誰が風鈴なんか。うるさくてたまらない。何度もその音をたどって探してみたけれど、どこで鳴っているのかどうしても見つからなかった。ほんと迷惑。

でもある日、その風鈴の音がパタリとしなくなった。ほっとする反面、それはそれで気になって。誰かが取り外したのかしら。

そしたら急に店の電話が鳴った。ママからだったわ。もうその店はたたむことにしたからと突然言われた。そこそこ新しいお客も付いて来たところだったのに、どうして。ママはただ、声を詰まらせて「ごめんね」と言うだけだった。そして「店の裏手に古い風鈴がぶら下がっているから、あとで私のお店に持って来てくれる?」と。

風鈴? 慌てて裏に回ったら汚い風鈴が一つ、下に落ちて転がっていた。紐が磨耗して切れていた。この風鈴はママの友達、つまりこの店の本当のママが、自分が入院する前にそっとぶら下げて行ったらしい。とりわけ高い音のする風鈴をつけたのは、店が今日も営業しているかどうかを知りたかったから? 窓やドアを開けるたびに吹き抜ける風。そのたびに鳴る風鈴の音が、病院まで届くはずもないのに。元ママの棺桶には、その風鈴も入れられたみたい。

そもそも北向きの店なのに、ミナミって名前はどうかと思う。

サウナ&カプセルインミナミで、私は3セットを堪能した。独りきりで生きていることを感じながら。食事もちゃんといただきました。

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食べている最中に工事の人がやって来たわ。グッドタイミング。帰りに受付でお兄さんが、「今日は申し訳ありませんでした」と割引券をくれたの。

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遠いんだけど、もう一度来ようかな。このミナミは日の当たるミナミ。立川駅に向かって歩く頃には、その音はもう聞こえなくなってました。

サウナ(ジムも使えます) ¥1650(グランドオープン価格)

牛カルビ ¥700

缶ビール ¥550

滞在時間 2時間半


次はサチコが復活すると思うわ。

いい天気。大沼百合子は今日も元気です。


※大沼百合子の過去はフィクションですが、カプセルインミナミの水風呂で鈴の音が聞こえたのは本当のことです。





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