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妹の部屋②

妹が死んでから半年が経った。

私たちは子どもの頃から決して仲が良い姉妹ではなかった。それを証拠に妹と最後に会ったのは5年以上前だ。

それなのに未だにふと妹の事を思い出し、涙が止まらなくなる。そして時々、気持ちの整理がつかなくなって夫に話を聞いてもらっている。自身も幼い頃に病気でお母さんを亡くした彼は、嫌な顔ひとつせず真剣に私の話を聞いてくれる。とても有り難い存在だ。

先日、そんな私を見兼たある方に「妹さんに手紙を書いてみるといいですよ」と言われた。気持ちが届いて手紙とは別のかたちで返事が来る事があるというのだ。

手紙を書きたいと思う気持ちはあるものの、中々、筆が進まない。ただ、私は『気持ちが届く』と言われて、ある事を思い出した。

私は、妹が亡くなった後に住んでいたマンションで書類整理をしていた時、未開封の封筒を見つけた。差出人は産業編集センターという出版社で『ねこほぐし』という本が入っていた。懸賞で当たったのかな?そう思ってページをめくると、妹と妹の猫(今は我が家の猫)宛の手紙が挟んであった。

『この度は取材にご協力をいただきありがとうございました』

編集者さんからの手紙だった。そして、手紙が挟んであったページには、著者である獣医さんに『猫ほぐし』をされて、気持ちよさそうにしている妹の猫(今は我が家の猫、2回目)の写真が載っていていた。当時まだ、私たち夫婦には見せたことのないとても穏やかな表情だった。

それにしても何故、妹は封筒を開けなかったのだろう?そんな疑問を抱きつつ、自宅に戻る電車の中で著者の動物病院のホームページを検索すると妹が書いたと思われる口コミを見つけた。

『にゃんこを大切にされてる方に絶対オススメできるサロンだと思います!』

コメントの内容と残された本から『自分が信頼できるトリマーさんに愛猫を(トリミングに)預けて欲しい』という妹からの強いメッセージを感じた。何故なら、遺品整理の業者さんには『貴重品(写真と手紙を含む)以外は全て捨てて欲しい』と依頼をしていたからだ。もしも、妹が封筒から本を出していたら捨てられてしまい、私が手にする事はなかった。つまり、そのサロンには絶対に辿り着けなかったのだ(実際問題、猫のトリミングサロンが近所で見つからず、困っていたのでとても助かった!)。

そしてトリミング当日、トリマーさんにある事を言われて、私は妹からの『気持ちをしっかりと受け取った』と確信した。

「妹さんも今日、来るはずだったんですよ」

愛猫を残して独りで死んで行く時、どんなに苦しく、悲しかった事か。気づいてあげられなくてごめんね。この子は私たち夫婦と愛犬のマイロが全力で幸せにするから安心してね。そう思った瞬間だった。

やはり、次は私が妹に手紙を書く番のようだ。


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