見出し画像

バイクツーリング 群馬 榛名 その5


交差点を過ぎ、道幅が狭くなった。

前は少し先の路地を右に曲がっていたが
バイクを買いに行く間に何度か通ったおかげで
直進すると少し先まで
裏道で進めることを知っていた。


一本道を進む。

道なりに走る。
右からの道に合流する。

もうすぐ曲がるところだ。
信号上の交差点名を確認する。

間違いない。右に曲がる。
少し走ると突き当たる。ここを左に。

細い川沿いに走る。
古民家がある公園を過ぎる。


風情があるな。


一度、停まってみたいと思いながら
いつも通り過ぎる。


バイクを見に行った時
迷子になってこの先のコンビニで停まった。

懐かしい。

今は何度か通って前より近く感じる。
一度通ると近く感じるのはなぜなんだろう。



今日は一つ手前の信号を右折する。
川を渡り、住宅街に入る。

上り坂を走る。
排気音が響かないようにギアを上げる。

上げすぎると上る力が無くなるので
ギアの位置は案外難しい。

そうは言っても
そこは4ストロークエンジン。

初めて乗ったRZ250は
カーブの上り坂でアクセルを開けたら
プスっと力尽きてそのまま倒れた。

CBR250はそんなことはない。
多分6速でも坂道を上れるだろう。



マフラーを変えた相棒は
住宅街では響く音を立てそうで
そおっとアクセルを開けて
静かに息を潜めて通り過ぎる。

上り切ったら左へ。
前に来た時は直進してしまったから…

間違えずに左折する。

曲がっても住宅街が続く。
車はあまり通らない。

朝早いこともあり
わたしとバイクだけが
静けさをかき消すような音を立て
まだ寝ているかもしれない
まちの中を走っていた。



信号が見えてきた。
ここで住宅街が終わる。

目の前は橋だ。
下は道路。高速道路じゃないかな。

信号が青になり
道路の上を通過する。

下は車がそれなりに走っていて
今いる道とは明らかに違う速度で
車が左右に動いていく。

車の上を走る不思議さを感じながら
橋を渡り終え
木々の中へと進んで行った。



ここも気に入っている道。
両側に木が立ち並んでいる。

両側は二つの公園に挟まれているらしい。
名前が違うので、わかった。

一つは砧公園。
大きな公園で環八にも面している。

しばらく木立の中を進む。
夏はヒンヤリして涼しいだろう。

公園を抜け
NHKと書いた建物の前にぶつかる。

ここを右に。
広くなった道を下る。

道なりに進むと環八だ。



環八を左折。
ここからは車の流れ次第だ。


あれ?目の前の車に見覚えがある。
さっき、駅の交差点で右折した車だ。

黄色い外車なので覚えていた。
向こうは一つ目の交差点で環八に入り
ここまで走ってきたんだろう。


こんなふうにどちらが早いのか?を
知ることはなかなかできない。

偶然横を走っていた車と
またその先で出会う。

そんな偶然と
覚えていられるくらい記憶に残る車に
出会うことはなかなかない。


そっか。今日の環八は空いてるんだ。
裏道は使わなくてもいいかもしれないな。


前は、どこで混んでも
逃げられる裏道を熟知していた。

だいぶ忘れてしまった。
記憶に頼るしかない。


バイクを見に行った時は
記憶に頼ったら全く当てにならなくて
何度も停まって地図を見た。

その時は車で行ったから
停めてゆっくり見られたけど
今はバイクだからあまり余裕はない。



環八はなるべく左を走る。
左車線が一番流れるからだ。

左端にはリスクがある。
路地から車が出てきたり
曲がるために前の車が減速したりする。

そのやり取りが面倒なのだが
みんなも面倒だからか車が少ない。

そして、しばらく走ると
左端は側道にかわってしまって
陸橋を渡れなくなる。

多分、これが一番敬遠される理由だ。


大きな交差点で
中央から二車線だけ陸橋になる。

それが何度かある。

その度に、左端の車線にいる者は
右の車線に割り込まねばならない。

それが厄介だから左端は走らないのだろう。



わたしは昔よく走ったおかげで
環八の周りの景色を覚えている。

この風景になったら
近く陸橋になるってことを知ってる。

だから、陸橋の時だけ右車線に移り
陸橋が終わるとまた左端を走った。


左端のメリットはもう一つある。

陸橋は混む。
混んだ時、陸橋を渡らずに
側道から裏道に入る。

そうやってよく裏道に抜けていた。
実際はどちらが速いかわからない。

でもさっきみたいに
ほんとに偶然同じ車に出会えたら
どちらが早いかよくわかる。

今日は環八で大丈夫だね。


本当に空いている。元旦の朝みたい。


左端を走る必要もない。

滅多に走らない右車線に移り
左の車を抜く。

3車線で道が広がっている。
いつもは車だらけなのに。

こんなに空いた環八は初めてだ。
何十回も通った昔を思い出す。

あの頃でもこんなに空いたことはない。

異世界に紛れ込んでしまったかのような
不思議な感覚を覚えながら走る。


陸橋だ。

加速しながら上り坂を走ったら
空に近づいていくようだった。

てっぺんでフワッと浮いたような気がした。

下り坂。
浮遊感が増して鳥になったようだった。

滑空する鳥のよう。
ふわっと地面に降り立つ。


直線が続く。
相変わらず車は少ない。

駅の下を走り、何度か高架をくぐる。

そして長いトンネル。

昔、ここにトンネルはなかった。
その頃から作り始めていた気がする。

何本か交差する道が続くので
全部くぐり抜けてしまうトンネル。


ここでこの前、渋滞にはまって
トンネル内にしばらくいた。

それが怖かった。

だから、トンネルには入らず
左側の側道に出た。


側道は信号が続き、何度も停まる。
停まるけれども、空が見える。

外気に触れている。
そのことにとても安堵する。


信号に何度か停まって
少し遅くなったっていい。

生ぬるい排気ガスに包まれているより
こうして空を見ながら
思いっきり冷たい空気を吸える方が
よっぽど幸せだ。


信号で停まり、空を見上げる。
空が青い。

透き通っている。
空に吸い込まれそうだ。


トンネルの上には
街路樹が植えられていて
無機質な感じを隠し
都会の中に温かい雰囲気を醸し出していた。


ここ、いい感じだな。


思いがけず、気持ちのいい道に出会い
都会なのに…と嬉しくなる。



さぁ。そろそろトンネルも終わりだ。

トンネルからどんどん車が出てくる。
一気に車に囲まれてしまった。

左しか逃げ場がない。
すぐに道が分かれ、谷原方面に向かう。

谷原までは2車線だ。
みんな関越自動車道に向かっている。

ここから先の裏道を思い出せない。


昔、関越の高架入り口に出る
裏道を通っていたのになぁ。

あの道はどこから入ったっけ?


記憶がつながらない。
さすがにここでは停まれない。

仕方なく車の流れに合わせて走る。
道幅が狭く、すり抜けもできない。

右が動けば右車線に
左が動けば左車線に

申し訳ないけど2車線の中央を走る。
どちらかが動いた分だけ先に進んだ。


最後に関越に向かって側道が現れる。
本当は左車線に並んでいないといけないのだが
ごめんなさいをして
右車線から側道に割り込む。

とても申し訳ないと思っていたのに
最後、左折が二車線になっていた。


隣にバイクがいた。


このバイクはずっと車の列に
並んでここまで来たんだろうか。


すり抜けすり抜け、ここまで来たわたしは
なんだか少し恥ずかしくなってしまった。


バイクだからって甘えていないか?
女だからって?


そんなことを自分に問うていたら
信号が青になり、隣のバイクが発進した。

わたしもバイクを発進させ、左折する。
行きがかり上、左折後は右車線になる。

左に避けることができないまま
隣にいたバイクの後を追いかける。


こんな時にいつも
マスツーリングのことを思い出す。

誰かの後ろを走る。
その安心感と一緒に走っている楽しさを。



さっき通りたかった
裏道から来たはずの交差点に来る。

信号で停まり
記憶を一生懸命たどるが思い出せない。


どうやってここから出てきたんだろう。


信号が青になる。
ここから高架だ。高速道路に乗る。

前のバイクは馬力があって
高架に上がる上り坂であっという間に
遠ざかって行った。


また一人。
地面から離れて両側に壁のある道を走る。


車はみな同じ方向に流れていく。
その流れにわたしも吸い込まれていった。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?