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九州ツーリング その2 中央道


色んな不安を抱えながら
走り出した。

九州ツーリングと言いながら
長野に向かっている。

明るくなった街の中を走るのは
少し恥ずかしい。

わたしのバイクのことを
知っている人なんていないのに。

荷物を縛っている間に
焦りと緊張で汗をかいてきていたが
走り出すとスッと消えていく。

風はほとんどない。
雲がどんよりと空を覆っている。

さっき、雨がぱらついてきたから
ジャケットの上にかっぱを着た。

これだけ着ても暑くない。
朝は一番冷える時間帯なんだ。


街中から高速に入る。

ポジションが悪い。

座る位置が前過ぎるし
背中はリュックのせいで反っている。

『リュックは無しですね』

一緒に買いに行ってくれた人が
そう言っていたことを思い出す。

言うことを聞いて
リュックは背負わずに来ればよかったか。

いや。
リュックなしではやっていけないはず。

道中、荷物が増えたり減ったりする
いつものツーリングを思い出す。

今は増えた時、入れるスペースがない。

荷物を減らすしかないな。

長野から旅立つ時に
家族に託して持って帰ってもらうものは
何にしようか。

道中、そのことを考えながら
走ることになった。


高速に乗る。
乗る前から気づいていたが
激しい渋滞だ。

これがしばらく続くのかと思うと
うんざりする。

少しでも早く渋滞を抜けられるように
初めからすり抜けしていく。

平日の月曜日。
通勤の車が列をなしている。

車線変更に巻き込まれないよう
細心の注意を払いながら
車と車の間、白線の上を走る。

昔は路肩走行をしていたけれど…
今は走ると捕まるらしい。

車の間を走る方が危ないと思うけど。

そう思いながら
ずっと続く渋滞を
一台、また一台とすり抜けていった。


ようやく渋滞を抜けると
すぐに海老名の文字が見える。

海老名サービスエリア。
まずは、一つ目の休憩場所。

出る時、息子にLINEしていた。
既読になっていない。

朝、気まずかった娘にLINEしてみる。
すぐに既読にはならない。

寝てるのかな?

空はまだどんよりと暗い。
どこかで雨が降ってくるのかと思うと
カッパを脱げない。

風は冷たい。
気温的にはカッパがあっても
ちょうどよいくらいだ。

灰色の濃淡を見つめる。
雲の厚さが異なる場所を見つける。

天気の境目か


雨が降ってくるのかもしれない。

スイートポテトを食べて
とにかく出発した。


腕が痛い。
肘の近くの外側が痛い。

つりかけているようだ。

こんな場所、なぜ?

わからないが、痛いので
左手で痛む箇所を指で押しながら走る。

片手運転だが、仕方ない。

走ってて右腕がつったことはない。
何かがおかしい。

アクセルをひねると右腕がつるので
左手の指で押しながら走る。

右手の何がおかしいのか。

アクセルを少し多めに開けて
加速させておきながら
その間に右手を離し
バイクが減速してしまうまで
右手の力を抜いて筋肉を弛緩させる。

そうやっても
遅くなったバイクをまた走らせるために
アクセルを握ると

つった箇所はまた
筋肉がかたくなって痛み出す。

ここでこの状態では
九州になんかとても行けない。

途方に暮れる。
でも、家族に追いつかなければならない。

とにかく次の休憩予定地
釈迦堂パーキングエリアを目指した。


釈迦堂パーキングエリアの前
金沢の帰りに停まった
談合坂サービスエリアが近づいてきた。

休みたい。

さらに遅れるのはわかっていたが
意を決して本線から外れる。

駐輪場に停めた。

山の上に雲が乗っている。


さっきからあまり立っていないのに
寒くてお手洗いに行きたい。

寒いのかな?今日は。

トイレから出て
温かいものを探しに行く。

前よりもお店に入るのに
ためらいが無くなった。

ようやく、人前で自分の姿をさらすことに
慣れてきたようだ。


うどんが食べたい。

フードコートで
うどんの絵に引っかかってしまった。

とりあえず机にヘルメットを置き
LINEを見る。

40分前に「釈迦堂にいるよ」と
コメントが入っている。

まだ、釈迦堂で待っているのか?

電話をしてみる。

今、談合坂にいること
寒くてうどんが食べたいこと

まだ待っているつもりか聞くと
釈迦堂には何もないから
そこで食べた方がいいとのこと。

ありがたく、ここで食べることにする。

目の前の牛すじうどんが食べたかったのに
まだ仕込み前だったらしく
きつねそばを食べて席を立った。


次はどこに停まろうか。

談合坂を出て、高速を走りながら
次の休憩場所を考える。

相模湖あたりで雨がぱらついてきた。

藤野を通過。
山の中腹の大きなお手紙を確認する。

神奈川県立藤野芸術の家。
このお手紙が好き。少し体が温まる。


右手全体がだるい。

山道に入ってきたので
アクセルの開け閉めや
体重の移動などで気は紛れる。

笹子トンネルを抜けたら
空が明るい!雲が薄くなっている。

直線でストレッチをしたり
左手で右腕をもんだりしながら
山梨県に入った。


やっぱり釈迦堂に停まろう。

さっきから30分も経っていないが
一度停まってみたかった好奇心と
右手の疲れを癒すためパーキングに入った。

談合坂で買ったあんぱんを食べる。

大きい!美味しい♪ 元気が出た。


展望台に登ってみた。

下でバイクが待ってくれている


空を見上げると雲が薄くなっている。
青空が少し顔をのぞかせている。

暖かい。

気温が上がったことを感じる。
桜も土手の黄色い花も満開だ。

遺跡博物館があった


右手の異変について
走りながらずっと考えていた。

前と違うところ。
考えられるのは座るポジションだ。

荷物を積み直すことにした。
なるべく後ろに詰めるよう工夫する。

カッパも脱いだ。

空の明るさで
この後、雨は降らないと判断した。

カッパは風でバタついて
腕を後方に押しやろうとする。

その風圧に
腕が疲れてしまったのかもしれない
と考えたからだ。

背中のリュックの肩紐を
お互いに結ぶのをやめた。

少しリュックをフリーにしてみた。

またがってみると明らかに違う。
お尻が後ろに行く!腕が伸ばせる。

リュックが後ろの荷物の上に乗った!
これなら背中を丸めることもできる。


釈迦堂を出て走り出すと
すぐにわかった。

やっぱりそうだ!このせいだったんだ!!

いつものポジションに戻った。
右腕がとても楽になった。


ポジションが落ち着いて
視界が開けた。

ようやく周りを見る余裕ができたみたい。

桃色の花が目に飛び込んできた。

高速道路の両側が
桃色の花をつけた木々で埋め尽くされている。

桃の花か?

桜とは明らかに違う花々を目にして
その数と色の鮮やかさに圧倒される。

嬉しさで体温が上がる。

桃色に染まった土地を見つめながら

桃源郷

という言葉がふと湧いた。

笛吹。
地名を頭に刻みながら
この時期、ここを通ったことを
心から幸せに思った。


甲府盆地が好きだ。
ここの区間は大気が暖かい。

他より何度かは、高い空気に包まれている。

金沢の帰りに、雨で冷え切った体を
包み込むように温めてくれた大気を思い出す。

今もまた
冷えた体を包み込んでくれているこの空気。

筋肉が弛緩して
お風呂に入った時のように
全身に血が巡り始める。

ポジションも楽になり
体も温かくなり
文字通り生き返った気分で
高速を飛ばす。

カッパのバタつきがないと
こんなに腕が楽なんだ。

性能の良くなったジャケットは
風に当たってもなびかない。

体にフィットして
風を切り裂いてくれる。


これならどこまでも走れそうだ。


スピードを上げて走る車について
快適に飛ばして走った。





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