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シングルマザーのクッキー屋の話【仕事とわたしのこと⑥】

退社を決めてからの2年間、会社では今まで好き放題広げた風呂敷を、後任に渡せるように全てのことをデータ化していく作業をした。PCを見ればとにかくなんでもわかるように数字にして表にしてグラフにしてリスト化した。
普段の仕事と平行してやったので、2年かかった。

同時に自分のこれからのことについても考えた。
将来のことを考えるとき、ケーキ屋さんで働くパティシエのひとたちは「自分のお店を開きたい」という目標を持っていることが多い。入社の面接でもうすでにそう言っている人も多い。
わたしはいつもそれがわからなかったので「お菓子を作ることと、お菓子屋さんを開くことは別の能力が必要だと思うのだけど、お菓子を作りたいだけでどうしてお店を持ちたいと思うの?」と質問するが、みんなキョトンとしてしまう。
おいしいお菓子を作れるようになって、借金してお店を構えて、それで?その後は?と本気でわからなかったのだけど、あまり理解してもらえなかった。

ケーキ屋さんの仕事は朝から晩まで立ち仕事のうえ、原価率が高く作業も細かく時間がかかり、賞味期限が1〜2日のため、朝から苦労して作っても売れなければ捨てなければならない。冷凍庫冷蔵庫ショーケースなどの設備、それを置けるだけの場所と初期投資にとてもお金がかかる。要するに儲からない。
もちろん人気店や立地の善し悪しにもよるけれど、わたしのような素人がザッと考えても苦労しか見えない。本当に大変な仕事だと思う。

わたしが働いていた某チョコレートショップは、チョコレートだけでなくケーキ、パン、焼き菓子、マカロン、アイス、ジャム、製菓材料販売にカフェもあり、なんでもあることが強みだった。
そこでその全ての種類の製造の数量や人数、方法、販売時期や金額を見てきたことが、とても価値のあることだとわかっていたので、わたしがこの先選ぶ仕事はお菓子から離れるのはもったいないなと思った。

そこで考えた末に残ったことは、まず、わたしがお菓子を作れないけれど、体力勝負の仕事がしんどくて辞めていった女の子たちがたくさんいるのを知っていたことから「むずかしい技術が必要ないこと」「長時間働かなくてもいいこと」。
そして販売の傾向からわかったのは、とにかく日本人は食べものを人にあげるということ。バレンタインもお中元やお歳暮も何かのお礼もお詫びにも使われる。家でケーキを食べる回数よりずっと多いことから「ギフトになるもの」「日持ちがする賞味期限が長いもの」。
それから有名でも何でもない人の作ったお菓子を買うのに必要なのは「写真うつりがいいこと」「見た目がかわいいこと」。

こうして、どちらかというと消去法で決めたのが「アイシングクッキー屋さん」だった。
その当時、わたしはアイシングクッキーを作ったことはなかった。


長くなってきたので・・・初回はこちらです。

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