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シングルマザーのクッキー屋の話【仕事とわたしのこと①】

中学2年生のときに「将来の夢」についての作文を書くという課題があった。

小さい頃から「大きくなったら何になりたいの?」と大人に尋ねられたとき他のこどもたちがお花屋さんとかお嫁さんとか野球選手とか何かしら答えることができるのを、本当にそう思っているのではなくて大人へのリップサービス的な 子供たるものこうでしょ を演じているのだと思っていた私は、14歳になってまだ演じることを望まれるのかと驚いたが、今後の進路が、などどうやら先生が本気で「将来」と言っていることに気がつき本当に驚いた。

生まれて14年間、世の中にどんな仕事があるのか その仕事に就くために何が必要かだれにも一度も教えてもらったことがなかったのに、仮にも選べと言われ、それを書いて見せろと言われている。
ムリムリ。

頑に書かない私に先生は「そんなに難しく考えずに現時点で思うことを書け」と言い、私は「書くことには力があるから、本当に思っていないことは書きたくない」と言った。
最後はどんな形でもいいから提出しろというのに従って、将来についての選択肢をどれだけ知らないかを書き、絞り出した本音で「いい大人になりたい」と書いた。

振り返ってみてもいわゆるパーフェクトな中2病なのだけれど、その病は治ることなくその後もわたしの中に潜伏していて、近いからという理由で選んだ公立高校でも仕事について教えてもらうことはなく、受験勉強したくないという理由で選んだ専門学校についても仕事への距離を詰めつつどれだけ選択の幅を狭めているのか何もわからずにいた。
バカバカ。

ただ、その何も知らないのだということをどのタイミングでも誰も教えてくれなかったことに他のみんなはどう納得しているんだろうと不思議に思っていた。
そして数少ない選択肢の中からなんとなく得意で好きそうな製菓の専門学校へと入学した。

するとその学校には全国のお菓子づくり大好きっ子や実家がお菓子屋さんの息子や娘で溢れていて、入学後数ヶ月で「なんとなく得意で好きそう」だという動機は弱すぎて見えなくなり、さらに負けん気のない私は「そんなに好きならこの人たちがやればいいや」と即土俵から降りた。

そんな矢先に父が脳梗塞で倒れた。


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桜林 直子(サクちゃん)
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