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恋人はフンフフー本当はフンフフー

みんなーシャチホコ自治区の郵便局に立派なクリスマスツリーが建立されたよ!
通勤ルートというダンジョンに、イベントが一つ増えた恰好である。シャチホコ駅構内にはセーブポイントや回復ポイントが多く、その最たるものが金時計だ(メッキだよ)。

金時計の下には新人プレイヤーが多く集っており、キラキラとした印象だ。対照的に新幹線改札の近くに建てられた銀時計の下には、スーツを着たプレーヤーたちが足をとめ、寄せては返す現実と戦っている。
ふたつの時計は、来る日も来る日も阿吽像のように、シャチホコ自治区を見守っている。

今、このクリスマスツリーの前に若い男女が立ち止まった。あーあー、言わんこっちゃない。渋滞発生!ぎゃーてーぎゃーてー。

フワフワとした薄紅色のコートをまとった女性は、聳える木を見上げた。それから、くるくるとゆっくり2回ほど回転してみせた。そして「目が回っちゃった」といった様子で、ゆっくりと、だが確実に隣にいた男をしとめた。もとい、抱きついた。
男性は「危ないよ♡」と言って、抱きしめる。
これだから。
これだから、だ。

ねらいを定め、一気に捕らえる。
その双眸に宿った蛇を思わせる光に彼は気づかない。
危ないのは女性か。そんなことがあり得ようか(いや、あるはずがない)。

カッチンカッチン。
心にウインカーと、ハザードを灯し、そそくさと、迂回ルートをとる。
「クリスマスツリーなんか、あまねく命を温める薪にしてやる」
心に浮かんだ無粋な考えを取り繕うように

あのコート、生まれたてのシャンシャンに似ていたな(*´з`)

と独り言ちて、その場を後にした。

『花さき山』という絵本を知っていますか。

その本の世界だと、自分のことより人のことを思って、涙をいっぱいためて辛抱すると、その優しさとけなげさが、花になって咲く」のだ。

するってえと、あれだな。
私の足元には、今、花が咲き乱れているってわけだ。
おあとがよろしいようで。

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