言語獲得


緩やかな上り坂を、まるで登山をするように強く一歩一歩踏みしめながら私は歩いていた。厚底のスニーカーを、そこまで強くアスファルトにめり込ませなければならないのには、明確な理由があった。

「ごめんね、」
いつもそれだけが聴こえてくる。わかっている。その前にも、きっと後ろにも、言葉にならない思考が永遠と続いていて、本当はそれを伝えたいこと。そのごめんねは、半分は私に、半分は自分のためな事も。
私は何も言葉にできないから、ただ言葉を心に流している。そうすると心は、何も話していないのに満足気に今日を終えようとしてくれるから。
あの人は、時々私をヒトリにする。この人たちは決して私を見ないけど、私をヒトリにしないでくれる。私はタダのクダになる。

足元を眺める私の瞳には、結局何も映っていない。いつか見たような映像を、何度も何度も何度も何度も繰り返すだけだ。濁った気持ちはどんどん私をヒトリにする。消えてしまわないように。私は、厚底のスニーカーをもっと強くめり込ませる。

そうして私はクダになる。

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