farewell

「嘘も方便」?というお話。90年代に中国からアメリカへ移住した家族の、一人娘の視点から描かれたストーリーである。欧米や日本では、癌は告知するのが一般的だが中国ではギリギリまで告知しない事が一般的だそうだ。一族の家長たる中国在住の祖母が癌で余命幾ばくも無いと宣告を受け、家族皆んなで最後のお別れに集まる為に、従兄弟の結婚式だとウソをついて集まるわけだ。但し、主人公は感情をストレートに顔に出す為、祖母にウソがバレるからウソ結婚式には参加させてもらえない筈だった。ところが、最後になるかもしれないからと、祖母に会う為中国に強引に帰国?する。

大好きな祖母を思う孫の気持ちや、実母を一人残したまま移住した息子達の母への申し訳なさ、姑と嫁(主人公の母)とのちょっとめんどうな気持ちのすれ違い、丁寧に描かれていて、ほろっとしたり、クスクス笑ったりしながら楽しめた。祖母の主治医はイギリスに留学していて、主人公とも英語で会話する人だけど、自分の祖母にはやはり癌の告知はしなかったと語り、西洋と東洋の文明の違いは心の深いところにあるのだなと感じた。私自身は母を癌で亡くしたが、告知した。母の性格や今後の経過も考えた上での告知だったが、全く思っていたのとは違う反応だった。母を薄々自分が癌だと気づいているんじゃないかと思っていたけれど、全く気づいていなかった。「え?何か言ってる意味がわからないんですけど?私が癌ですって?」というのが母の反応だった。自分の生命に関わる話では、いつもとは違う反応をすることがあることは胸に刻んだ。

本筋とはちょっと離れているけれど、移住することで、親戚や地域社会との繋がりを絶って家族だけて新しい世界での暮らしを始める厳しさ、この30年に渡る中国社会の変化の大きさ等が非常に印象深かった。わたし自身は1年くらい海外で生活してみたいなぁと夢想することはあっても、何処か海外に移住することは考えたことも無かった。主人公は両親に連れられて6歳で移住し、「言葉は違うし、親戚も誰もいないし、ひとりぼっちだった」という言葉に、「今までのコミュニティを断ち切った」という深い喪失感を持ったんだなぁと、自分の意志では無く連れてこられた子供の心情として興味深かった。

今、仕事で乳児院や児童養護施設にお邪魔することがある。施設の職員の方は皆さんとても献身的に、志高く取り組んでおられる。ただ、施設で暮らす子供達の周りにいる大人は、ほぼ学校の先生か、施設の職員さんだけであり(親との面会が望めない子供達は特に)、社会性という意味で特殊な環境にあるなぁと改めて思った。人が暮らすコミュニテイについても考えた。

最後にちょっとサプライズもあり、見終わった後もじんわり味わい深い映画でした。

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