突然奪われた日常 - 前編(1/4)

2020年クリスマスを終えた頃、コロナで世間が騒いでいる最中私は発熱した。年末の疲れのような自分としては良くある眼精疲労から来る微熱である。念のため自室からあまり出ず、早めの就寝をした結果、翌日には平熱に戻りコロナを疑うことなく、仕事もした。

一方、妻の職場は老人介護施設であったため、念のため職場に夫(私)の発熱を報告した。職場からは妻に抗原検査、PCR検査を受けるよう即時指示が出た。妻はPCR検査を受け、翌日結果が出ることになっていた。
PCR検査の結果は陰性、当然である。結果を知った私たち家族は、近くのショッピングモールに息抜きがてらランチを食べるために出掛けた。

妻がラーメンを頼み先に出来上がったため、私や子供たちが席につくのを待ってる頃、スマホをみて何やら顔をしかめていた。私が席につくと、独り言のように文句を言ってラーメンには一切口をつけず「食べる気が失せた。ちょっと電話してくる。」と喧嘩腰な口調で席を立った。妻はショッピングモールの非常階段で上司と話をしているようで、顔は泣いていた。子供達と30分ほど時間を潰してた頃、妻と合流した。どうやら職場からは「ご主人(私)にもPCR検査を受けさせてください。」と指示があったらしい。なぜこれをそこまで怒ったのかはわからないが、このやりとりこそが、地獄絵図さながらな日常へのトリガーとなってしまった。

妻と話をして、少しだけ子供達が遊びたいというので併設してるゲームセンターに寄って帰ろうということになった。自宅に帰り普通に過ごし、いつも通り夕飯を家族で食べた。
その夜、妻は眠れず朝の5時半まで付き合って愚痴を聞いていた。ほぼ一睡もせず翌日朝から職場の上司と話し合いをすると妻は8時半頃には出掛けていった。
すると出先からLINE電話が入り気づかずLINEメッセで「どうした?」と折り返すと、「もう一度チャンスがほしい。ダメなら家庭に入る。自分は働きたい。」と。私は「自分のことだから自分で決めたらいいよ。」と返事し、妻も納得したようだった。

妻はその後、会社の委託医のクリニックを受診すると、さらに出掛けて行き、その予約時間まで「パチンコで気晴らししてきていい?」と聞かれたので私はOKした。結局そのクリニックから整腸剤や抑肝散(漢方薬)をもらって帰ってきた。
私はその日、会社部下の1人と地元で慰労会をやることになっていたので、妻の帰宅を待たずに出掛け、22時頃帰宅した。
帰宅すると、妻が眠れないと起きてきて少し話をして風呂に入って寝室へ上がった。ただ、そこからもLINEでのやりとりは続き、自分はうつ病だから声掛けの仕方とか、プレッシャーはかけるな!褒めろ、と。私も当然無知なので間違ったコミュニケーションをしてしまったのかもしれないが、不眠症状が出ている以上、カウンセリングなどの心療内科の受診を進めたことで興奮し始め、「私は正常だ!」「精神科でヤク漬けにしたいのか!永遠の眠りにつかせたいのか!」「愛が欲しいんだ!」と、結局翌朝の7時まで壁越しにLINEでやりとりを続けることになった。

妻はそのまま再度委託医のクリニックへ行き睡眠導入剤を処方してもらってきた。そのまま美容院で散髪、髪の色を染めたとLINEで自撮り写真を送ってきた。これまでこういうことはしない妻だっただけに、すでに恐怖めいたものを感じていた。その日妻は、娘と母親とランチに行き、夕方帰宅した。
私は日中、クリニックに電話し院長先生と話をして症状などどうか聞いたが、一時的なストレスで、うつ病とかそんなレベルではないでしょうとのことだった。ただ、このクリニックは内科である。

その夜、妻はまだ眠れないというので服薬を進めると空気が一変した。妻は激昂し「薬は嫌だと言ってるでしょ!殺す気か!」と。私は「いやクリニックで処方してもらってきたんだから、信頼する先生がくれたんでしょ?大丈夫じゃない?」と。絶対飲まないと怒って2Fの寝室へ上がると、まだ怒りが治らず興奮して「ダメだ、イライラする!出てく!嫌だって言ってるのに!」と。私が制止すると今までみたことがない顔で大泣きした。娘もいつもと違う母親にびっくりし大泣きした。私は妻の背中をさすりながら、「薬は嫌なら飲まなくてもいいよ、一度心療内科のカウンセリングだけでも受けてみたら?」と諭すように語りかけ、何とか落ち着きを取り戻して再度寝室へ上がった。

疲れ切った私と子供達も入浴後別室の寝室へいき、眠ろうとしたころ、妻が「薬飲んでみる」と言いに来た。もはや支離滅裂で意味がわからない状況に自分自身疲労と恐怖でどうしたものか、困惑していた。娘と服薬する薬を確認して睡眠薬を飲んだ。これで少しは静かに眠れるかなと願って私達も眠りについた。

その晩、妻は2〜3時間ほど眠れたようだ。それでも2〜3時間だ。今思い返すとこれも良くなかったのかもしれないが、その日夜中の3時に活動を始めた妻はスマホから鬼滅の刃の音楽を大音量で流し、洗濯物を干していた。私はその騒がしさに目を覚まし「どうした、眠れなかったのか?」と妻に問いかけた。すると「3時間も眠れたよ、凄いでしょ!」と。私は「いやいや、3時間でしょ?もっと眠らないと。この時間に活動しちゃダメだって」と静かな口調で諭すように話したが、妻は「だって元気だもん、眠れたって褒めてくれないの?」と不機嫌になる。私は慌てて否定せずそっかと、言って寝室へ戻った。どうやら真冬の真っ暗な夜中、ゴミ捨てにもいったらしく奇行は目立ち始めていた。

結局発症から正月3が日まで、この洗濯物を干した以外は一切何もせず、三食準備に掃除洗濯すべて私が行い、初めてお酒を一滴も飲まないお正月を過ごす事になった。

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