【ラブホという場所の裏の顔7 「やくざ」という人】

ラブホテルの清掃の物語

おーさんは、すぐに人に奢りたがります。
食事に行っても、何かを買いに行っても、必ずと言っていいほど「俺が出すから、いいよ」と言います。
詰所にも、ことあるごとにお菓子やおつまみを持ってきて、皆にふるまっていました。

私に対しても、仕事の帰りが同じになると、「角ちゃん、とっといいて」といって、1000円を渡そうとします。
私はそういうことは嫌いだったので、「おーさん、もらう理由がないのに貰えませんから、(その1000円)しまってください」といっていました。

おーさんとしては、初めて働いたのがこのラブホテルの清掃なので、どこか自分のプライドが許さないというところと、「自分は、なんであれ堅気として働いてるんだ」という自負が共存している感じがありました。
また、できるだけ堅気の人間と早く仲良くなりたいと思って、気を使っていたのかもしれません。

あるとき、おーさんは私に「明日から2週間休むから。社長の許可も取ってある」といいました。
「何かあるんですか?」と私が聞くと、かつての自分のやくざ仲間の闇金の取り立ての手伝いをするとのことでした。
ちなみに、私はこの数年後、法律事務所で闇金と毎日電話で喧嘩をするようになるのですが、そんなお話は、また別のシリーズで。
私は、おーさんは、このようにかつてのやくざ仲間とつるんで、金もうけをして余裕を得ることが、清掃の仕事との心のバランスをとる方法であったように思っていました。

おーさんの得意な話は、裁判や、刑務所での刑務官との話でした。
裁判では検察官に、「被告人は無為徒食の輩にて、社会にとって百害あって一利なし!」と最終弁論で言われて、背筋が凍ったという話をしていました。
また、刑務所では20歳そこそこの刑務官に「お前、最近目つきがよくなってきたな」と言われて苦笑した話を何度もしていました。

おーさんも多分に漏れず、歯ブラシの柄を、いくつも小さく噛み切って、壁で球形に削ったものを使っていたようです。
これ以上は自粛しますが、奥さんにはすこぶる不評だったようです。

結局私は、おーさんが何の罪で刑務所に入ったのかを聞かず仕舞いで終わったので、詳しいことは知らないままでした。

ただ、おーさんは真剣に「足を洗いたい」と思っていたようで、そのころから色々と努力をしていたようでした。
その話は、このシリーズの最終回でお話ししたいと思います。

ちなみにおーさんは、左足のふくらはぎだけ、黒い線のスジボリでした。
その2週間の休み中に、そのスジボリ部分を仕上げていました。
普通なら私は「入れ墨なんかやめなよ」というところですが、おーさんの全身を見ると、「スジボリ、仕上げた方がいいんじゃないですか?」と言いたくなるような、素晴らしい入れ墨でした。

本日はこれまで。
それでは、また次の機会に。

私の雑文は、以下でまとめて読めますので、ご興味のある方はどうぞ。
https://note.com/sababushi1966
よろしくお願い申し上げます。

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