SaaSでアップグレードを促す機能19選 ~前編~
みなさんB2B SaaSの価格表をまじまじと見たことはありますか?
よく見ると成功しているSaaSの価格表にはEnterpriseプランやBusiness Plus、Advancedなど、いかにも強そうな上位プランが存在しています。
今回はこういった上位プランが、どのように下位プランと差別化しているかを主に機能の観点で深掘りしてきます。
調査する際に参考にしたSaaSは、Slack、Box、Dropbox、Zoom、DocuSign、Confluence、Jira、Hubspot、Salesforce、Datadog、Zendesk、SmartHR、Commune、Zapier、backlog、asana、Wrike、Notion、Airtable、Cloudsignなどなどです。
私の初noteです。どうぞ最後までお付き合いください。
なお、想定よりも内容が多くなりそうでしたので、前編、中編、後編に分けさせていただきます。
自己紹介
まずは簡単に自己紹介させてください。初めまして。SaaS企業でPdM/PMM、一部事業開発を担当している なたん と申します。
元々ビジネスサイド、少しですが経営の経験もあるというバックグラウンドです。
ビジネスサイド寄りに見えますが、コードも多少ですが書けますし、CSの経験もあるので、ビジネス、ユーザー、開発それぞれに対して浅く広く精通している器用貧乏、その中でもビジネス寄りに強みがあるPdM/PMM、という感じで捉えていただければと思います。
そのため、日々の仕事の中では、今後事業をどう伸ばしていくべきか、プロダクトビジョンのあるべき姿、プロダクトポートフォリオはどうあるべきか、あたりを考えていることが多いです。
とはいえ、PdM、PMMとしての経験やスキルはまだまだで、色々と学んでる最中です。Twitterも始めましたので、ぜひ仲良くしてください。
@saasnatanでやってます!
想定している読者
想定している読者としては、今後より事業の成長のために大きな企業と取引がしたい、ARPAを伸ばしたいと考えているSaaS企業の事業責任者やPdM、PMMの方で、そのために実装する機能の優先度をどう付ければ良いか悩んでいる方に見ていただけると嬉しいです。
また、セールス、Customer Successの方などB2BのSaaSに携わる方にもぜひ読んでいただけると嬉しいです。
はじめに
このnoteではプライシング自体 には触れずにに、著名なSaaSがどのように上位プラント下位プランの差別化をしているかを説明していきます。
こういった話題の場合に、どうしても機能自体の話になるのですが、できる限り機能の裏側にある背景やニーズ、及びお客様が何を実現できるようになるか(=アウトカム)まで踏み込めればと考えています。
合わせて私の所感としての難易度と効果についても記載します。
なお、SaaSのプライシング に関する情報は多くの有識者の方が素晴らしい情報を発信してくださっているので、ここでは触れません。
プライシング 参考情報
誰が上位プランを使うのか?
多くのSaaSでEnterpriseやBusiness Plusという名の上位プランを用意しています。では、この上位プランを使う層はどんな層なのでしょうか?
Enterpriseというくらいだからそれは大企業でしょ!という声が聞こえてきそうですが、では大企業が求めるニーズって?
ここを分解するといくつかのキーワードが出てきます。
「セキュリティ」、「他システムの連携」、「ブランディング」、「数と量」、「サポート」、「法令遵守」などなど。
ではなぜ上位プランを購入する企業は「セキュリティ」が必要なのでしょうか?それは実際の買い手と管理者が異なるからだと考えています。
CRMの場合は一般的に営業や営業事務、HRシステムの場合は、人事が導入すします。小さい企業であれば、そのまま管理までも導入担当者が実施することも多いですが、ある一定規模以上の企業の場合、管理するのは情報システム部門ということはよくあります。
本来買い手の導入担当者がそのSaaSに求めていることは、業務効率化などの目的になりますが、情報システム部が求めるのは情報セキュリティをはじめとするガバナンスです。
つまり、必然的に管理する側が求める機能が求められるようになってきます。
あくまで1例ですが、こういったニーズに対応するためにエンタープライズプランが用意されています。
では早速どういった機能で差別化しているか見ていきましょう!
セキュリティ系
1. SSO(難易度:低、 効果:大)
対象SaaS:Slack、Dropbox、Zoom、DocuSign、Hubspot、SmartHR、Commune、Zapier、Asana、Wrike、Notion、Airtable、Cloudsign
まず圧倒的に多い差別化要因としてはSAMLを利用したSSO(シングルサインオン)が挙げられます。
この機能を利用するためには、IDaaSと言われるID管理をするための仕組みを用意する必要がありますが、多くの企業で導入が進んでるという印象があります。
この機能がもたらす価値はIT Adminに対してのIDの統合によるガバナンス、ユーザーにとって複数パスワード管理からの脱却です。
IDを統合管理することにより、ユーザーが退職した場合のSaaSのアカウント消し忘れによる情報漏洩を防ぐこともできますし、また、IDaaS側でのアクセス制御やデバイスの制御をかけることによってそのSaaSを利用可能な場所や端末に制限をかけることができます。
ユーザー側としてもIDaaS側に一度ログインしておけば連携SaaSにシングルサインオンできるので、ユーザー側の体験も向上します。
多くのSaaSで上位プランのみ対応している一方で、SalesforceやBox、Zendeskでは基本のプラン以上で利用可能となっていました。
SmartHRさんはすべてのプランで有償オプションとして提供しているようです。
なお、一般的に導入されているIDaaS製品としては、OktaやOneLogin、国産だとHENNGE OneやTrustLoginが挙げられます。
2. IP制御(難易度:低、 効果:低)
対象SaaS:backlog、Cloudsign等
1に近いのですが、アクセスするIPアドレスを制御するという機能です。この機能がもたらす価値は、アクセス元のIPアドレスを制御することで、情報へのアクセスできる場所を制限することです。
Beforeコロナの時代には、基本的に社員が会社に出社して働くという働き方だったため、会社のIPアドレスからのアクセスを許可しておけば、会社以外からはアクセスさせないといったセキュリティをかけることができ、有効な機能でしたが、今はテレワークが普及し、効果が半減したように思えます。
そのため、backlogもCloudsignも前述のようにSAMLに対応しています。(なお、backlogは別途Nulab Passが必要です)
3. デバイス制御(難易度:高、 効果:中)
対象SaaS:Slack、Box、Dropbox等
こちらも1に近いのですが、アクセスできる端末を制御することで情報へアクセスできるデバイスを制限するという機能です。
管理者がアクセスを許可するという方法、条件を満たしていない端末からのアクセスを遮断するという方法、EMMサービスと連携させる方法と各社実装方法は様々ですが、こちらについても各種OS分の開発が必要になり、開発する際に求められる技術スタックが異なるので、開発する工数の割に与えられる効果が限定的なのではないかというのが私の所感です。
(もちろんプロダクトによりますが)私なら1で十分セキュリティが担保できると考え、2と3は実装しない判断をします。
4. DLP(難易度:高、 効果:中)
対象SaaS:Slack、Box等
DLPとはData Leak PreventionやData Loss Preventionの略で、そのシステム上でやりとりされる情報が外部に漏れないようにするための機能です。
高度なセキュリティが求められる場合に必要とされるケースがありますが、これも完全にプロダクトの性質によるため、機密情報を扱うケースが考えられる場合は検討の余地があるかなという感じです。
そのため、SlackやBoxなど様々なコンテンツを扱うサービスであれば必要性はあると考えておりますが、それ以外の性質のものではあまり必要性は感じません。
5. 複雑な管理者権限(難易度:中、 効果:高)
対象SaaS:Box、Dropbox、Zendesk、Zapier、Wrike、Notion等
管理者が多岐に渡るときに管理業務の一部を移譲したいという要望は特に大きな企業で発生します。
全権限を渡すと見られるとまずいデータが見られてしまったり、削除すべきでないデータを削除されたりといったことが考えられるので、細かく管理者権限を設定したいというニーズに対応するための機能です。
ホールディングス制の会社で一つのシステムを共有していて、各社の管理者で管理してほしい、ただし他社のデータは見せたくない、といった要望が大きめな会社では出てくるので、最初から大企業を狙うのであれば最初のプロダクト設計から考えておいても良い機能だと考えています。
6. 操作ログや監査ログ(難易度:低、 効果:高)
対象SaaS:Slack、Box、Dropbox、Confluence、Jira、Zendesk、Asana、Wrike、Cloudsign
5の考え方に近いのですが、誰がどんな操作をしたかを管理するための機能です。
目的は何かあったときに確認するため、その一点のみで、これ自体が何か業務の効率化等に貢献することはないですが、あくまで保険の一つとして求められる機能だと考えています。
まとめ
今回はセキュリティ周りで差別化できる機能をメインで記載しました。次回からは他システム連携など、他の差別化要素をメインで取り上げていきます。
少しでも参考になりましたらリアクションいただけると嬉しいです。
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