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SAAIのアート

「最初に読むSAAI note」第6弾、今回はSAAIのアートについてご紹介します。「思いつきをカタチに」様々な新しいアイディアを生み出す場・SAAIには、「Kitchen&Dining」と「Tuning Room」にアーティスト田中紗樹さんの作品があります。空間とアートに込められた想いについてインタビューを行いました。

①プロフィール


田中紗樹氏
サンフランシスコ生まれ、東京在住。女子美術大学油画科を卒業した後、「日常を移動させる」をコンセプトに、旅×アートを切り口として作家活動を展開している。

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*撮影:TATSU

②ルーツ~「旅」について


サンフランシスコで生まれ、その後香港で幼少を過ごす中で、様々な人種や文化の違いを経験してきました。人々の暮らし方や異なる文化にとても興味を持っています。あらゆる場所を旅して人々との交流を経て、その場に合うような絵を残す事が面白いと思っています。人々の日常に入り込んで、私が持ち込んだ「ちょっといつもと違うもの」がその場になじんでいく、日常と非日常の融合していく変化を楽しんでいます。


③日常を移動させる


安定することが怖いと思っていて。いつも新しいものを探していたい。日常と違う世界へ行けるのは「旅」。私にとっての旅とは「自分の日常」を「他人の日常」に移動させる事、そこで自分との異なりに気づいて何かが生まれます。旅先で誰かの日常を過ごしていくうちに、双方向に起きる意識の交わりが面白いんです。自分が表現したものに対してその国や地域の人たちの反応が楽しくて、今まであらゆる場所の日常を間借りさせてもらいました。インドやタイ、イギリス、中国、アメリカ、インドネシア、スロベニア、イタリアなどたくさんの場所に作品を残しました。どの国も文化や気候など全て異なるので全く違う日常が待っているんです。旅先では絵を描くことがコミュニケーションの手段みたいな部分もあるんですね。

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*スロベニア ・トレイラーハウスにペイント

④空間に絵を残す

様々な場所を訪れてきましたが、そこにいる人の気持ちの質みたいなものがあって。私が空間で感じたことと、そこにいる人たちが持っているものと混ぜ合わせてできるコラボレーションが壁画だったりします。現場に人が居れば共に過ごした時間までもが作品に落とし込まれる。時には人に手伝ってもらいながら。時には一緒にお茶を飲み語らいながら出来上がる作品。何もない空間から作品が生まれる事で、もともといる人たちに新しい発見があったり気持ちの流れが変わったり、そういうきっかけになったらいいと思っています。私は空間を作ることはできないけれど、空間の中に作品を残すことで、描いた空間全体が景色として作品になると考えるのがすごく面白い。

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*イタリア・漆喰の壁に漆喰でペイント


⑤SAAIという空間

よくあるワーキングシェアスペースとは違う。街で埋もれてしまっている面白いものをもっと引き上げるとか、アイディアの素をもっと活用したり、いろんな人に広めていけるような場所ですね。とにかくここでは色々なものが共有され続け、動いてる空間であってほしいなって思いました。『異なり』を感じることで色んなものを生む旅先での現象と同じですが、ここSAAIでも、違う業種や立場の人が交流することによって、様々なアイディアが生まれ、コミュニケーションの交差する場所であることが大事だと思いました。

⑥「Kitchen&Dining」のテーマ


特に壁画を描いたあのキッチンはコーヒーマシンがあったりして常に人が交流する場所。この絵の躍動感によって人との出会いとか発想が膨れ上がり大きなうねりとなって欲しいと思いました。SAAIで生まれた面白いことや、発案したアイディアが街に飛び出して、人との繋がりが拡散していく。それはどういう形でもいいし、どういう色でもいいよという想いで、絵にはいろんな色を入れていろんな動きをしています。この場所にはダイナミックさやスピード感がとても大事だと思い、制作中はそれが伝わる絵になるよう意識して仕上げました。
もともとは奥の壁のみ描く予定だったんです。描いている時、遠く離れて絵を見てみると、大きなキッチンシンクの存在感が凄くて絵が小さく見えました。遠くから見たときもシンクに負けないような飛び出してくるエネルギー感が欲しいと思ったんです。担当の方に聞いたら「思う存分好きに描いてください」と言って下さり気づいたらどんどん絵が広がっていきました。左側の壁に始まり、ついには天井にも及びました。結果的にはSAAIらしい自由で枠にハマらない絵が完成しました。

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*撮影:TATSU

⑦「Tuning Room」のテーマ


こちらはキッチンとは場所の持つコンセプトが全く異なります。かなり閉じた空間で自分の内面を深めたり集中する部屋 。内に閉じていくというのは開いていくことと表裏一体。自分の持ってる二面性みたいな、両極を一緒に見るというような感覚で2つ並べました。
こちらは、和紙に木版の技法で描いています。まず木を好きな形にカットし、彫刻刀で線を彫り込み、そこに絵の具を塗り和紙に刷り込みます。とにかく時間がかかる手法なんですが、時間をかけて対話するTuning Roomのリズムに合っていると思って。静かにゆっくり自分の思考とリンクさせていく動きをイメージしました。自分の中でループしながら解決策を見つけられたり、ゼロ地点に戻れるような場所になればいいなと思いました。

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⑧新しいものを生み出すアドバイス

とにかく手元にあるものをいじることかなって思いますね。なんでもないと思っていたものが実は面白いものに変化したりとか。なぜか自分がいいなとか、気持ちいいとか好きとか、そういう良い感情が動くものって割と共通点があるんですよね。みんな今まで生きてきた中で経験や人・モノから多くのインスピレーションを受けているんですが、「好きの根源」がどこに由来するのかを探るのは面白いです。それを知ると、次のモノづくりの重要なヒントになる。
以前、企業向けにワークショップを行ったことがあるのですが、やっぱり皆さん絵を描く=うまくなきゃいけない、みたいな感覚でいるんですよ。それを取っ払うとその人の好みがよく出るんです。その「上手い下手で判断しない感覚」に寄り添って描いてもらうと、ものすごい個性が出たのです。人にどう思われるかではなく、自分の感性を深めていくとそこから生み出されるものがある。自分の表現っていうのは「自分の濃度」を上げたところに生まれるんだっていうことを皆さんに知っていただきたいなと思います。
ぜひ実際にSAAIを訪れ、作品をご覧ください!

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*撮影:TATSU